
南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター
株式会社ほぼ日会長
雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。
南伸坊(みなみしんぼう)
イラストレーター
エッセイスト
蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。
篠原勝之(しのはらかつゆき)
ゲージツ家
作家
鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。
- 篠原
- それで、自分で抜いたあと、
ずーっと奥歯がないまま生きてたんだ。
そしたらほら、俺、小説(『骨風』)で、
泉鏡花賞をとっただろう? それで儲かった。
- 糸井
- 金が入った?
- 篠原
- ウン。あれで100万ぐらい入った。
あの100万でね、奥歯を入れた。
- 南
- 役立てたんだね。
- 篠原
- そうなんだよ。
俺、30代で奥歯を自分で抜いて、
奥歯がないまま、ずーっと歳を取って、
そのままじじいになったら、
奥歯がないとものをよく噛み砕けないから、
だんだん調子が悪くなった。
- 糸井
- ああー、そういうことはあるだろうね。
- 篠原
- で、いよいよこれは歯を入れなきゃな、
っていうときに、だよ。
- 南
- 泉鏡花賞。
- 糸井
- 泉鏡花さんのおかげで。
- 篠原
- そうなんだよ。だから、
金沢で受賞の講演会やったときも、最後に、
「泉鏡花さん、ありがとう!」
つってね、しめたの。
- 糸井
- 歯が入ったお礼を。
- 篠原
- そうそうそう。
歯が入るの、うれしくてさ。
- 南
- ふふふふふ。
- 糸井
- そういえば、宮沢賢治賞っていうのを
吉本隆明さんがもらったときも、
「賞金もらえるから行かなきゃ」って言って、
めずらしく車椅子で出かけて行ってた。
- 篠原
- うん。その気持ちはわかるな。
あの思想界の巨人と、
俺みたいなインチキを並べちゃいかんが。
- 南
- でも、うれしいのは同じだ。
- 糸井
- そういうときの賞金って、
やっぱりあったほうがいいんだね。
- 篠原
- それで、賞をもらったときにね、
いろんなやつがお祝いに来たんだ。
東京のアングラ時代の知り合いとか、
そういうのがみんな来た。
で、賞金もあるから、汽車賃も宿賃も、
ぜんぶ俺が払って、宴会のお金も出した。
そしたら3分の1くらい、すぐなくなった。
- 南
- みんなからあてにされてたんだ。
- 篠原
- そう。で、残りで奥歯を入れた。
- 糸井
- 残っててよかったね。
- 篠原
- まあ、歯のぶんは取ってあった。
だからこの歯にはね、
泉鏡花さんが入ってるんだ。
- 糸井
- 彫っときたいね。
鏡花の「鏡」の字ぐらいを、歯に。
- 南
- 奥歯は、何本入れたの?
- 篠原
- 2本。
- 南
- じゃあ、「鏡」「花」と彫れるね。
- 篠原
- そうだな、1本ずつな。
- 一同
- (笑)
- 篠原
- でも、そのとき入れた歯はね、
いま、ほんとに助かってんだよ。
- 糸井
- いまじゃもう、バリバリだ。
- 篠原
- 噛む噛む噛む、なんでも噛んじゃう。
- 糸井
- なんでも噛んじゃう(笑)。
- 南
- ははははは。
(まだまだ続きますとも)
2026-03-03-TUE
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写真・山口靖雄(MountainDonuts)
これまでの「黄昏」シリーズ
黄昏
黄昏放談
黄昏 日光・東北編
黄昏 あちこち編
黄昏 スカート編
黄昏 ブータン編






