死を想う 中沢くんに誘われて、 モックンと『おくりびと』について話した。  モントリオール国際映画祭で グランプリを受賞した映画『おくりびと』。 観おえた糸井重里は、われら乗組員にむかって 「仕事を中断してでも観にいけ!」と言ったのです。 糸井にそこまで言わせた映画について、 中沢新一先生と、主演の本木雅弘さんと3人で、 たっぷり、話しあってもらいました。 そんなことから実現した座談会ですので、 作品をごらんいただいてから お読みいただくと、よりいいかもしれません。 もちろん、まだ観てなくても、楽しめます。 ともあれ、全12回の連載となりました。 観た人も、これからの人も、どうぞお読みください。


第1回 メメント・モリ   2008-11-25-TUE
第2回 納棺夫日記  2008-11-26-WED
第3回 お葬式  2008-11-27-THU
第4回 死はあたたかい  2008-11-28-FRI
第5回 それは「茶道」に似ていた 2008-12-01-MON
第6回 死的唯物論   2008-12-02-TUE
第7回 エロスの問題 2008-12-03-WED
第8回 チェロとご遺体 2008-12-04-THU
第9回 幼児性をあらわすもの  2008-12-05-FRI
第10回 誰かがすごく情熱的だったわけではない 2008-12-08-MON
第11回 山崎努 2008-12-09-TUE
第12回 15年後の奇蹟 2008-12-09-WED



糸井 いやあ、おもしろかったです。
本木 ありがとうございます。
糸井 あいさつもそこそこで
もうしわけないんですけど(笑)、
おもしろかった、ほんとに。
本木 いやあ、光栄です(笑)。
糸井 どんなふうにおもしろかったかについては
おいおい中沢くんもまじえて‥‥。
本木 はい。
糸井 あ、中沢くん。
中沢 どうも、どうも。
本木 はじめまして、本木雅弘といいます。
中沢 中沢新一です。いやあ、よかった。
糸井 おんなじこと言ってる(笑)。
中沢 え?
糸井 まぁ、もとはといえば、
中沢くんに薦めたられたんだけどね。
中沢 いや、よかったからさ。
本木 でも、ちっちゃなころから、
マルクスとかの本を読んでるようなかたと、
こうしてお話させてもらえるなんて‥‥
だいじょうぶかな。
中沢 そんな大げさな(笑)。
糸井 ちっちゃなころからマルクスって(笑)。
中沢 でもさ、そうそう、
本木さんがインドに行かれたときに、
本を編集されたでしょう?
本木 ええ、よくご存知で‥‥。
中沢 だって、あのなかに、
ぼくの本からの引用があるんですよ。
本木 ああ、そうなんです!
先生の『チベットのモーツァルト』から‥‥。

もう絶版で古本でしか手に入らないんですけど、
この‥‥『天空静座』という本。
中沢 そうそう、それそれ。
糸井 写真集のような、詩集のような‥‥
ずいぶん凝った本ですね。
中沢 おもしろい本なんだよー、これ。
糸井 (本をめくりながら)
へぇー‥‥。
中沢くん、これ、知ってたんだ?
中沢 うん、モックンがこんなのつくったんだーって。
糸井 それって、いつくらいの話?
本木 1993年に、出版されたものです。
糸井 ほー‥‥。
本木 じつは当時、藤原新也さんの『メメント・モリ』
衝撃を受けていて。
中沢 死を想え‥‥と。
本木 ええ。
糸井 で、インド漂流?
本木 はい。
糸井 そこで、死を想った?
本木 藤原さんの『メメント・モリ』には
ガンジスの川沿いに
焼け残った遺体が転がっていて、
それを犬が食いちぎり、
カラスがついばんだりしている写真が
載ってるじゃないですか。
中沢 うん。
本木 ニンゲンは犬に食われるほど自由だ‥‥なんて
言葉が添えられたりしていて。
糸井 ありましたね。
本木 なんて乱暴で、強烈なんだと思った反面、
直球で訴えかけてくるようなリアルな感覚に、
グッと掴まれてしまって。
糸井 なるほど。
本木 そのへんに死体が転がってる‥‥
そんなところがあるなら見に行こう、みたいノリで
男ばかり5〜6人で行ったんです。
糸井 そのときの体験をまとめたのが、この本?
本木 そうなんです。
中沢 インドでは、なにが印象的でした?
本木 そうですね‥‥やはり、ベナレスです。
そこに行くことがひとつの目的だったので‥‥。
糸井 ほう。
本木 そしたら‥‥意外にも、というか。
中沢 うん?
本木 死は、日常のなかの「いち風景」として
生と、共存していた。
糸井 なるほどね。
本木 ベナレスから帰るころには
こころが柔らかくなっていた‥‥というか。
中沢 いま、「生と死が共存していた」と
おっしゃいましたけれどね。
本木 はい。
中沢 そのとおり、死はね、そのへんに、ある。
糸井 そこに暮らす人のあたまのなかに、
死のイメージが、すでにあるというか‥‥。
中沢 そう、そうだね。
糸井 死とか貧困とか‥‥負のなにかが、
世界観のなかに存在してる感じですよね。
本木 はい、そんな気がしました。
中沢 つまり、日常に組み込まれてるんですよ。

‥‥死が。
<つづきます>


2008-12-10-WED



(C) 2008 映画「おくりびと」製作委員会

全国公開中

監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
音楽:久石譲
出演:本木雅弘、広末涼子、余貴美子、
   吉行和子、笹野高史、山崎努
『おくりびと』公式サイトはこちら。


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