岩田 | 今回、宮本さんは『ピクミン3』を 「構造がすっきりしている」と表現しましたけど、 そこに至るまでの過程には どんなことがあったんでしょうか。 |
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宮本 | あの、このゲームって、 「こういうことをやってみたら おもしろくなるかどうか、 ちょっと試してみたい」ということが多くて、 それを試してみたらおもしろかった、 ということからはじまって、 また、つぎの要素と組み合わせたらどうなるか? というような積み重ねでできているんですよ。 |
糸井 | つまり、「試してみる」の積み重ね。 |
宮本 | はい。 やっぱり、いろんな条件で ものが組み上がっていくと、 あることの結果が、どう有機的に組み合わさるかって 予想がつかないですよね。 そういう「おもしろいかどうかわからない」ことを つくって確認する。 ぼくは「実験」って呼んでて、 それを試すことを推奨してます。 |
糸井 | それは、実際に、つくりかけのゲームのなかに ゲームの仕様として入れてみるような 試し方なんですか? |
宮本 | ええ、最初の基本構造は、 ちょっとまとめてつくってみたし、 そのあとはそうやって試してたんです。 で、それをくり返すなかで、 予想していた以上のおもしろさが生まれたら すごくうれしいわけですよ。 そういった実験とか挑戦が 『ピクミン3』ではうまくできたような気がします。 ふつうは、準備した材料が多すぎて、 こんなにきちんと試しきれないんですよ。 複雑すぎて、試したけれど、 結果がよくわからない、となることが多くて。 |
糸井 | ああ、なるほど。 |
宮本 | つくっててもできあがらないゲームって、 だいたい、そういうところで迷走してるんです。 アイディア出して、スケッチ描いて、 どんどん材料が増えていって、 「どうなるのか?」「おもしろいのか?」 ということがよくわからなくなっていく。 |
糸井 | うん、うん。 |
宮本 | ふだん、そういう状態になると ぼくはディレクターに 「一回、ゲームの全体図を描いて、 準備したネタをそこにぜんぶ貼ってみたら」 って言うんですよ。 たとえば『マリオ』なら、4×8のコースを描いて、 準備したネタをカードに書いて、 そこに貼っていってみ、と。 そうすると、余ってくるんですよ、カードが。 |
糸井 | ああー。 |
宮本 | で、「ほらね」って。 「過剰でしょ?」っていうことになる。 やっぱり、心配なので、つくるほうは いっぱい考えてしまうんですよ。 でも、アイディアとスケッチを増やすだけだと、 おもしろいかどうかがどんどんわからなくなるんです。 わからないと、またカードを増やす‥‥。 |
糸井 | それでカードがさらに余っちゃうんだね。 でも、岩田さんみたいな人がいるとさ、 余らせないで、なんとか貼っちゃったりするよね。 |
宮本 | そう(笑)。 |
岩田 | (笑) |
宮本 | まぁ、でも、だいたいの感じでいうと、 3割余るくらいがちょうどいいんです。 |
糸井 | 全体図にアイディアのカードを貼っていって、 準備したものの3割が余るくらい。 |
宮本 | 根拠はないけど、そのくらいです。 隙間を詰めたら、もっと入るかもな、 っていうくらいがいいんですけど、 たいがいは、もう、倍ぐらいカードを準備したりする。 『ピクミン3』の場合は それを最小限で抑えながらいろいろ試してみる、 ということができたような気がします。 |
糸井 | アイディアを「最小限で抑える」っていうのは どういうことですか。 |
宮本 | たとえば、『ピクミン』の新作をつくるってなったら、 新しい敵生物って、ほしいですよね? |
糸井 | 出てきてほしいですね。 |
宮本 | 新しいゲームですから、当然、ほしいですよね。 でも、前に出てきた敵にも出てほしい。 すると、『ピクミン』の新作の、 全体の敵の数っていうのは、 前の敵と新しい敵を足した数になりますよね。 その総数がどのくらいになればいいのか、 っていうのは、ぼくにもわからない。 だから「あんまりつくるなよ」って言うんです。 前に出てきた敵も、新しい敵も、 出てくる以上は1ヵ所に出るだけじゃなくて、 いくつかの場所に応用したい。 そうすると、新旧の敵の組み合わせが あちこちでどんどん起こってくるので、 ゲームがどんどん膨大になっていく。 昔のゲームにくらべたら、 簡単に倍くらいになってしまう。 |
糸井 | うーん、そうですねぇ。 |
宮本 | だから、『ピクミン3』は、印象でいうと、 「足りなかったらつくろう」 ぐらいのペースでつくっていったんです。 |
糸井 | はーー、その考えはいいねぇ。 「足りなかったら、つくればいい」。 |
宮本 | そういう考えが、比較的、 今回のチームのなかに浸透してて。 だから、これからネットをつかって あたらしいミッションやマップを 少しずつ足していこうかと思ってます。 |
糸井 | 「足りなかったらそのときにつくろう」っていうのと 「たっぷり用意しておいたから、 これをつかってつくっていこう」っていうのでは、 自由にやるか、型にはめるか、っていう意味で 大きな違いがありますよね。 |
宮本 | ぜんぜん違います。 |
糸井 | ぜんぜん違いますよね。 |
宮本 | 会社の組織とかもちょっと似たところがあって。 |
糸井 | ああ、そうだそうだ。 |
宮本 | あとから「もうちょっとほしい」って言うのは ちょっとした禁句みたいになっていて、 「必要になるなら最初に言っとけ」 っていう仕組みなんですよね、 いまの一般的な会社の組織自体が。 |
糸井 | その通りですね。 |
岩田 | 組織の運営自体が、最初に予算をもらって、 その予算で計画を立てて、 その範囲内でやりなさい、っていう。 |
宮本 | そうそうそう(笑)。 |
岩田 | まぁ、ふつうはそうなりますよね。 任天堂は、必要に応じて、いろいろ対応しますけど。 |
糸井 | やっぱり、ほんとは、通ってきた道筋によって、 文脈みたいなものができて、 その文脈にあるからこそ、 なにかが必要になったり 要らなくなったりするんだよね。 ところが「最初に構造図を出せ」って言われたら 最初にぜんぶ見越して用意しなきゃいけない。 それはやっぱり無理があるよ。 しかも、最初に準備する構造図の最後には 「必ず大当たりします」って書かなきゃいけない。 |
宮本 | そう。 |
糸井 | そんなことできるわけないよね。 |
宮本 | で、大当たりするためには 「これも要りますよね?」っていう感じで どんどん材料を準備することになる。 |
糸井 | そうなると最初にたくさん用意しますよね。 |
宮本 | ええ。これなかったらさみしいでしょ、って、 みんながいろいろ持ち寄ってくるわけで。 そうすると複雑になるし、骨組みは見えなくなるし、 もう、室町時代の人には、 おもしろさがわからなくなるっていう(笑)。 |
糸井 | そうですよね。 逆に、動きのなかで、考えているうちに 必要になってくるものっていうのは、 認められづらいというか。 |
宮本 | そうですね。 途中で新しく材料が必要になったりすると、 だいたい「ずさんだ」とか言われて。 |
糸井 | そうそうそう(笑)。 |
(続きます) |