糸井 |
昔むかしに、
── 本当に関係ない話なんだけど、
巨人・中日で最後の試合で優勝が決まるって試合を
僕、見に行ったことがあるんです。
その日って(選手に)怪我人出てるんですよ。
つまり、この試合で優勝が決まる
最後の試合だっていうとき、怪我人が出てるんですよ。
それは、普段できないことができちゃうんですね。
もう明日がないから。
で、「あ、野球の選手って、
そんなところのスレスレで毎日仕事してるんだな」
と思って。だから、つまり、
魂全部懸けちゃったら持たないわけで。
でも、不誠実な仕事はしてないんですよ。
そこのところはやっぱりプロってすごいなあ。 |
染五郎 |
うん、そうですね。
糸井さんってジャイアンツ? |
糸井 |
僕はジャイアンツ。
|
染五郎 |
私も当然のごとくジャイアンツなんですけどね。 |
糸井 |
今はなかなかね、
やっぱりすごいとこにいますけどね(笑)。 |
染五郎 |
ええ。 |
糸井 |
あの試合、僕、名古屋まで見に行ったんですけど、
つまり、「あ、本当に、
本当に命懸けちゃったらこんななっちゃうから、
プロ野球成り立たないんだ」と思ったの。
で、今の染五郎さんの話聞いてたら、
いわば魂懸けちゃったら、極端に言えばね、
ラブシーンだってあるわけだし、
よく共演者が結婚したりしますよね(笑)。
あれ、危ないところで生きてるっていう
ある意味証拠ですよね。 |
染五郎 |
そうですね、それはあるかもしれないですね。 |
糸井 |
で、そこのところをどこかで指をパチンと鳴らして、
「はい、これはウソですからね」
っていうのを練習してるわけでしょう?
そこの人生ってさあ、ものすごいですよね。 |
染五郎 |
だからやっぱり怖いですね。
なんかそういう、力っていうか何ていうか‥‥
ウソとはわかってんだけど、
なんか本当になっちゃうっていうか(笑)。 |
糸井 |
そこをだから倉本聰みたいな人は、
そこを利用して芝居作るじゃないですか。
『北の国から』の人が結婚しちゃったりさ。
あれ、悪いなぁと思った(笑)。
僕ら見て散々喜んでるんだけど、
そのへん、そこまで触るんだ! みたいな。
でも、歌舞伎の人とかは上手ですよね。
何ていうの、
「これはもう絵空事でございますから」
みたいな、何ていうんだろうな、
「長年私どもやっておりますが」
みたいな挨拶の仕方っていうか。
だって、子どもまで出しちゃったり、
もうある意味では生活懸けて全部放り込むけど、
でももう距離感は上手に
指パチッと鳴らすみたいなところが。
和服着たりするのもそのへん
関係あるのかなとか思うね。 |
染五郎 |
ああ、何かあるかもしれないですね。 |
糸井 |
様式の中で済ませるというか。 |
染五郎 |
はいはいはいはいはいはい。 |
糸井 |
でも、本当は魂懸けちゃってるときありますよね。
こういう芝居なんかねえ、
それはもう役者の人たちはすごいだろうなあ。
じゃ、「おっと危ない」と思うことありますか。
芝居の中の自分というのが現れちゃうみたいな。 |
染五郎 |
そうですね、うーん‥‥比較的ないか、
あ、でもやっぱり、歌舞伎で
どちらかというと理不尽な殺され方をする
役をやったときに、やっぱり引きずるというか‥‥
何かこう落ち込みますね。
役の上でなんですけど(笑)。 |
糸井 |
ああ、理不尽な殺され方をすると。 |
染五郎 |
俺が一番正しいことを言ってたのにっていう(笑)。
それで芝居がチョンといって終わっても、
何となく悶々とした1日になりますね、
その日は(笑)。 |
糸井 |
あ、そうですか(笑)。 |
染五郎 |
そうすると、歌舞伎はそのあとに最後に、
パーッと踊りがあったりするんです。
もしこれで終わってたりすると、
ちょっとなんか気分的に
陰に入ってしまうなとか思ったりするんですけど、
歌舞伎は比較的そんなのもありつつ、
最後にポーンと華やかなもので
終わるということがあったりするので。 |
糸井 |
はいはい、うまいですよね。
ああいう鍛え上げられてきたものというのは、
そのあぶなさを知ってますよね(笑)。 |
染五郎 |
知ってますね。 |
糸井 |
知ってますよね。 |
染五郎 |
3本、4本とまったく違う出し物を
いっぺんに見せたりして、
やるほうも1日3役とか4役とか
やったりするのもそれかもしれないですね。 |
糸井 |
薄めたりね。 |
染五郎 |
薄めたりしてるんです。 |
糸井 |
ちょっと冗談めかしたことを入れてみたりね。
あのへんはやっぱり芸の宿命的な恐ろしさを
なんか上手にしてますね。 |
染五郎 |
そうですね。
そういう効果もすごくある気がしますね。 |
糸井 |
そうですね。あ、そういえば、
うち、妻がそういう職業してますけど、
いやな役のときというか悪い芝居のときは、
浮かないですね。 |
染五郎 |
あ、そうですか(笑)。 |
糸井 |
浮かないですねえ。
何だろうと思って
自分で説明したときがありましたね。
「やっぱりこれはね、これはそういう役なのよ」
っていうのを説明しても、
まだ顔は晴れないみたいな。
それは、もっと昔は別居しましたね、
そういうときは。
ホテルに暮らしてもらいましたね。
俺に迷惑がかかるんで。 |
染五郎 |
そんなに違いますか。 |
糸井 |
歌舞伎の人は5本立てとか
平気でできるじゃないですか。
あれが羨ましいんですよ。
彼女とかは女の生理もあるのかもしれないけど、
1本ずつしかできないタイプなんです。
すると、そこのところで
やっちゃうんで残るんですよね。
タイプだと思うんですけどね。
直前まで新聞読んでた人が、
すーごい泣かせる芝居やるなんてこと、
歌舞伎の人たちは逆に自慢ですよね。 |
染五郎 |
うんうんうん。 |
糸井 |
で、終わってから平気で飲みに行ったりして、
朝イチの芝居やってますよね。 |
染五郎 |
早替りなんかまさにそうですよね。
1本の芝居の中で、
ともすると相手役もやったりするんで、
それはもうその役の生理をつなげるなんていう、
自分の感情の中をそういうふうに作ったら
絶対に早替りなんかできないですから。 |
糸井 |
だから、大きい意味で
踊りの段取りなんかに近いですよね。 |
染五郎 |
うんうんうん、そうですね。
いろんなものを踊り分けるってことは。 |
糸井 |
気持ちにも振付けがあるみたいな、
型から型への段取りで。
それはちょっと面白いですね。興味あるね。 |
染五郎 |
で、といって別に
段取りだけでやってるわけはなく、
感情も込めなきゃっていうことで
やってたりしますからね。 |
糸井 |
そこの駆引きを自分の中で‥‥丈夫ですしね(笑)。 |
染五郎 |
そう、丈夫ですねえ。
皆さん本当にお若いですからね。 |
糸井 |
丈夫ですよね。
でも、それは新感線の人たちにも
言えるんじゃないですか、
その丈夫さみたいなのは。 |
染五郎 |
ああ、それはあるかもしれないですね、すごく。 |
糸井 |
僕は今、「踊り最強論」というのを持ってて、
とにかく踊りをやってきた人は
何でもできるというふうに。
まず、太ももの太さが違いますよね。 |
染五郎 |
太くなっちゃいますね。 |
糸井 |
太くなりますよね。
で、そこに筋肉のほとんどがあるわけだから、人体は。
だから、小柄な人でも太ももドカーンとしてて、
飢えて死ぬってことは絶対ないぞみたいな
太ももしてますよね。 |
染五郎 |
(笑) |
糸井 |
あれできる人は、多分ほかのコントの間だとかも
全部踊りの覚える「一と二と」みたいに
覚えられるわけだし。
それね、萩本欽一さんが言ってたんですよ。
自分の芸の基礎は浅草時代の踊りだって。 |
染五郎 |
はぁー! |
糸井 |
あれ、踊りと一番関係なさそうな
場所にいるじゃないですか。 |
染五郎 |
そうですね。 |
糸井 |
でも、踊りだって。
あと、たけしさんが原点帰りみたいに、
あるとき、タップ始めたじゃないですか。
あれも僕は、その芸の基礎はここなんだって。
ジャニーズ事務所の子たちが
なんで芝居があんなにスッスッとできるか。
あれも踊りでしょう。
宝塚の人は、どうしてあんなに
掛け持ちとかつぶしが利くんだ。
踊りでしょう。 |
染五郎 |
ああ、なるほどね。 |
糸井 |
だから、最強は踊りだって。
染五郎さん見てても、
舞台でのあのキレは、
もし踊りやってなかったらえらいことでしょう。 |
染五郎 |
ああ、それはありますね。そうですね。
|
糸井 |
新感線の人たちも踊れる人ばっかり。
これがだから、
「俺は動き苦手なんだけど芝居うまいよ」
なんて人がもしここにいたら、
「そう?」ってみんなに笑われますよね。 |