第6回 Don't believe me.

糸井
みうらと俺は、
共通点があまりないような気もするんだけど、
ひとつあるとしたら、
「自分のことがわからない」ということを
ちゃんと知ってることだね。
自分というものに、ふたりとも
すごく信用がないんです。
みうら
ええ、ないです。
ぼくはほとんどないです。
糸井
「こういうときに自分はどうするんだろう?」
ってことを
いつも問いかけてないと、自分でいられない。
みうら
以前、Tシャツを作ったとき、
なにかメッセージを入れようと思って、
「I don't believe me」と書かれた
Tシャツを作ったんですよ。
糸井
ああ、いいね。
みうら
それ着て浅草とか行くと、
外国の人たちはどう思うだろう?
「この人は自分を信じていない」

そんなふうに、
自分を信じないということを明確に言うと、
さらにそれがはっきりしていくから、
すごく楽になりました。
糸井
俺たちが一家だとしたら、
そこでつながってるかもね。
みうら
「I don't believe me 教」ですね。
糸井
俺もさ、
「みうら、そのシャツいいな。
 だったら自分は違う言葉で作ろう」
といって
「YOUDENTITY」というTシャツを作ろうかな。
みうら
ああ、いいですね、それ(笑)。
糸井
うん。でも、ほんとに
そういうことだよね。
「自分を信じない」
みうら
ぼくが少し前に
「自分なくしの旅」と言ってたのは
そこがポイントなんです。
糸井
「自分さがし」じゃなくて「自分なくし」ね。
みうら
ないものを探してもない。
だから、ぜんぜんないところから、
ものを発想するんだ、と思って。
糸井
あ、それはのタイトルそのままだね。
みうら
ええ、ホントにそうですね。
自分を信じないことを明確にしてたら、
こうなっていくしかなかった。
糸井
それはもう結局、
ほとんど仏教徒の‥‥
みうら
空の思想ですよね、ええ。

「仕事がない」という言葉は、
聞いたことがあります。
「ない仕事」があるように見せる仕事、
それがあるんだということは、
ぼくは完全に、
糸井さんから教わったと思ってるんです。
糸井さんは、ずっとそれをやっておられたから。
糸井
まぁ、やってたことはおそらくそうです。
だけど俺がいちばん、この発想が
ほんとうの意味で役に立ったのは、
東日本大震災のあとなんです。
例えばツリーハウスとか、まさにそう。
ツリーハウスなんて、ないものなんだけど
みんなが大好きです。
みうら
うん。前に
気仙沼のツリーハウスに行かせてもらいましたけど、
登ると気持ちいいですよね。
糸井
「俺、見たことあるよ」って人も
あんまりいないんです。
「登ったよ」って人もいない。
それはつまり大勢にとって
ツリーハウスが「ないもの」だということです。
それを作れば、東北に行く理由ができる。
みうらがやってることと
俺がやってること、
実は同じなんだなと 思いました。
みうら
糸井さんとぼくとでは、
見せ方が違ってるとは思うんですけど、
でも、それは糸井さんに
教えてもらったことなんです。
糸井
「経営って何ですか、仕事って何ですか」
という問いに対して、
ドラッカーの「市場の創造です」という
有名な説明があります。
つまりそれは、マーケットを作ることです。
「なかったものを作る」こと。
ドラッカーが言うことと、
みうらの言うことがそのまんまつながります。
みうら
かしこい人が言うことと、
バカなことを言ってる人が
ピタッと合うとこがあるって
言いますもんね。
糸井
そうね(笑)。
「ある」の中で仕事をしてたら、
競争になるだけですからね。
みうら
かまぼこ板の看板を抱えて、
ぼくのイメージとしては、一人相撲を
ずっとやってる感じなんです。
糸井
でも、奉納相撲と同じで、
それを誰かが見ていないと
成り立たないんだよね。

▲一人相撲 今治市大山祗神社

みうら
そうなんですよ。
糸井
崖からみうらの視線を外したら、
ただの風景に戻っちゃうけど、
みうらが「崖や!」と思ったら、
そこにグッとくる崖が現れるわけです。
「ない仕事を生むこと」は、
きっと誰もができる。
しかもみんなが喜ぶことなんだよね。
シジュ
<えーっと、時間が来たから、もう終わりダジュよ‥‥>
みうら
そうだった、今日はタイムキーパーが
ゆるキャラでしたね。
俺、これまでいろんなゆるキャラを
見てきましたけど、
遠目にも「中の人」いや、魂の部分が
見えるキャラはめずらしいですよ(笑)。
シジュ
〈ワハ、とにかく時間だジュな、終わり!〉
みうら
終わり(笑)。
ありがとうございました。
糸井
ありがとうございました。