糸井 | おそらく、宮本さんがゲームをつくるときには、 商品だったり、作品だったり、 あるは趣味に近いものだったり、 いろんな段階があると思うんだけど。 |
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宮本 | 自分の立場が、いろいろと。 |
糸井 | そうそう。で、宮本さんの場合、 やっぱりいちばん大きいのは、 「商品をつくってるんだ」っていう、 おとっつぁんっぽい自負だと思うんですよ。 |
宮本 | はい(笑)。 |
糸井 | その「商品をつくってる」という意識って、 じつはいちばんクリエイティブを鍛えると思うんです。 つまり、「好きなようにやってごらん」 って言われて、自由につくり続けてるものって、 やっぱり、ダレちゃうんですよ。 |
岩田 | 「制約はクリエイティブの母」なんですよね。 |
糸井 | そういうことです。 |
宮本 | あの、ぼくは、この仕事をはじめてから 「アートじゃなくて商品をつくってるんだ」 っていうことをずっと言ってるんですけど、 結果的には、それでラクをしてると思うんです。 |
糸井 | 「ラク」ですか。 |
宮本 | はい。さっき糸井さんがおっしゃったように、 作品とか、商品とか、つくるときには いろんな立場があると思うんですけど、 自分の目標をどこに置くのか見えなくなるのが いちばんつらいと思うんですよ。 その意味では、「売れる」とか、 「お客さんに届ける」っていうのを目標に置いてると ある意味、ラクなんです。 |
糸井 | ああー、なるほど。 |
宮本 | だって、 自由を与えるから好きなことしなさい、 って言われたら困るじゃないですか。 |
糸井 | 困るねぇ(笑)。 |
宮本 | 「あなたの永遠の夢はなんですか?」とか 取材で訊かれても絶対答えられないですし。 「いつか成し遂げたいビデオゲームはなんですか?」 なんて訊かれても、それは、わからない。 |
糸井 | うん。 |
岩田 | 宮本さんは、そこに動機がないんですよ。 |
宮本 | そう、ないんですよね。 |
糸井 | それよりも、「お客さん」とか「商品」のほうが、 目標として、はるかに実感がある。 |
宮本 | はい。 |
糸井 | それを聞いて思い出したのが、 宮本信子さんに教えてもらった 伊丹十三さんのことばなんだけど、 伊丹さんは家を出るとき、子どもたちに、 「とうちゃんは味噌醤油代を稼いできます」 って言って出て行ってたそうです。 |
岩田 | へぇぇ(笑)。 |
糸井 | で、映画をつくってた。 伊丹さんにとっての映画が 完全に味噌醤油代の手段だったとは思わないけど、 そう言えちゃう強さって、あると思うんですね。 若いときって、絶対そう言いたくないじゃないですか。 「お金のためにつくるんだったらやめる!」 みたいなことを言ったりして。 |
宮本 | うん(笑)。 |
糸井 | あるいは、 「作品というのは時代につくらされる」とかさ。 まぁ、そういう考え方がいけないわけじゃないけど、 「時代性がないとなにもつくれない」 っていうところまで行っちゃうと、 やっぱりちょっと頭でっかちだと思うんです。 自分のことでいうと、ぼくは若いころ、 取材で、つくったものと時代についての関係性を 訊かれることが多くて、ほんとに困った。 「アメリカで起こってる動きと似ていて‥‥」 とか言われても、 いや、ぜんぜんそういうんじゃないから、って。 そうじゃなくてさ、なんていうかな、 もう、室町時代の人でも おもしろいと思うようなことをやりたいんですよ。 |
宮本 | ああーー。 |
岩田 | うん、うん。 |
糸井 | 鎌倉時代でも室町時代でも、 ピラミッドの時代の人でも おもしろいって思うようなもの。 そういうものが根っこのところにあれば、 あとは時代性だとか、ファッションだとか、 いくらでも色づけできるわけだからさ。 |
宮本 | おもしろいものを より売れるようにするだけですからね。 |
糸井 | そうそうそう。 おおもとのところにあるのは、もう、 「ネアンデルタール人との涙の別れ」 みたいなおもしろさでさ。 |
岩田 | 「ネアンデルタール人との涙の別れ」(笑)。 |
糸井 | こりゃ、ネアンデルタール人でも 悲しむに違いない、みたいなことで。 どこの国の人だろうと よろこぶことってなんだろう、とかさ。 それは、『マリオ』のおもしろさが 世界共通なのと同じことですよ。 |
岩田 | うん、そういうことですよね。 |
宮本 | ぼくも、たとえばなんかの遊びのルールについて、 「こっちがこうなったら勝ちっていうのは、 エジプトの時代の人がつくっても こういうルールにするやろうな」 って思うことがありますよ。 自分もそういうルールを考えたいなぁ、 と思うんですけどね。 |
糸井 | そうそう、そういう感じ。 |
宮本 | スポーツなんか、いい例ですよね。 ゴルフはよくできていて、 カップにボールを入れたら「あがり!」ですよね。 野球のルールは複合的ですが、 よくできてるなあと思います。 ボールを投げて、打つ。 捕れなかったら、セーフ。 このへんは必然的だと思いますが、 そのあとの、アウトが3つでチェンジとか、 そういうバランスは誰が決めたんやろうなって。 「こういうことが起きたらどうしよう」って ひとつひとつ積み上げていったから 見事に成り立ってるんでしょうね。 その意味でいうと、『ピクミン3』っていうのは、 けっこういい積み上げ方をしてるんですよ。 |
糸井 | ああ、なるほど。 |
宮本 | 複雑な遊びというよりは、 わりとシンプルなことが積み重なってて。 その結果について、 バランスをとるルールだけ足してます。 |
岩田 | シンプルなことが組み合わさると、 すごくいろんなことが起こるという。 |
宮本 | そうそう、思わぬことが起こるんです。 でね、そういう遊びって、 室町時代の人にも伝わると思うんですよ。 |
糸井 | うん。 |
宮本 | だから、『テトリス』なんて、 室町時代の人でもわかるゲームだと思うんです。 |
糸井 | なるほどー。 |
宮本 | そういうものを ぼくはつくりたいのかなぁと思うんです。 だから、『ピクミン3』は ファミコンのころのおもしろさに 戻ってると言いましたけど、 じつはもっと、戻るのかもしれない。 |
糸井 | もっと戻るんでしょう。 だから、ボール1個くらいにまで戻るんですよ。 ぼくも目指しているところは同じです。 |
宮本 | うん。 そういうことを、Wii Uをつかってできないか、 ずーっと考えてるような気がしますね。 |
(続きます) |