糸井 自分から向こうが見える視線と
向こうから自分が見える視線と、
スーパースターはみんな持ってますよね。
イチローでも矢沢永吉でも。
染五郎 ああ、そうでしょうね。
どう見えてるかわかってる感じはしますね。
糸井 それは芝居がかった人生なのかもしれないけど、
でも、それをも忘れられるのが
きっとプライベートで、
それ以外の時間はきっと
ずっとその目玉を持ってるんでしょうね。
染五郎さん、今はどうですか。
染五郎 いやあ‥‥そんなに深さはない
人間だと思ってるんで(笑)。
糸井 ていうか、多分、
ここに50人の客席があったら
変わるでしょう、きっと。
(註:収録スタジオのなかは、2人きりです。)

染五郎 ああ、変わるかもしれないですね。
糸井 明石家さんまさんなんかだと自分の番組に
3、40人お客さん入れますよね。
『さんまのまんま』もそうです。
テレビ局のスタッフだけじゃなくて、
その人たちがいることで
何かちょっと変わるんだと思うんだよね。
そのときに生まれる目なんだろうなあ。
この舞台の上の染五郎さんに関しては、
重心の取り方から何から
今のあなたとまったく違う(笑)。
染五郎 違うでしょうね。
僕、(舞台の上の)「この人に会いたい」
言われたことあるんですけどね(笑)。
「いや、僕、ここにいるんだけど」みたいな。
糸井 わかるな、それ(笑)。
いや、もう単純に、
もうフィギュア(かたち)が違いますよね(笑)。
染五郎 (笑)。まあ、それはある意味うれしいですよね。
糸井 素晴らしいことですよね。
2つ持てる喜びがありますよね。
ずっとこんなライみたいなやつがいたら、
逆に遠ざけられちゃうんじゃないですか(笑)。
染五郎 遠ざけられちゃう(笑)。
糸井 自分で見て、ある程度、
この人(ライという役)は、
できてる‥‥でしょ?
染五郎 いや、どうですかねえ??
糸井 まあ、欠点まで見えるとは思いますけど、
今いる自分じゃないですよね、
明らかに(笑)。
その目で他人にも視線を送りますよね、当然。
できてる、できてないって。
それで演出家になりたくなっちゃうんでしょうね。
染五郎 そうなんでしょうね。それはありますね。
僕は今回振付けさせていただいて、
一緒に踊って振りを渡して、
多少形を直したりはしていくんですけど、
でもやっぱり作りが違いますから
違う形になるんです。
それって自分で作ったものが
なんか一人歩きしていくというか。
それがすごい面白いんですよね。
で、逆に
「ここはこうでしょ」
「こうしたいんだけど」
みたいなことを言われると、
僕が付けたのが、もう、一人歩きして、
そっちで消化されて
こっちにまた跳ね返ってきてるみたいな。
それが楽しいですね。
糸井 うれしいよねえ。
やり取りになりますもんね。
例えばこうやってたくさんの共演者たちがいて、
自分以外の芝居は見えるわけですよね。
で、「やるな」とか、
「う、悔しい」とか、絶えずあるんですか。
染五郎 どちらかといえば
「やるな!」というほうが多いですね。
「すごい!」っていう。
糸井 それは、自分とは違う個性だから‥‥
染五郎 まあ、ある意味、
ないものねだりなのかもしれないですけど、
羨ましさといいますかね、ありますね。
糸井 上手下手を超えて羨ましいときというのは
どういうときですか。
顔つきとかですか(笑)。
染五郎 そうですね。例えば真木よう子さんの
シュテンって役、カッコよかったりするんですけど、
かわいかったりもするんですよね。
糸井 それは自分の役にはないですよね(笑)。
染五郎 ない。
糸井 で、フレッシュさがあるじゃないですか、
若い人たち。
そのフレッシュさって欠点かもしれないけど、
お客さんから見たらそのフレッシュっていうのは
感じてますよね。うれしくね。
染五郎 うんうん。

糸井 僕もそれはこの方を見たときに、
どういう人かよく知らないで見てたんですけど、
どう言ったらいいですかね、
少女マンガの人がポーンと
上から降ってきたみたいな。
細さも含めて。
染五郎 そうですね、
もう稽古場では釘付けでしたね。
やっぱりピュアっていうか、
そういうものというのは僕、前、
違う芝居を見に行ったときに、
すーごく感じましたね。
すごい若い役者さんが出てられて、
その芝居がどうだっていうんじゃなくて、
ピュアってだけで十分魅力があるんだな、
というか成立するんだなと。その芝居自体が。
糸井 それって人は評価なかなかしてくれないけど、
お客は無意識にしてますよね。
染五郎 してるでしょうねえ。
糸井 むかしむかし、大むかしにね、
田原俊彦って人がデビューしたてのときに、
そのディレクターと話してて、
「どこがいいんですか」と言ったんですよ(笑)。
そしたら、「フレッシュなんですよ」と言ったの。
で、それは、フレッシュっていうのは
人はなかなか評価してくれないけど、
「仕事になるんですよ」って。
染五郎 いや、本当にそうだと思います、それ。
糸井 その意味で、昔の染五郎さんが持ってたものは、
今はもう失ってるんですよね、きっと(笑)。
染五郎 そうですね。
僕も自分の10代ぐらいの舞台だったり
写真だったりを見ると、
なんてピュアかって(笑)。
糸井 戻れないですよね(笑)。
染五郎 ああ、もう十分、そのときの自分って ── 、
自分で言って自分で褒めてるみたいなとこ
あるんですけど(笑)。
糸井 いや、でもわかる、わかる、わかる。
染五郎 そのときはなんか、
「できない、できない、できない、できない。
 なんでなんだろう。
 あの人はできるのに、僕はできない」とか、
そういうふうに考えてたんですけど、
今見ると、なんか悩んでたことが
損してるみたいな感じですね。
糸井 てことは、だれかが「いいよ!」と
言ってくれてたら、
ものすごい力になったってことだね。
染五郎 ええ。歌舞伎の世界って梨園といって、
「梨園の貴公子」とか、まあ、
さすがに今は言われないんですが、
昔は、そういうふうに書かれたり
言われたりすることがありました。
でも‥‥、けっこうそうでしたね(笑)。
糸井 要するにそうできてたわけだね。
染五郎 できてた気がするんですけどね(笑)。
ま、それはだれにも言われないから
自分で言ってんですけど。
糸井 いや、でも、それって褒め方として難しいから
みんな言わないけど、
ものすごく大事な要素ですよね(笑)。
例えば「君って目の位置がいいね」
って褒め方ないじゃないですか。
だけど、お客さんはそれを
ものすごく感じてるわけで。
今回ゲキ×シネになったときの染五郎さんは、
ちょっとふざけてるんですよ。
顔がアップで映るものだから。
悪ーいやつで極悪人なんだっていう設定なのに、
少ーし薄ら笑いが見えるんです。
で、それはテレビの画面で見てよかったなあ。
そんなのはさ、本人のせいじゃない、
みたいなとこあるじゃないですか。
顔つきのせいじゃない?
染五郎 そうですね。
糸井 いいよねえ。楽しそうなの、
(花道を、立ち去るしぐさを大げさに、
 歌舞伎の動きで去っていくシーン)
こういうときね。
染五郎 ええ、ここは六方を踏んでいます。
いのうえさんの演出で、
歌舞伎の技を安く使ってくれと、
そういう注文なんですよね。
糸井 ああ。で、それをコピーする人が現れて
(おとうと分のキンタ=阿部サダヲさんが
 まねをして六方を踏んで去るシーン)。
安いんだけど高く見えますよね。

染五郎 高く見えますか(笑)。
糸井 だから、ここの演出家は
すごいなと思ったなあ。
染五郎 いやあ、いのうえさんの演出、
面白いですね、本当に。
糸井 いや、でも、その何でもない、
褒めようのないような褒める場所というのは、
みんながもっとちゃんと発見してくれるといいね。
染五郎 そうですね。




2008-01-04-FRI

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN