「東京糸井重里事務所」時代から
何十年も「社長」をつとめた糸井重里が、
次の旗手に役割を渡すことにしました。
新しい社長は、ほぼ日黎明期から在籍した、
みんなが「あやさん」と呼ぶ小泉絢子です。
糸井は会長となりました。
どうしていま? これからどうなっていく?
ふたりに訊いてみました。
インタビュアーはほぼ日の菅野です。

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第3回 黒蜜をかける

小泉
いろんなところで私は
「ほぼ日はもったいない」と言われるんです。
──
具体的にどういうところでしょうか。

小泉
すこし前までは副社長でしたが、
私からすると、いままでうちの経営は
どちらかといえば堅実にやってきました。
これからも変わらず、その基本姿勢を貫くと思います。
けれども私たち、
もしかしたらとんでもないことをしてるんじゃないか、
と思うことがあります。
むしろ、私はそうだと捉えているんです。
これまで、自分たちが
知らず知らずに取ってきた方針が、
もしかしたらちょっとだけスタンダードに
なっているのかもしれない、
という感覚はありませんか?
──
私も長くほぼ日にいるので、
よくわからなくなっているのですが、
たとえば、当時はフラットな組織って
とてもめずらしかったけど、
いまはそうじゃないですね。
糸井
冷静になって見ると、
そんなことが少しずつある気がします。
自分たちは「そんなつもりでは」と思いますが、
ぼくも外の方々からよく言われて気づく。
──
組織づくりも考え方も
風変わりだったかもしれないけど、
それがひとつのモデルとして
成り立ちつつあるんですね。
そして、いまほぼ日手帳は
どんどん世界に渡っていて。
小泉
アメリカのみなさんが、
実際に私たちの手帳を使ってくださって
「HOBONICHIいい!」と
好感を持ってくださっている。
それはひしひしと、伝わってきています。
──
英語のメールがすごく増えています。
小泉
しかし、私たちはそもそも
「手帳の会社」ではないですよね。
──
そうですね‥‥、もともとは、
ホームページを作って記事を書いて、
服や手帳、ハラマキを販売しはじめた‥‥。
小泉
さらに「生活のたのしみ展」のような
イベントを開催したり、
「ほぼ日の學校」に代表される
動画コンテンツを作ったりしてきました。
しかし、たくさんいる海外のお客さまは、いま
「手帳」でしか私たちとの接点がない状態です。
これがシンプルにもったいない。
あんなふうにほぼ日手帳を思ってくれる方々なら、
私たちのほかのコンテンツも
好きになってくださると思うんですよ。
──
わぁ、楽しんでくれるかなぁ。
小泉
そう思います。
そのチャレンジは、ある意味、
やればすぐできることでもある。
1歩1歩着実にやればできることって、
もう開拓ができてる状態なんです。
糸井
そうだね。
やればできること、熟していることが、
じつはたくさんあるんだよ。

──
糸井さんは社長から会長になられましたが、
会長でありつつも「クリエイティブの選手になる」と
おっしゃっています。
マンガ部をはじめ、いますごくお忙しくないですか。
糸井
はい、疲れてます(笑)。
若いときに選手をやるのって疲れないんですよ。
なぜかというと、勝手に好きでやってるから。
しかし「経営チームの一員でありながら選手」
というのはね、簡単じゃないんだよなぁ。
小泉
大変だと思います。
糸井
前から言っていることだけど、
「アイディアしか稼がせてくれない」
というのがぼくの考えです。
でも、アイディアをひとつ持っているだけでは
ものごとは進んでいかないということも事実。
さっきもちょっと言ったけど、
「アイディアがあったらこうしよう」という
インフラを整えていくのが経営です。
その両方に足を入れている状態は、
けっこうきついんです。
ブレーキとアクセルの両方を踏んじゃったりして。
──
でも、社長時代にはアクセルは踏めなかったから、
そこからは解放されましたね。
糸井
そうね。勝手なことを言うのが
夢だったから、いいの。
でもたいへん疲れます。
思うようにいかないなぁ。
小泉
やってみてはじめてわかることですね。
──
糸井さんもそうとう大変ですが、
やっぱりみんなはあやちゃんのことを心配しています。
社内の経理、Hさんからあやちゃんに、
メッセージいただいてます。
「体に気をつけてください。
もうほんとにそればかりです」
糸井
俺には言わなかったな。
小泉
いやいやいや(笑)。
糸井
俺にも言ってほしい。
小泉
体はほんとに基本ですね。
なにごとに対しても、やる気が出るからです。
これはみなさんも同じです。
健康で楽しくいてほしい。
──
社長も会長もみんなも、お互いにですね。
小泉
今回、私が社長になるにあたって糸井さんが
「私ひとりに引き継いだわけじゃないよ」
と言ってくださいました。
「全員社長だ、これからは」と。
だから私は「誰にでも相談できる」と思えました。
負荷がかかってるという自覚はありません。
糸井
それはぼく自身がそうしてたからですよ。
これまで、得意じゃないところは
みんなに相談して決めていったから。

──
ほぼ日のそれぞれの部署に
その考えは行き渡っていますね。
得意じゃないことは、誰かに頼って相談すればいい。
糸井
そうやって社長として全員と
長くつきあってきたから、
当然、気づくことってあるんです。
だから、これからもみんなが
力を発揮できるような環境を作るようにしたい。
小泉
うちの会社、みなさんが選手です。
苦手なことをやってもらう必要はない。
みなさんが力を出して伸びていく、
それを、野球で言えば
「フロント側」にまわって考えたいと、
今回立候補にあたって純粋に思いました。
糸井さんはよく「優勝」とおっしゃいますよね。
糸井
優勝ねぇ。したいねぇ。
そこのなんかこう、なんて言うんだろう、
野心? 
──
野心。
糸井
そこがないと、人は、
黒蜜のかかってない
葛餅みたいになっちゃうんだよ。
──
味がしない、葛餅‥‥。
小泉
たとえば、手帳が年間販売部数
100万部に到達しましたよね。
──
はい、ミリオンセラー、すごいことです。
小泉
私はじつは、それに満足はしていません。
100万部については
「あ、こういうものなんだ」と思ってます。
そもそも手帳は初年度1万部からスタートしまして。
糸井
あやちゃん、そこから知ってるからね。
小泉
当時「何部にしましょう」と糸井さんに訊くと
「1101だ」とおっしゃって(笑)。
1101だと少ないから11000だ、ということで
部数を決めました。
そんなスタートだったので、
100万部なんて遠いと思ってた。
だけどいまは、100万部はゴールとは思えない。
もっと先があると自然に思えます。
──
おお、あやちゃんの葛餅には黒蜜がかかってますね。
糸井
大谷翔平選手だって、
リハビリのあと、まだ速球を投げちゃいけないとき、
最高時速を投げたでしょう。
──
はい、やってましたね。
糸井
大谷選手はインタビューで
「趣味としての野球は消したくない」と
答えていました。
自分の趣味の部分をなおざりにしたくない、と。
小泉
わぁ、カッコいいな。
糸井
トレーナーとさんざん相談してたはずだし、
監督からも「ほんとうは怒らなきゃいけない」って
言われてました。
でも、大谷選手は
趣味の部分を捨てたくない。
それは野心という言い方とは別だけど、
試合で「負けたくない」とは思いますよね。
──
そうですね、わかります。
糸井
うち、ちょっとね、
味のない葛餅みたいに
思われてるふしがあるんですよ。
でもやっぱり、黒蜜をかけるのが大事。

──
じつはみんな、ちょっとギラッとしてますもんね。
糸井
それがないとつまらないんです。

(明日に続きます)

2026-03-21-SAT

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