第5回 我々の祖先。

糸井
カマドウマも、も、
みうらの仕事はぜんぶ、
「ここまで拾うのか!」ということが
重要になっているよね。
みうら
糸井さんが、ぼくの仕事に関して
「みうらが拾わなくなったら、ただの風景に戻る」
とおっしゃってるのを聞いて、なるほどと思いました。
それは、ぼくの仕事をあらわす
すべてだなと思います。
糸井
そうなんだよね。
拾うから「何か」になるんであって。
みうら
崖は、いじらないと単に崖であるだけですからね。
糸井
みうらが帰ったら、崖はただの崖だよ。
みうら
グッとくるグッドクリフだ、
なんて言ってるあいだは少なくとも
ただの崖じゃなくなります。
‥‥いま思い出したんですが、
ぼくが崖ブームについて話している頃に、
たまたま横尾さんにお会いすることがありまして。
糸井
ええ、横尾忠則さん。
みうら
横尾さんがぼくに、こうおっしゃったんです。

「昨日ね、『はなまるマーケット』っていうテレビを
 見てたんだけど、君、出てたね」
「あ、はい、出していただきました」
「君、崖ブームとか言ってるらしいね。
 あれってぼくの滝ブームから
 水を取っただけじゃない?」
糸井
わはははは。
みうら
「いや、違いますけど‥‥」
「いやいや、君は滝から水を取ったんでしょう?」
「まぁ、そういうことになりますかねぇ」
って(笑)。
糸井
横尾さんはやっぱり、
ぼくにとってもみうらにとっても、
先祖だよね。
みうら
マイブームって言葉を思いついたとき、
浮かんできたのは横尾さんでしたから。
糸井
あの人が、北京原人だとしたら、
ぼくらがそのうしろに控えています。
みうら
はい、もちろんそうです。
だから崖ブームも
滝から水を抜いただけです(笑)。
糸井
横尾さんは、いまも昔も
同じように天才です。
ふつうは、天才であっても、
年をとると角が取れたり、風化していって
違うものになっていきます。
しかし、横尾さんのあの生々しい天才ぶりには、
やっぱり感心します。

予言しますが、
我々や、みなさんや、
「この人はすごい人だ」と言われている人たちが
滅んで忘れ去られても、
横尾忠則は30世紀になっても生きてます。
みうら
ええ、絶対そうでしょうね。

このあいだ、川崎の美術館で
横尾忠則展が開かれたときに
トークゲストとして呼んでいただいたんです。
「ああ、ぜひとも行きます」とお応えして
予定どおり美術館に行きました。
そしたら、当日になって突然、
「ぼくは最近、トークショーが苦手なんで
 君ひとりでやってくれ」
と言われまして(笑)。
糸井
わはははは。
みうら
すでにお客さんが入ってて、
「ぼくはとりあえずいちばん前に座ってるから、
 ここに来てることだけは言ってもいいよ」
‥‥って、おっしゃって(笑)。
糸井
自分の展覧会なのに。
みうら
そうなんです。
横尾さんの展覧会で
ぼくが横尾さんを前にトークしました。
糸井
まぁ、来てただけ
ましなぐらいだよね。
みうら
いやぁ、異常に緊張しました。

ずいぶん前、横尾さんはUFOの話を
ひんぱんになさっていた時期がありました。
「UFOが来てる」「金星人がいる」
と、いつもおっしゃってたし、
そういうも書いていらっしゃいます。
絵やデザインの中に円盤がバンバン飛んでました。
で、その金星人の話を
別の機会にたまたまお会いした楽屋で、
ちょっとしたんですよ。

「金星人とはまだお会いになってるんですか」

そう訊ねたら、横尾さんは
「古いね、君は!」
って(笑)。
宇宙人に「古い」「新しい」があるんだ‥‥
と、そのとき思いました。
会場
(笑)
糸井
横尾さんの文脈からすれば、
「まだそんなこと」という話だし、
しかも、金星人は別に普通だから
「わざわざ訊くのはおかしいよ」と
思っているに違いない。
みうら
つまらないことを聞いて
不覚でした。
糸井
横尾さんといえば、前に、ある大学で
学生作品の審査会があったんだよ。
横尾さんやぼく、
いろんな人が集まって審査しました。
一次審査が終わって、昼ごはん食べてるときに
ニコニコしながら
「あんまりおもしろくないね」としゃべってて、
そう言ってるうちにどんどん
ほんとうにおもしろくないと
思っちゃったらしくて、
「帰る」って、帰っちゃった(笑)。
横尾さんがメインの審査員だったのに。

みんなは「帰っちゃった」と驚いていたけど、
ぼくは、そういうことはありうると思った。
あれは素敵だったね。
みうら
さすがですね。
糸井
そういうことしても、ほんとうに
ぜんぜんいいんです。
だけど、ああいう境地には、
俺もみうらも、なかなか行かないなぁ。
みうら
ええ。
ぼくは行けないですね。
糸井
うん、あれは横尾さんだけのものだね。
みうら
でも、糸井さんも‥‥そういうとこ、ありますよ。

何十年も前の話ですけど、
「いまから行くぞ」って、
うちの高円寺のアパートに
糸井さんがバイクで来られたときのことです。

ぼくはオカンの焼いたクッキーを出したり、
紅茶を淹れたり、
おもしろいこと言って
接待しなきゃと思ってたけど、
15分も持ちませんでした。
「もうわかった。
 わかったから帰る」
って、糸井さんは帰っちゃったんです。
シュッと帰られたあと、
また、何が間違ってたのかを考えました。
糸井
いや、みうらはそのとき
学生だったから、当然、
持ってるネタが少ないんですよ。
つまり、学生同士が喜んでることってやっぱり、
いかにも学生的なものでしかない。
飲み屋のコンパで学生がしゃべってる話とか、
正直、隣で聞いてられないでしょう。

やっぱり、大人になって、
漫画や仕事が売れてからだと、
世知辛いことも経験してるし、エロっちい話もできる。
経験によって「おもしろい」分量が増えるんだよ。
だからまぁ、しかたないと言えます。