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第6回 自分がいるからには。

糸井 宮本さんのつくり方というのは、
やっぱり特別なんでしょうか。
たとえば、外国のゲームデザイナーと比べると、
どうなんだろう。
宮本 人によるけれど、
海外のゲームデザイナーの人の傾向は、
まずゲーム全体の世界観を語って、
アートもつけて、それを本にしてしまうんですよ。
それをチームで具体的なゲームに
落としていくスタイルをよく見かけます。
岩田 「デザインドキュメント」っていう、
何百ページもあるような、
ゲームのすべてが定められている
書類をつくるんですよ。
糸井 宮本さんは?
岩田 書類1枚です。
糸井 (笑)
宮本 (苦笑)
岩田 1枚にまとまってないときはダメだ、
って言うんですよ。
宮本 けっきょく、何百ページもの
ドキュメントができあがると、
つくったデザイナーは必要なくなってしまって、
それをほかのプログラマーたちが分担して
仕上げていくんですよ。
だから、作り直したほうがいいと思って、
ドキュメントをつくったゲームデザイナーに、
「これはどうやってできてるの?」
って訊いても説明できないんですよ。
糸井 専門領域をユニット化してるわけですよね。
宮本 そういう構造がすごく多いんです。
糸井 それは、少なくとも、
宮本さんのやり方には合ってないよね。
宮本 ぼくとはぜんぜん違いますね。
糸井 ぼくにもそのやり方は合わないなぁ。
宮本 たまにそういう人たちと会って、
こういうことをやりませんか、
って言われたりするんですけど、
つくり方がまったく違うので、
ほんとに提案されてることが
よくわからないんですよ。
糸井 そうですねぇ。
なんていうのかな、大勢でものをつくるときって、
もっとこう、曖昧に信用し合ってますよね。
この人に最初にいてもらって、
この人とつながってもらえたら
ずいぶんやりやすくなるぞ、みたいな。
チームというか、人間の組織って、
そういうふうに伸び縮みするというか。
宮本 ぼくの場合もそうですね。
骨組みさえつくっておけば、
あとはそこにどれぐらい肉付けするかは、
そのプロジェクトの規模に合わせて
やればいいっていう。
糸井 そうだよね、うんうんうん。
宮本 ところが最近は、
骨組みの中心ではないところに
余分なものをどんどんくっつける傾向がありますね。
だからぼく、現場ではいつも
「つけるな、つけるな」って言ってるんですけど。
糸井 昔のつくり方だと、
足したら足しただけお得だから、
みたいなことでそうしてたんだろうけど。
宮本 材料が少なく、限られたなかでやってたから、
「多い」というのも価値があったんでしょうね。
糸井 時代として、全体的に
カロリーが低かったんでしょうね。
いまはカロリーが過剰だから。
宮本 そう、いまはあんまり
足しすぎないほうを目指したいんです。
糸井 うん。盛りすぎないように。
岩田 いろんなところにいろんなものを
足せる人っていうのは
いま、すごくたくさんいるんですよ。
糸井 ああ、いまの人の傾向なのかな。
岩田 そういうことって、
宮本さんの助けを借りなくても、
非常に高いレベルでできあがっていくんです。
だから、できあがったものの
一ヵ所一ヵ所をじっくり見たら、
もう、すごいですよ。
糸井 そうでしょうね(笑)。
岩田 うん。あきれるほどよくできてます。
だけど、ゲームの印象を
決定的に決めるのはそこじゃないので。
糸井 そうなんですよねぇ。
逆に、メインじゃないところのすごさに
お客さんの視線が行って魅力が分散しちゃったら、
なんにもなんないんですよね。
宮本 そうなんですよね。
これはちょっと前の話ですけど、
若いプロデューサーたちに
「こういうゲームがつくりたい」っていうのを
自由に計画してもらったことがあったんです。
こういうゲームにしたいから、
メインプログラマーはこの人とこの人が欲しい、
アーティストはこの人にやってもらいたい、
ってメンバーのリストをつくってきて、
それを見ると、すごい布陣なんですよ。
で、そのときに冗談で言ったのは、
「すごいメンバーやなぁ、
 こんだけの布陣がそろってたら、
 おまえ要らないよなぁ」って。
でもね、冗談で言いながらも、
自分もそうだなって思うんですよ。
こんだけの布陣でつくったら
俺、要らんよなって思うわけですよ。
そうすると、そのなかに自分がいるというのは
どういうことかとすごく考えるんです。
どういうつくり方をして、
どういうものができたときに、
ここに自分が必要だ、っていうふうになるのか。
糸井 それはすごくよく思う。
宮本 思いますよね。
糸井 思います。
岩田 宮本さんでもそんなふうに
「自分は要るんだろうか」って
考えるものなんですか。
宮本 考えますよ。
人のつくったものを指導するとかの場合だと、
いい加減にコメントしてたりすると
「ただ茶化してるだけやないの?」
って自分に思いますから。
糸井 え、岩田さんは考えない?
岩田 わたしは‥‥自分が現場でつくってたときは、
自分で手を動かしてたほうだったので。
糸井 あ、そうか、そうか。
岩田 その、出口のところにいて手を動かしてますから
宮本さんや糸井さんとは役割が違うんですよ。
糸井 最後の作業をする立場だもんね。
宮本 そう、プログラムが動かないと
マスターアップしない、
というところにいたわけですから。
岩田 そうです、そうです。
だから、なんとか直してどうにかするみたいな。
糸井 あー、そうか。
じゃあ、岩田さんは絶対なんだね。
宮本 そう、絶対必要。
糸井 バケツリレーの最後に
バケツ持って走ってる人だもんね。
岩田 そうそう、そうです(笑)。
糸井 俺は宮本さんと同じだなぁ。
いまの宮本さんの「俺は要らない」は、
俺、いっつも思ってますよ。
宮本 思いますよね?
糸井 思います。
とくに新しい仕事のときは思う。
もしも自分がいなくてできたら、
それはそれですばらしい、と思いつつも、
自分がいるからには、って思う。
宮本 思いますよね。
岩田 ああ、同じ構造ですね。
糸井 たとえば気仙沼でのプロジェクトとかは
ほんとにそういう危機感があります。
だって、まず、俺は
そこにいなかった人なんだから。
宮本 ああー。
糸井 だから、逆にいうと、
「自分は要らないかもなぁ」からはじめないと、
もといる人に失礼なことになりますよね。
そうすると、やっぱり、
自分がいる意味を考えざるを得ない。
宮本 会社から予算を調達してくること
ぐらいしかないかな、とか(笑)
糸井 そうだよね。
それもひとつの大事な要素だから。
(続きます)
2013-07-22-MON