糸井 | 宮本さんが思いつくことって、 コンピュータの知識がない人でも 思いつけるようなことが多いんですか? |
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宮本 | と思いますよ。 |
糸井 | ちなみに宮本さんって、 過去にコンピュータの勉強を 専門的にしていたことがあるんですか。 |
宮本 | いえ、してないです。 |
糸井 | あ、そうなんだ。 |
岩田 | 宮本さんは、コンピュータやプログラムについて 体系的には学んでいないはずなんですけど、 コンピュータが非常にシンプルだった時代から いろんなことを経験してきていて、 自分のやりたいことを実現させるために、 道具であるコンピュータのことは ちゃんと理解しているんですよ。 |
糸井 | つまり、コンピュータというのは こういうことができるはずだ、 っていう根本的な知識が背景にあるから、 乱暴に見える思いつきも、 現実的に提案できるというか。 |
宮本 | そうですね。 あの、コンピュータをまったく知らない人って やっぱり、無謀なことを提案してしまうので、 どうやってつくればいいのかが 本人にもまわりにもわからないんですよ。 だからぼくは、思いついたことを、 「こういうふうにしたらできませんかね?」 っていうのとセットで持っていくんです。 そういうことが、ぼくの仕事ですね。 |
岩田 | 宮本さんは、 そういう仕組みを考えるのが好きですから。 |
糸井 | それはしかし、微妙というか、 紙一重の部分があるんでしょうねぇ。 いいアイディアと無謀な考えは。 |
宮本 | そうですねぇ。 たとえば、東京と京都は 3時間で行けるのが当たり前だというときに、 「なんかアイディアがあれば 2時間で行けるんじゃないのか?」 っていうことを思いつきたいんであって、 「東京でドアを開けたら京都にいたいんですよ」 みたいな話にはしないっていうか。 |
糸井 | ああ、そのふたつはぜんぜん違う。うん。 |
宮本 | そう。別の解き方として、 「ドアを開けたら京都にいた、 と思わせるだけでもいいから、手はないかな?」 というのもありですけどね(笑)。 |
糸井 | はいはいはい。 |
宮本 | ふつうに仕様を出すと「それは無理です」って 言われるようなことも、原因を探っていくと、 できるような形が見えてきたりします。 たとえば、ピクミンの仕様を出すとき、 「ピクミンはいろんなものを自分で考えて巣に運ぶ」 というと、中間に入ってるディレクターは 「それはたいへんです、そんな簡単にはできないです」 って答えたりするんですけど、 「網の目のようにルートを引いておいて、 最短のルートを検索できる?」って訊くと、 プログラマーは意外と 「あ、それならできます」 って言うようなことがあるんですよ。 |
糸井 | ああーーー。 |
宮本 | そういうふうに、 「一見、できそうもないアイディア」 を形にしていくというのが、 ぼくがそのチームにいる、 いちばん大きな意義じゃないかな。 |
糸井 | それはあれですね、 優れた絵描きが、ふつうはとても描けないような シーンに出会ったときに 「これなら描けるかな」って思えるようなことですね。 たとえば、北斎の波の絵はさ、北斎自身は 「これはこうすれば描けるだろうな」 って思ったわけでしょ。 |
宮本 | うん、そうですね。 |
糸井 | それはやっぱり、北斎が「絵」というものを 知っているからわかるんでしょうね。 だから、宮本さんも、コンピュータやプログラムを 全体としてつかんでいる、というか。 |
宮本 | なんでですかね。と言っても、 プログラマーがすべてつくってくれるわけで、 その人しだいなんですけどね。 |
岩田 | 宮本さんは、 コンピュータでどうプログラムを書くかといった 細かいことはあまりご存知ないと思うんですけど、 コンピュータはどういうことは得意で、 どういうことが苦手だっていう理解は 非常に的確なんですよ。 |
糸井 | ああ、なるほど。 |
岩田 | だから、たとえば、 「できない」って言うプログラマーがいたときに、 「なんとかしなさい」って言うんじゃなく、 「どういう仕組みになってるの?」って訊くんですね。 すると、仕組みを説明されるので、 「じゃあその仕組みをこう利用したら こういうことはできないの?」って提案すると、 「それならできます」ってなるんです。 |
宮本 | そういうことを繰り返してますね。 |
糸井 | で、それ全体が経験になって、つぎの機会に 「これならできるんじゃない?」 っていうふうに活きていく。 |
岩田 | はい。 |
糸井 | なるほどー。 |
岩田 | 『ピクミン』というゲームが まさにそうなんですけど、 一個一個の動きや仕組みはシンプルなんです。 ところが、それら全体が破綻なく動く、 となると、すごく難しくなる。 コンピュータも、一度には単純なことしかできませんが、 それらの単純なことを組み合わせて 複雑な処理をするように仕上げるのが、 プログラムのおもしろさであり、難しさなんです。 宮本さんは、ゲーム全体を動かすための プログラムの設計をしているわけではないんですけど、 一個一個のシンプルな仕組みについては、 だいたいどういうことなのか そうとう正確にわかっていると思います。 |
糸井 | はーー。 |
岩田 | なんていうか、やっぱり、 原理と機能をわかって しゃべってる人なんですね、宮本さんは。 だから、プログラマーとやり取りできるんですよ。 自分がやりたいことを実現するために、 「できない」と思い込んでいるプログラマーのかわりに どうすればできるかを提案できるんです。 そういうゲームデザイナーって それほど多くはないんじゃないでしょうかね。 |
糸井 | それは、やっぱり、やりたいことが先にあるから、 必然的にそうなるんでしょうね。 実現させたい、という気持ちの強さが道を拓くというか。 |
宮本 | そうですね。 「こうしたい!」っていうゴールさえあれば、 誰がどこでなにをする、というのを積み上げて、 いちばん単純な構造がつくれますから。 |
糸井 | うん、うん。 |
宮本 | だから、なんというか、 ゴールを決めれば、 だましだましでもそこへ行く方法はあるんですよ。 |
糸井 | 無謀なゴールでもなく、 できる範囲におさえたゴールでもなく。 |
宮本 | そうです。 そういう、ほどよいゴールを決めて、 どうしたらできるのかということを考えさせると、 ぼくはたぶん、早いと思います。 |
糸井 | 「早い」んですね。そうかー。 |
(続きます) |