糸井 |
ぼくは、この映画を京都で観たんですね。 |
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中沢 |
ほう。 |
糸井 |
客席には、お年寄りがすごく多くて。
で、ぼくをふくめた、おおぜいの観客が
あっちこっちで、泣きながら観てた。 |
本木 |
ええ。 |
糸井 |
すごい映画だなあって思ったのと同時に、
こういうテーマをあつかった作品が
こんなにもたくさんの人に、
すうーっと「わかられちゃう」って、
なんだか、うれしいような、不思議なような、
そんな気分がしたんです。 |
中沢 |
よく考えてみると、おどろきですよね。
このテーマで、ここまでヒットするのって。 |
糸井 |
ちょっとむかしだったら、
インテリの人たちが
好んで評価しそうな映画ですからね。 |
本木 |
うーん‥‥そうなんですか? |
中沢 |
差別の問題とかも、入ってますし。 |
糸井 |
うん、現代という時代は「死」や「生」を
人の肉体から遠ざけてしまった‥‥とか、
いろんな言いかたで
あたまのいい人が語りたがりそうな映画として
観られちゃったと思うんです、すこし前なら。 |
本木 |
われわれとしても、
「寝ころがって観てもわかってもらえる」
くらいの加減を探しながら、創っていました。 |
糸井 |
それが、大成功したんだと思う。 |
本木 |
脚本の小山(薫堂)さんも同じ気持ちですし、
とくに、滝田(洋二郎)監督は、
ニュアンスを残しながらも、
「わかりやすさ」に、こだわっていました。 |
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中沢 |
うん。 |
本木 |
だから、逆にいうと、
おふたりみたいにインテリのかたが‥‥。 |
中沢 |
そんな言いかた(笑)。 |
糸井 |
ちっちゃなころからマルクスの‥‥(笑)。 |
本木 |
ええ(笑)、反応してくださるなんて、
ぼくのほうこそ、おどろきでした。 |
糸井 |
映画自体、「両側」に通じてるんだよね。 |
中沢 |
そう、そう。通じてる。 |
糸井 |
ポップスとして聴けるキャッチーさもありつつ、
荘厳なオーケストラを聴いちゃった‥‥気もする。 |
中沢 |
深遠な内容を伝えることに、成功しちゃってんですよ。 |
本木 |
はぁ‥‥。 |
糸井 |
あと、さっき中沢くんが言ってた
「死」に対する日本人の意識の変化も、
大きいんでしょうね。 |
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中沢 |
うん、つまり、映画の観客、受けとめる側も、
この映画の内容と似たようなことを
感じはじめてるんだってことだと思うんです。 |
糸井 |
そう、だからね、ぜんぜんヘンな意味じゃなくて、
運も良かったんだなと思います。 |
中沢 |
「15年前じゃなくて、今」という
できあがった時期のことも含めてね。 |
本木 |
ああ‥‥なるほど。 |
糸井 |
『ファンシイダンス』のときに
「お坊さん」だったモックンが主演だし。 |
本木 |
あははは(笑)。 |
糸井 |
あの禅僧って「ポップス」じゃないですか。 |
本木 |
そう‥‥ですね。 |
糸井 |
あの映画が、お坊さんが「ポップス化」してしまった、
ということを描いてるとするなら。 |
中沢 |
つまり「お坊さんの不在」を、ね。 |
糸井 |
こんどの映画で「納棺師」が、
それまでのお坊さんの役割を引き受けたんですよ。 |
本木 |
様式的で‥‥でも、リアルな方法で。 |
中沢 |
そう、様式だけどリアルなんですよね、
納棺って。
たとえば「茶道」とか「華道」の所作って
いま、完全に形式的になってますよね。 |
糸井 |
たんなるカタチになってる。 |
中沢 |
どうして、あんなふうなやりかたで
お茶を飲まなきゃならないかって、
わかんなくなっちゃってるでしょう。
お花なんかも同じだと思うんだけど、
この納棺は‥‥観ててリアルなんだよなぁ。 |
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本木 |
ああ‥‥。 |
糸井 |
ひとつには、やっぱり「死」というものが、
ぼくらにとって
つねにリアルだから‥‥なんでしょうかね。 |
本木 |
まず、ほんもののご遺体が
目のまえに、横たわってるわけですし。 |
中沢 |
そうだよね‥‥そのリアルさ。 |
本木 |
ぼく、納棺の儀式に立ち会っているときに、
納棺師というのは、
役者という職業的視点から眺めても、
本当におもしろい存在だなって思ったんです。 |
糸井 |
わかります。 |
本木 |
それぞれのお宅という「劇場」も毎回ちがえば、
ご遺族という「観客」もちがう。 |
中沢 |
ご遺体という「相手役」も変わるしね。 |
本木 |
本番一発勝負だし。 |
糸井 |
うん。 |
本木 |
ジャズのインプロビゼーションみたいな要素もあるし、
場の空気を読んで、
遺族を誘導し、儀式をとりしきるところなんて
どこかオーケストラの指揮者のようでもあるわけです。 |
中沢 |
ほほう。 |
本木 |
でも、きっと、
役者は役に同化し、共鳴しようと
自分自身をアピールするけど、
納棺師は、遺族に寄り添うのが基本。
つまり、目のまえにいながら、
「黒子」を演じるんです。
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糸井 |
なるほどね‥‥ぼくがね、その「黒子」に
まず「持ってかれちゃった」のは‥‥
いっちばん最初の、冒頭のシーンでしたね。 |
本木 |
ああ‥‥。 |
糸井 |
さわるじゃないですか、ご遺体の。 |
中沢 |
ああ‥‥。 |
糸井 |
股間を。 |
中沢 |
うん。 |
糸井 |
あれで、この「納棺」にまつわる「エロスの問題」を
いともカンタンに、解決しちゃったんですよ。 |
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<つづきます> |