古生物学者と聞いて、まず思い浮かべるのは
「恐竜の化石を発掘して研究してる人」ですよね?

ところが、古生物学者なのになぜか、
命を終えたクジラを海底に埋め、
海にもぐって観察している人がいるという。
金沢大学のロバート・ジェンキンズさんです。

ときには、海底から舞いあがる
細かい泥に視界をふさがれながら、
ときには、謎のクジラ掘り返し犯に
実験を邪魔されながら。

アイデア勝負、失敗上等で
笑いのたえないロバート研究室の海中調査に、
ほぼ日の學校チームとライター江口が密着しました。

取材・執筆:江口絵理

>ロバート・ジェンキンズさんプロフィール

ロバート・ジェンキンズ

古生物学者。金沢大学准教授。
研究対象は深海底から湧き出る冷泉や熱水に群がる、生物の進化など。
「竜骨群集」の研究では世界的に知られる。
『コーウェン地球生命史』(東京化学同人)の監訳や、『化石の探偵術』 (ワニブックスP)などの作品で監修を担当。生きもの好きが集うイベント「博物ふぇすてぃばる!」での講演は毎年満席以上の人気を集める。

>江口絵理さんプロフィール

江口絵理(えぐち・えり)

動物ライター、児童書作家。
日本の出版社を退職後、イギリスの出版社でのインターンを経てフリーランスに。『ゆらゆらチンアナゴ』、『アマミホシゾラフグ』(以上ほるぶ出版)、『ボノボ』(そうえん社)などの著書がある。
最新刊の『クジラがしんだら』(かわさきしゅんいち/絵、藤原義弘/監修、童心社)は第56回講談社絵本賞をはじめ、現時点で10を超える賞を受賞。

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ロバートさんは、
クジラの骨が化石になるところを見てみたい、と
目を輝かせています。
それにしても、海の底に埋めてみよう、なんて
そうそう思いつくアイデアではありません。
  
なんでそんなことを始めたのか、
尋ねてみました。
なんと、きっかけは
能登の地震と津波だったんだそうです。
江口
そもそも、クジラを海底下に埋めて
化石になる様子を調べようと思ったのは
なぜなんですか?
ロバート
もともとは、クジラの骨を浅い海に沈めて
「鯨骨生物群集実験」をしていたんです。
江口
鯨骨生物群集──命を終えて海に沈んだクジラに
集まってくる生物たちのことですね。
とくに食べ物の少ない深海では、
大きなクジラの体は深海生物たちの
オアシスのような存在で、大にぎわいになる。
ロバート
中には、クジラに強く依存している生き物もいます。
でも、古生物学者の視点から見ると、
クジラが地球上に出現する前、
彼らはどうしていたんだろう?ということが気になります。
江口
たしかに。
恐竜の時代にはいなかったのかな?
ロバート
でしょう? 
実は20年前、僕の指導教官だった先生が
首長竜(クビナガリュウ)の化石を調べていたら、
骨の周りに、小さな巻貝の殻が
たくさんあることに気づいて
僕に連絡をくれたんです。
それをよく調べてみたら──
首長竜の骨を利用して生きていたらしい痕跡が
いくつも見つかったんです! 
現代の鯨骨同様、はるか昔にも
首長竜の骨に集まる生きものたちが存在していた。
それは、世界で初めての発見でした。
あるとき、SNSでその話をしたら、
小説家の朱野帰子さんがリプライで「竜骨生物群集ですね」と。

江口
竜骨……! 
ファンタジー小説が生まれそうな
ネーミングです。
ロバート
いい呼び方でしょう? 
ただ、謎はまだ残っている。
首長竜が絶滅したのは、
地球に巨大隕石が衝突して地球の気候が激変した
6600万年前。
でもクジラの出現は5000万年前なんです。
1600万の間、彼らは何に依存していたのか。
江口
魚とか?
ロバート
魚の骨と、陸上で進化してから海に戻った生き物の骨は
だいぶ違うんですよね。
竜骨の生きものたちは、首長竜同様に、
陸から海へと戻った大きな生きものに依存して
生き残ったんだと思います。
そこで思いついたのがウミガメです。
ウミガメは首長竜の時代から
現代まで生き延びている。
江口
生きものたちは
首長竜→ウミガメ→クジラ、
と乗り継いできたと。
ロバート
そうです。
そこでまずウミガメ遺骸を九十九湾に沈め、
自分でもぐって様子を観察しようと考えました。
そのときはダイビングのライセンスすら
もってなかったんだけど(笑)。
で、参考までに、浅い海に沈んだ
クジラ遺骸に集まる生物のことを調べたら、
そんな研究自体がほとんどない。
深い海はもちろん、
浅い海のこともわかっていなかったのです。
ならば、ウミガメと一緒にクジラも沈めてみよう、
と思ったわけです。
江口
ウミガメには、首長竜や
深海のクジラに集まる生物たちは
寄ってきましたか?
ロバート
いたんです! 
ウミガメは恐竜の時代とクジラ出現までの
空白を埋めうる存在だったことがわかりました。
江口
すごい、着々と成果が。
ロバート
これを亀骨生物群集と呼ぶことにしました。
クジラのほうにもさまざまな生物が寄ってきて、
にぎわいを見せていました。
ところが、2024年に大地震と津波が能登半島を襲いました。
江口
はい、記憶もまだ生々しいです。
ロバート
この臨海実験施設も実験棟の地盤の一部が
津波にもっていかれて、建物の先端が
宙に浮いた状態になりましたし、
地震直前にここに停めた車は、道路が崩れてしまって
それ以来出すことができずにいます。
江口
実験棟の前の大きな松の木が、
海に向かってばったり倒れていましたよね‥‥。

ロバート
その日、僕はここにいなかったんですが、
近隣の方は実験施設の宿泊棟に避難されました。
高台にあって無事だったのです。
皆さんご不安だったと思いますが、
利用していただけて本当によかったです。
その後はしばらく断水なども続き、
被災の爪痕はいまも色濃く残っています。
江口
海の中も大変なことになっていたでしょうね。
ロバート
実は東日本大震災が起きた2011年3月、
僕は東京大学大気海洋研究所のプロジェクトで、
東北の海中の調査に行くはずだったんです。
ところが、地震後に原発事故が発生して、
危険だということでその後4カ月も行けなかった。
海の中でこういうときに何が起きるか、
すぐに調べないとわからなくなっちゃうことも
たくさんあるのに。
江口
でも今回は、ロバートさん自身が実験している本拠地で
地震と津波が起きた。
ロバート
そう、今度こそすぐに行かなきゃ!と思いました。
それでも10日後でしたが。
江口
地震から2年が経つ今ですら
道路はまだ分断されているのですから、
直後は現地に入るだけでも大変だったでしょうね。
ロバート
そうですね、
それに被災している方がたくさんいるわけですから、
調査することにためらいがなかったわけではありません。
でも地元の方と話したら、
「ぜひやってほしい、海で何が起きているのか
私たちも知りたい」と言ってくれたんです。
江口
そうだったんですね。
ロバート
さっそくもぐってみたら、
海底には、これまでにはなかった
大量の石がごろごろと山脈状に連なっていました。
おそらく地震動で起きた崖崩れで
石が大量に海になだれおち、それを津波が沖にむかって
ひきずっていったのだと思います。

△地震と津波によって海底に作られた石の山脈。高さ3メートルに及ぶところもある。 △地震と津波によって海底に作られた石の山脈。高さ3メートルに及ぶところもある。

江口
そんな様子じゃ、ウミガメはもちろん、クジラの骨も……。
ロバート
ああ、もう見つけようがないなと
最初は諦めそうになりました。
でもしばらくすると、灰色の石とは違う、
まっしろな物体が見えてきたんです。
それがクジラの骨でした。
いったん気づくと、あ、あっちにも、こっちにも、
という感じで、転々と落ちているのが見つかって。
江口
おお、感動しますね。
ロバート
まるで発光しているみたいに見えました。
おもしろいのは、見つかった骨はすべて、
石の山脈沿いにあったこと。
つまり、津波は海中にあったものを全部引き寄せ、
まとめて一方向にひきずっていったんだ
ということがわかりました。

(つづきます!)

2026-07-15-WED

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  • 「博物ふぇすてぃばる!2026」で
    ロバートさんの講演が聞けます!

    最新の講演会のテーマはクジラから一転、深海魚です。
    ご覧下さい、このインパクト抜群なビジュアル。
    こちらは「ホウライエソ」という魚だそうで、
    その牙は、魚類史上最大級!

    なぜホウライエソの牙はこんなに長くなったのか。
    その牙で獲物をどうやって捕らえるのか。
    ロバートさんが化石を通して、
    ホウライエソのユニークな進化について
    教えてくれますよ。

    こちらの講演は知る人ぞ知る、
    自然科学のおもしろイベント
    「博物ふぇすてぃばる!」の中で行われます。
    この講演のための事前申込みや別料金は、
    必要ないそうです。
    ぜひお越しください〜!

    ◆「化石から迫る!深海魚ホウライエソの進化」
    7月20日(月・祝)13時〜13時30分
    東京ビッグサイト 南1ホール
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    ◆博物ふぇすてぃばる!2026
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