写りがいいというのは、 見えてるものがしっかり写っているということです。 目では見えていたものが、 カメラで写してみたら、滲んでいたり、 流れていたりすることがあります。 デジタルカメラについている 小さな液晶画面ではわからなくとも、 パソコンで見てみたり、プリントをしてみたりして、 大きくなればなるほどわかってきます。 そうすると、なんだかととても残念な気持ちになる。
人間の目というのは、すごくよくできています。 パッと見た瞬間は視覚認識ができていなくても、 感覚認識はできているということがある。 例えば、地平線に木が生えていたとしますよね。 それは杉なのか、カエデなのか、 木のディテールのこまかいところまでは わからなかったとしても、 針葉樹か落葉樹かは、わかったりする。 それが人の目です。 これが、デジタルカメラのズームレンズだと、 もう針葉樹だか、落葉樹だかわからないような感じで 写ってしまうことがあるんです。 けれども単焦点のレンズっていうのは違う。 「あ、杉だ」、「カエデだ」、 「クヌギだ」ってわかるくらい、ちゃんと写る。 ぼくが「まず単焦点のレンズ」を勧めるのには、 そんな理由があるんです。
トイカメラがブームになって、 「あんまり写りすぎないほうが、 雰囲気が写る」って思う人たちもいるけれど、 僕は、やっぱりちゃんと写ってほしいのです。 トイカメラは「意外なふうに写って、おもしろい」 かもしれませんが、 「私が思っていた雰囲気がそのまま写る」 わけではありません。 僕はせっかく自分が見て「あぁっ」と思ったものを、 できるだけごまかしたくないし、 オブラートで包んで、別のものにしたくはない。 大事なものにする時には、ちゃんと大事にする、 それが、「印象がそのまま写ってる」ということです。 僕がずっと続けている「今日の空」は、 ほとんどリコーの「GR」で撮っていますが、 この「GR」には、28ミリ単焦点の かなり本気でつくられた しっかりしたレンズがついています。 リコーの「GR」は、 出た当時、唯一の単焦点のデジタルカメラでした。 その頃のデジタルカメラって、銀色で、 ズームレンズが付いて、 「便利ですよ」みたいなので売り出していたものばかり。 ぼくはそれがとても嫌でした。 「なんで銀色なんだよ」 「なんで、ピロロロロとか音するんだよ」 なんて思っていた時に、 非常にオーセンティックな、カメラらしいカメラとして 「GR」が出てきたわけです。 そして、一般的なデジタルカメラの画像の比率が 4対3だったなか、 「GR」は、デフォルトで3対2、 それはライカサイズと言われてる、 いわゆる35ミリのフイルムサイズの比率でした。 そのとき、僕は、いの一番に飛びつきました。 4対3というのは、感覚的に、昔のテレビのサイズです。 センサーがビデオ用に作られたものだから、 そのまま静止画の世界に入ってきたのでしょうね。 それまでズームレンズのデジタルカメラを使って、 「今日の空」を撮ってたんですけど、 「GR」にしてみたら、圧倒的に写りがいい。 それからずっと、僕は「GR」を 代替わりしてもなお、使い続けているわけです。 今までズームレンズを使っていた人が、 「GR」などの単焦点カメラを使うと、 当然、不便に感じるはずです。 「それしかない」わけですから。 だけど、その分、 ちゃんと写ってくれるっていう安心感がある。 とくに空なんていうのは、雲だとか光だとか、 目には見えるのにうまく写らないようなものが 多かったりする世界だから、 レンズがいいっていうのは、すごく大事なんです。
【トイカメラ】 最近では、ちょっとしたブームということもあって、その意味は多岐にわたっていますが、もともとは“LOMO”や“HOLGA”といった、ロシア製の、特にプラスチック製のレンズを使用したカメラのことを言います。“LOMO”などはガラス製のレンズを使用していることもあって、うまく条件が合えば、しっかりと写ることもありますが、基本的には、その少しゆるめの“低性能”ならではの写りが魅力なのではないでしょうか。
【中判カメラ】 一般的には、ブローニフイルムという幅6センチのフイルムを使用するカメラのことを指します。通常のフイルムの幅が約2.5センチですので、同じ比率の場合の面積は、5倍以上となりますので、特に拡大した際の描写力は圧倒的に異なります。その描写力こそが、中判カメラの魅力です。