南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。

>糸井重里

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糸井重里(いといしげさと)

コピーライター
株式会社ほぼ日会長

雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。

>南伸坊

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南伸坊(みなみしんぼう)

イラストレーター
エッセイスト

蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。

>篠原勝之

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篠原勝之(しのはらかつゆき)

ゲージツ家
作家

鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。

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第10回 合気道の達人に投げられて


ここは、もともと、
どういうおうちだったんですか?
篠原
農家だよ。
俺、奈良に住むって言ったらね、
奈良県庁で役人やってる友だちがいて、
その人が探してくれた。

糸井
いい物件ありますよ、みたいな。
篠原
うん。でも、けっこう古い家なんだよ。
まあ、古いったってさ。
奈良時代ではない。
篠原
昭和だよ、昭和(笑)。
でも、きちんとしてるね。
糸井
この家は馬は飼ってなかったの?
篠原
昔、このあたりでは飼ってただよ。
ここんちが飼ってたかどうかは知らないけど、
構造的にはそうなんだよな。
糸井
ああ、そうだよね。
妙な中庭みたいなところがあるものね。
まえに伸坊と行ったブータンで、
馬と一緒に暮らしてる家があったよね。

ああ、あったね。
あと、遠野にも馬小屋があった。
糸井
そうか、あれも「黄昏」の企画だった。
あの旅も、なにがおもしろいんだか
わかんないけど、おもしろかったね。
ははははは。
篠原
まあ、この家も、
できたばっかりのころは馬もいたかもしれないな。
糸井
ここを県庁の人が紹介してくれたんだね。
篠原
紹介してくれた。空き家だった。
糸井
じゃ、すぐに入れてよかったね。
篠原
いや、そうでもねえんだよ。
空いてる家はいくつもあるんだけどね、
このへんの人、簡単には貸さんだよ。
糸井
ああー。
篠原
祖先から受け継いでるもんだから、ってね。
まあ、それは山梨も一緒。
いくら空き家になってても、簡単には貸さんだよ。
だから、けっこうね、はじめは
貸さないって言ってたんだけど、粘っただよ。

糸井
粘った。
篠原
何回か通ってさ、
「俺、悪い人じゃないぞ」みたいなことをね、
ちゃんと説明して。
糸井
徳のあるところを見せて。
篠原
そうそうそう、徳をね(笑)。
大事だよ、徳!
うん、大事だ。
篠原
ほら、昔ね、塩田剛三っていう、
合気道のすごい人がいただろう?
糸井
知ってます、知ってます。
篠原
あの方と俺、しゃべったことあるだよ。
すごいだよ、あの人は。
糸井
あれだろ? 手をこうやると、
大男もすっ飛んでっちゃう。
篠原
そうそうそう、俺も飛ばされたんだよ。
おお。
篠原
こんな小さい人だよ、剛三さんは。
150センチちょっとぐらい。
でも、「ふっ」と触られたら、
俺がひっくり返っちゃった。
投げ飛ばされた?
篠原
そう。なんかね、あの、枯れ木みたいな人がさ、
「どっからでもかかってきなさい」って言うんだ。
じゃあ、後ろから行きます、って言って、
後ろから、「ヤァー!」って行ったら、
なんか、寸前で、あの人かわしたんだな。
かわして、ヒュッとどっかつかまれたんだよ。
そしたらもう俺、投げ飛ばされてて、
バタンとひっくり返ってた。

糸井
いままでにそんな経験はなかった?
篠原
ない、ない。
そもそもどういう場だったの?
篠原
もともとは、対談だったんだよ。
「どうやったら強くなるのか」っていうテーマで。
で、剛三さんの道場に行って、
そうやってものの見事に投げ飛ばされたあと、
「どうしたら強くなりますか?」って聞いたんだよ。
そしたら「それは負けないことです」って言うんだ。
負けないことっていわれても、
どうすりゃいいんだろうと思ってさ、
「どうしたら負けないようになりますか?」
って聞いたら、
「それは戦わないことです」って言うんだよ。
うん。
糸井
負けないね、たしかに。
篠原
な、すごいだろ。戦わないって。
でも、悪いやつとかいっぱいいるし、
戦わないわけにもいかないだろうから、
やっぱり強くなりたいとか言うとね、
「いやいや、そういうことではない」と。
一番は戦わないこと。そのためには
「徳を積むことだ」って言うんだよ。
徳を積むことによって、相手から
戦いたいっていう気持ちをなくさせるんだ、と。

ああー、なるほど。
篠原
そう、俺もなるほどと思ってさ。
よし、徳を積もうと思って。
俺、それから穏やかぁな人に
なっていったんだよ。
糸井
本当に強い人から言われたから、
当時のクマちゃんにも響いたわけだね。
篠原
そうそうそう。
そのおかげで、この家も貸してもらえた。
篠原
そういうことなんだよなあ。
おもしれぇな、そういうのは。

(連載10回を迎えましたが、まだまだ続きます)

2026-03-06-FRI

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  • 写真・山口靖雄(MountainDonuts

    これまでの「黄昏」シリーズ

    黄昏

    黄昏放談

    黄昏 日光・東北編

    黄昏 あちこち編

    黄昏 スカート編

    黄昏 ブータン編