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この本は、それぞれの写真に
大竹さんの文章がついてますよね。
その文章の中に、
ときどき大竹さんの妄想が入るのが、
読者として、とても好きで。
これは、大竹さん流の
写真を見るときの遊びなんですか? |
大竹 |
(笑)私、妄想癖があって、
それが出てしまうんですよね。
妄想と思い込みが体質化していて、
抜けられないんですよ。 |
── |
(笑)それって、写真を見た瞬間に
妄想が浮かぶんでしょうか。 |
大竹 |
そうです、妄想しようとして
そうなるんではなくて、
そう見えてしまうんです!
で、一度そう見えると、
それが自分の中に入ってしまって。
ちいちゃいときからの癖です。 |
── |
でも大竹さんの妄想は、
決して一方的ではないですよね。
大竹さんが、
妄想と現実の間を行き来しているのが
ちゃんと伝わってきました。
そして、写真の見方も自由ですよね。
たとえば、この空中ブランコは
すっごく自由な見方だなと思った一枚。
文章の中で
写真をひっくり返しちゃうじゃないですか。 |
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大竹 |
あー、これね。
私、よく写真をひっくり返すんです。
写真だけでなく、
何でもひっくり返しますね、そう言えば。
用途から外れた見方をしたりするのが、
好きなんです。 |
── |
写真をコピーして、
紙束にして持ち歩いていたから
というのもきっとありますよね。 |
大竹 |
たしかにそうですね。
分厚い写真集だと逆さまにしたり、
なかなかできないですものね。
B5サイズの紙束がよかったのかも。
それで、
なんでこの写真をひっくり返したかというと、
二人の立場が逆のほうが
転職のイメージに合ってるなと思ったの。
衣服が垂れる方向を考えると
理屈には合わないんだけど、
ひっくり返したほうが、
気持ちがしっくりこないですか? |
── |
たしかに、そうかもしれないです。
ひっくり返して見ると、ネクタイの人の
衣類がめくれてるところなんか、
転職した必死さを物語っているように見えますね。 |
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大竹 |
そう、一生懸命で、かっこつけてられない、
って感じがするでしょ。 |
── |
この「ひっくり返す」には、
ほんとうにビックリしました。
写真を見るときに考えたこともなかったです。
そして、写真を見るときって、
こうやって遊んでいいんだと
こちらの気持ちも、とても自由になりました。 |
大竹 |
写真の見方に正解はないんです。
国語のテストじゃないんだから。
作者が意図したこととちがうことを考えたって、
全然構わないんですよ。
だってそういうことは、
ふだんの日常にいくらだってあるでしょ。
たとえば、形を見ただけでは、
その使い道がぜんぜん分かんないものって
いっぱいあるでしょ? |
── |
たしかに。青竹踏みとか、
はじめてそれを見せられたら、
これ何だ?って思うかもしれません。 |
大竹 |
青竹踏みは
日用品だから分かりやすいかもしれないけど、
たとえば工事現場の設備なんかはどうですか。
毎日、駅に行く道々で見ていて、
あれって何だろう、
って意識のはじに引っかかっているけど、
深く考えないものって多くないですか。 |
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あるような気がしてきました。 |
大竹 |
今日の帰りにでも、そのつもりで見たら、
いくらでも見つかると思いますよ。
ここを通るたびに一瞬だけ、
変だなあと思ってたっていうものが。 |
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自分が意識してないところに
ヴィジュアル的な不思議が潜んでいる。 |
大竹 |
そう、視覚的なフックがあるんです。
それに心がひっかかって意識が揺れている。
これに気づくと、ものを見ながら
いろんな対話をするようになります。
これが写真との対話の基本だと思うんです。
逆に何かを思い込みで見ていて、
それが崩れる瞬間もありますよね。
たとえば、
ある塀をひとつの家のものだと思って、
ずっと見ていたとしますよね。
でも、あるとき、
二つの家の塀がくっついていたことに気づく。 |
── |
ああ、うん、うん。 |
大竹 |
じゃあなんでこの塀を、
ひとつの塀だと思っちゃったんだろう、
って思いながら、その壁をよく観察すると、
二つがひとつに見えるように誘導した
視覚的な理由が、どっかにあるんですよね。
どちらの家の壁も
ちょっとレンガ色っぽかったとか。 |
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色が似てるから、ひとつに見えてしまったと。 |
大竹 |
色以外にも、形や、光や影や、染みや、
ものすごくいろんなことに、
突然気づくんですよね。
小さなことでも、じっと見ることで、
大きな世界がひらけてくるんです。
だからまずは、
「何かを見てしまっている
自分に気がつく」ことかな。
妄想することもあるだろうし、
あたたかな気持ちになることもあるし、
非現実的な境地になることもありますよね。
そんな、いろんな感情、
感覚が生まれてくる理由を、
目が見ているものと関係づけてたどってみる。
そうすると、写真を見るという行為が、
もっと自由で、
楽しいものになってくると思います。 |
(続きます) |
2008-11-06-THU |