糸井 | 宮本さんのつくり方というのは、 やっぱり特別なんでしょうか。 たとえば、外国のゲームデザイナーと比べると、 どうなんだろう。 |
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宮本 | 人によるけれど、 海外のゲームデザイナーの人の傾向は、 まずゲーム全体の世界観を語って、 アートもつけて、それを本にしてしまうんですよ。 それをチームで具体的なゲームに 落としていくスタイルをよく見かけます。 |
岩田 | 「デザインドキュメント」っていう、 何百ページもあるような、 ゲームのすべてが定められている 書類をつくるんですよ。 |
糸井 | 宮本さんは? |
岩田 | 書類1枚です。 |
糸井 | (笑) |
宮本 | (苦笑) |
岩田 | 1枚にまとまってないときはダメだ、 って言うんですよ。 |
宮本 | けっきょく、何百ページもの ドキュメントができあがると、 つくったデザイナーは必要なくなってしまって、 それをほかのプログラマーたちが分担して 仕上げていくんですよ。 だから、作り直したほうがいいと思って、 ドキュメントをつくったゲームデザイナーに、 「これはどうやってできてるの?」 って訊いても説明できないんですよ。 |
糸井 | 専門領域をユニット化してるわけですよね。 |
宮本 | そういう構造がすごく多いんです。 |
糸井 | それは、少なくとも、 宮本さんのやり方には合ってないよね。 |
宮本 | ぼくとはぜんぜん違いますね。 |
糸井 | ぼくにもそのやり方は合わないなぁ。 |
宮本 | たまにそういう人たちと会って、 こういうことをやりませんか、 って言われたりするんですけど、 つくり方がまったく違うので、 ほんとに提案されてることが よくわからないんですよ。 |
糸井 | そうですねぇ。 なんていうのかな、大勢でものをつくるときって、 もっとこう、曖昧に信用し合ってますよね。 この人に最初にいてもらって、 この人とつながってもらえたら ずいぶんやりやすくなるぞ、みたいな。 チームというか、人間の組織って、 そういうふうに伸び縮みするというか。 |
宮本 | ぼくの場合もそうですね。 骨組みさえつくっておけば、 あとはそこにどれぐらい肉付けするかは、 そのプロジェクトの規模に合わせて やればいいっていう。 |
糸井 | そうだよね、うんうんうん。 |
宮本 | ところが最近は、 骨組みの中心ではないところに 余分なものをどんどんくっつける傾向がありますね。 だからぼく、現場ではいつも 「つけるな、つけるな」って言ってるんですけど。 |
糸井 | 昔のつくり方だと、 足したら足しただけお得だから、 みたいなことでそうしてたんだろうけど。 |
宮本 | 材料が少なく、限られたなかでやってたから、 「多い」というのも価値があったんでしょうね。 |
糸井 | 時代として、全体的に カロリーが低かったんでしょうね。 いまはカロリーが過剰だから。 |
宮本 | そう、いまはあんまり 足しすぎないほうを目指したいんです。 |
糸井 | うん。盛りすぎないように。 |
岩田 | いろんなところにいろんなものを 足せる人っていうのは いま、すごくたくさんいるんですよ。 |
糸井 | ああ、いまの人の傾向なのかな。 |
岩田 | そういうことって、 宮本さんの助けを借りなくても、 非常に高いレベルでできあがっていくんです。 だから、できあがったものの 一ヵ所一ヵ所をじっくり見たら、 もう、すごいですよ。 |
糸井 | そうでしょうね(笑)。 |
岩田 | うん。あきれるほどよくできてます。 だけど、ゲームの印象を 決定的に決めるのはそこじゃないので。 |
糸井 | そうなんですよねぇ。 逆に、メインじゃないところのすごさに お客さんの視線が行って魅力が分散しちゃったら、 なんにもなんないんですよね。 |
宮本 | そうなんですよね。 これはちょっと前の話ですけど、 若いプロデューサーたちに 「こういうゲームがつくりたい」っていうのを 自由に計画してもらったことがあったんです。 こういうゲームにしたいから、 メインプログラマーはこの人とこの人が欲しい、 アーティストはこの人にやってもらいたい、 ってメンバーのリストをつくってきて、 それを見ると、すごい布陣なんですよ。 で、そのときに冗談で言ったのは、 「すごいメンバーやなぁ、 こんだけの布陣がそろってたら、 おまえ要らないよなぁ」って。 でもね、冗談で言いながらも、 自分もそうだなって思うんですよ。 こんだけの布陣でつくったら 俺、要らんよなって思うわけですよ。 そうすると、そのなかに自分がいるというのは どういうことかとすごく考えるんです。 どういうつくり方をして、 どういうものができたときに、 ここに自分が必要だ、っていうふうになるのか。 |
糸井 | それはすごくよく思う。 |
宮本 | 思いますよね。 |
糸井 | 思います。 |
岩田 | 宮本さんでもそんなふうに 「自分は要るんだろうか」って 考えるものなんですか。 |
宮本 | 考えますよ。 人のつくったものを指導するとかの場合だと、 いい加減にコメントしてたりすると 「ただ茶化してるだけやないの?」 って自分に思いますから。 |
糸井 | え、岩田さんは考えない? |
岩田 | わたしは‥‥自分が現場でつくってたときは、 自分で手を動かしてたほうだったので。 |
糸井 | あ、そうか、そうか。 |
岩田 | その、出口のところにいて手を動かしてますから 宮本さんや糸井さんとは役割が違うんですよ。 |
糸井 | 最後の作業をする立場だもんね。 |
宮本 | そう、プログラムが動かないと マスターアップしない、 というところにいたわけですから。 |
岩田 | そうです、そうです。 だから、なんとか直してどうにかするみたいな。 |
糸井 | あー、そうか。 じゃあ、岩田さんは絶対なんだね。 |
宮本 | そう、絶対必要。 |
糸井 | バケツリレーの最後に バケツ持って走ってる人だもんね。 |
岩田 | そうそう、そうです(笑)。 |
糸井 | 俺は宮本さんと同じだなぁ。 いまの宮本さんの「俺は要らない」は、 俺、いっつも思ってますよ。 |
宮本 | 思いますよね? |
糸井 | 思います。 とくに新しい仕事のときは思う。 もしも自分がいなくてできたら、 それはそれですばらしい、と思いつつも、 自分がいるからには、って思う。 |
宮本 | 思いますよね。 |
岩田 | ああ、同じ構造ですね。 |
糸井 | たとえば気仙沼でのプロジェクトとかは ほんとにそういう危機感があります。 だって、まず、俺は そこにいなかった人なんだから。 |
宮本 | ああー。 |
糸井 | だから、逆にいうと、 「自分は要らないかもなぁ」からはじめないと、 もといる人に失礼なことになりますよね。 そうすると、やっぱり、 自分がいる意味を考えざるを得ない。 |
宮本 | 会社から予算を調達してくること ぐらいしかないかな、とか(笑) |
糸井 | そうだよね。 それもひとつの大事な要素だから。 |
(続きます) |