大竹 |
日本の読者なら、
『この写真がすごい2008』を見て、
共感できるものが共通していると思うんです。 |
── |
写真を撮った方も、見る方も日本人の場合、
ってことですよね? |
大竹 |
そうです。でも、ちがう国の人が見ると、
まったく変わってしまうんですね。
先日、ヨーロッパの若い女性に、
この写真を見せたんです。
そうしたら、彼女の反応が突拍子もなくて、
びっくりしました。 |
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大竹 |
これは浅田政志さんという写真家が、
あるシーンを設定して、それを
自分の家族と一緒に演じて撮っている
連作シリーズの一枚なんですけど、
日本人であれば、
これを見ればすぐに居間だなって思いますよね? |
── |
はい、居間以外には考えにくいです。 |
大竹 |
そして、居間でこんなにあられもない格好で
寝ているということは、
たぶん家族だろうって思いますよね。 |
── |
家族っぽいですね。
少なくともとても近しい人々だと‥‥。 |
大竹 |
でも、そのヨーロッパ人の彼女は
「中国のアディダスかなにかの工場の作業員が、
休憩時間に爆睡しているシーン」だって
言ったんですよ。 |
── |
びっくりですね(笑)。 |
大竹 |
「えー、なんで?」って思うけど、
これは面白いことだなあと思ったんです。 |
── |
そうかぁ、同じ写真を見ても、
受け取る側によって
そんなにもちがって見えるんですね。 |
大竹 |
他にも例があります。
このお通夜の写真に対するコメントも、
おかしかったです。 |
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大竹 |
私が「お通夜のシーンだけど、
不思議と安堵(あんど)するような感じない?」
って言ったら、「ぜんぜんしない!」と。
「おじいさんを失って、
このおばあさんはどんなにか悲しいだろうって、
それしか思いつかない」って言うんです。
このちがいは何だろうと思ったんですよ。
同じ日本人でも、人によって感じ方はちがうから、
一般化はできないけど、
この写真から私たちが受け取るのは、
悲しみだけではないですよね。
どこか安らぎのようなものを感じますよね。 |
── |
ありますね。死ぬことと生きることが
つながっていることからくる、
安堵感のようなもの。
‥‥しかも、不謹慎なんですけど、
この写真を見て
ちょっと面白いと思ってしまいました。 |
大竹 |
正直なご感想です!
ちょっと笑ってしまうというか、
微笑んでしまいますよね。
死んでいる人と
一緒に記念写真を撮るという発想に、
なにかぶっ飛んだものがある。 |
── |
一緒に写っている方、
ちょっと笑ってますしね‥‥。 |
大竹 |
そう、とくにお孫さんたちは微笑んでますよね。
どう振舞ったらいいのか
分からないようなお通夜の席で、
記念撮影という区切りがあることで、
みんなの気持ちがひとつにまとまって、
そこで自然と
笑みが浮かんだような感じを受けます。 |
── |
一段落されてますよね。 |
大竹 |
写真を撮る行為には、
その場の空気を変える効用もあるんじゃないかなと、
この写真を見て思いました。 |
── |
うん、うん、うん。
たしかに。 |
大竹 |
よくなにかの会合で、
会合自体は退屈だったとしても、
「記念写真を撮りまーす」と言われて
集まったとたんに、急に気持ちがほどけて、
いい感じになったりしますよね。
会話や笑いが生まれたり、
今日という日がたしかに存在しました、
という気分にもなる。
その写真を後で送ってくれなくても構わなくて、
写真がきっかけになって
その場の空気が変わるのが、面白いです。 |
── |
そうですね。
撮影の後では、人を前より身近に感じます。 |
大竹 |
お通夜の写真ということで、もう一枚。 |
── |
はい。これも、好きな写真です。 |
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大竹 |
おばあちゃんが亡くなった夜、
全員寝ているのに、この子だけが起きている。 |
── |
そう、表情が分からないので
何を考えているかは分かりませんけど、
体育座りしてるってことは、
結構長い時間、ここにいるんですよね。
たぶん。 |
大竹 |
この写真についても、ヨーロッパ人の彼女は
全然ちがう見方をしてました。
「なにか殺意を抱いている感じがする」
って言うんです。 |
── |
えー! ほんとにちがいますねぇ。
ちょっと怖い想像です。
それは西洋人が仏壇を認識できないことと
関係があるんでしょうか? |
大竹 |
そうかもしれないですね。
日本人ならこのシーンを見れば
一発でお通夜だと分かるから、
この子が殺意を持っているなんていう想像は、
あり得ないけれど、状況をつかめなかったら、
彼女の背中と、その前に横たわる人が目に入って、
瞬間的に殺意を感じ取ることは、
あり得ないことではないと思うんです。 |
── |
思いつきもしませんでした。
こんなにちがって見えるとは。 |
大竹 |
育ってきた文化、生まれた場所、世代‥‥。
つまりその人が
どんな背景を負っているかによって、
見え方がまったく異なるんですね。
外国人だからちがうというような
単純な話ではなくて、
同じ日本人同士でも、
思いがけないちがいを発見することは
あると思うんです。
ふだんはそういうことに
気づかずに過ごしているけど、
写真を間に置くことで、
それが可能になるんですね。
この本が、家族とか、友人とか、恋人とか、
近しい人とのコミュニケーションの
きっかけになってくれたら最高です。 |
(続きます) |
2008-11-11-TUE |