糸井 |
なんだったんだろう、あれは‥‥。
ものすごい存在感を発揮してましたよね。 |
本木 |
山崎努さん。 |
糸井 |
とにかく「そこにいる」だけの芝居にも、
ちょっと「すごみ」を感じましたね。 |
中沢 |
うん、うん。 |
(C) 2008 映画「おくりびと」製作委員会 |
糸井 |
本木さん‥‥憧れたでしょう? |
本木 |
ええ、それはもう‥‥本当に。
最初から最後まで、打ちのめされっぱなしでした。 |
糸井 |
うらやましいなぁ、そういうの。 |
本木 |
山崎さんご本人にお会いしたのは、
これで2度目だったんです。
1度目はコマーシャルだったので、
ここまで密な関わりはなかったんですが、
今回は「本読み」からいっしょで。
ちらっと横目でのぞいたら、
ご自分のセリフ部分以外のところにも
線が引いてあったりして、
すでにもう、台本が真っ黒なんですよ。 |
中沢 |
へぇ‥‥。 |
本木 |
そして、本読みの最中にも、
なにか演出上のアイディアとかを思いついたら、
パッとメモ書きして、
スタッフに手渡したりしていたんですね。 |
糸井 |
ほー‥‥。 |
本木 |
でも、いざ、撮影がはじまったら、
ご自分のアイディアを押しつけたりとか、
パズルの穴に、自分の考えを
はめ込んでいくようなやりかたをしない。 |
糸井 |
うん、うん。 |
本木 |
なんというか、まさに役を「生きもの」として、
その場その場で「転がしてる」感じがしました。
そうですね‥‥たとえば
「メガネはかけない」ってことになってたんですけど、
「やっぱりここはメガネ、要るよな」とか
臨機応変に、その役柄を「生きている」というか‥‥。 |
中沢 |
観てても、そんな感じが伝わってくるよね。 |
本木 |
非常に公平で、
いい意見やアイディアは、ちゃんと拾ってくれるんです。 |
|
糸井 |
そうなんだ。 |
本木 |
持ち道具さんの若いアシスタントさんが
ちょっと口に出したことを
「さっき、彼が言ってたと思うけどさ‥‥」みたいに
その発言から広げていって、
山崎さんなりに
「だから、こうやりたいんだよね」なんて提案したり。 |
中沢 |
それは、うれしいんだろうねぇ。
アシスタントさんにしてみたら。 |
|
本木 |
スタッフやエキストラの人たち、
端役の若い俳優さんとも、同じ高さの目線で、
なんか「同士」みたいに接していて。
監督の要求もふくらませて受けつつ、
時には、静かに拒絶したり‥‥と(笑)。 |
糸井 |
なかなか、できないでしょう。 |
中沢 |
山崎さんから吸収したいもの、
たくさんあるんだろうね‥‥本木さん。 |
本木 |
ええ‥‥でも、あんな表情、誰にもできません(笑)。
それに、たとえば、納棺儀式の練習を
自分でも「はまってるなぁ」と思うくらい、
すごくやったんですよ、ぼくは。 |
糸井 |
実際、みごとでしたもんね。
本木さんの身体の裁きかたは。 |
中沢 |
うん、うん。 |
本木 |
もっとうまくなりたい、
もっとうまくなりたい‥‥と思って
繰り返し、身体でおぼえたんです。 |
糸井 |
そうでしょうね。 |
本木 |
でも、山崎さんは、
いっさい練習をしてくれなかった。 |
糸井 |
え? |
本木 |
ようするに「何のための儀式か」という
「納棺の儀」の要点を、
瞬時に、つかんでいたんだと思うんです。
ご遺族の気持ちに
寄り添う姿勢のほうが重要だって‥‥。 |
|
糸井 |
なるほど、なるほど。
手順とか、決まりとかの「型」よりも。 |
中沢 |
逆に言うと「型」や「様式」じゃないところで
山崎さんは「納棺の儀式」を表現してたんだ。 |
本木 |
ええ、そうなんです。 |
糸井 |
へぇー‥‥。 |
本木 |
だから、仏衣を着せる手順が違ったりして
スタッフが指摘したりすると、
「そんな決まりはいいんだよ、別に」って。 |
糸井 |
ははぁ。 |
本木 |
で、スクリーンのなかの山崎さんを見ると
手順の正しさとか、
着せかたのきれいさとかとはちがうところで
キャリアを感じさせ、
「納棺の儀」を、
どうどうと、とりおこなっているんです。 |
(C) 2008 映画「おくりびと」製作委員会 |
糸井 |
ふぅー‥‥山崎努さん。 |
中沢 |
すごかったねぇ。 |
本木 |
ほんと、やられっぱなしでした。 |
糸井 |
山崎さんの描きかたでいうと、もうひとつ、
「葬儀屋」と「お金」との関係が、
すごくじょうずに、あつかわれてましたね。 |
本木 |
お金、ですか。 |
糸井 |
つまり「納棺師」という商売は
あんまり、他にやるような人もいないし、
実際、あの界隈では
自分の会社が一手に引き受けてるわけですから、
なんというか「もうかってる」わけです。 |
中沢 |
山崎さんの会社はね。 |
糸井 |
だから、むやみやたらに高級車に乗ったり
大豪邸を建てちゃったり、
金歯チャラチャラさせたり‥‥とか、
そういう描きかたも、できるはずなんです。 |
中沢 |
というか、それがパターンだよね。 |
糸井 |
この映画は、それ、やってないでしょう。 |
本木 |
いや‥‥当初の段階では
大豪邸という話もあったんです‥‥(笑)。 |
糸井 |
あ、やめたんだ、それ。 |
本木 |
はい、やめたんです。 |
糸井 |
それもまた、成功だったね。 |
本木 |
ものすごく大きなガレージが開くと、
その向こうには、
豪華けんらんなお屋敷の生活があって、
カベにはルソーの絵なんか飾ってあって、
奥さんもきれいで‥‥という。 |
中沢 |
いや、あの孤独な背中の山崎さんが‥‥正解だよ。 |
(C) 2008 映画「おくりびと」製作委員会 |
糸井 |
つまり「大豪邸」にしちゃうのが
たぶん「マーケティング」なんだと思うんですよ。
納棺の会社をやっていて、
お金だけはじゃんじゃん入ってくるんだけども、
心の平安は得られない‥‥とか、
そういう典型的な描きかたをすれば
なんか、わかったようなこと言えそうだけど、
まったく「ナゾ」にしたじゃないですか。
山崎社長を、ああいう家に住まわせることで。
この映画は。 |
中沢 |
なんだか‥‥見ためがふしぎな建物だけに、
かえってリアルさを感じたというかね。 |
本木 |
なるほど‥‥納棺師のリアルを。 |
糸井 |
もっと言うとね、
主人公が、はじめてあの会社を訪ねて行ったとき、
なんというか「きれいだな」と思ったんです。 |
本木 |
きれい‥‥ですか。 |
糸井 |
うん。あの山崎さんの会社の佇まいに、
この映画をつくった「意思」のようなものが、
すーっと、見てとれたような気がしたんです。 |
(C) 2008 映画「おくりびと」製作委員会 |
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<つづきます>
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