その4 「古いもの」と「あたらしいもの」。

 
LEICA M8 + Summicron 35mm/f2

もうすぐ秋な津軽にて。
いつものようにふらふらと歩いていると、
いきなりあらわれた湿地帯。
曇りがちだった空も、なんとなくあった湿気も、
そこにあった空気感のようなものが
写ったような気がしました。

 
  かつて、フイルムカメラしかなかった時代には
「一生もの」ということばが使われました。
けれども、前回までお話ししたコンデジもそうですし、
最新型のデジタル一眼レフにしても、
「一生もの」という感じがしません。
ミラーレスにしても、一所懸命、
一眼の機能を盛り込もうとして、
溢れてしまっている感じがします。
たぶん、いまはカメラの歴史において、
「写真を撮るための道具としてのカメラ」は
まさに、混迷の時代なんだと思います。

いっぽうでレンズメーカーというのは、
「一生もの」の名に値するものを
今でも、しっかりつくってくれていると思います。
日本を代表するメーカーでもあるニコンはもちろんのこと、
「DP」シリーズのカメラをつくったシグマも
本領はレンズメーカーで、
とてもいいレンズをつくっている。
そのシグマに刺激されているのかわかりませんが、
コシナ(COSINA)というメーカーも、
ここに来て、すばらしいレンズを世に出しています。
たとえば、ノクトン(NOKTON)
というレンズがあるのですが、
これは明るさが「1.0」もあるんですね。
それって、実は、1960年代にウィーンで創業した
フォクトレンダーという会社の有名なレンズなんです。
それを、コシナが現代に甦らせた。
使ってみて、
「いいものを作れば、ちゃんと売れるのだな」
と思ったのですが、
1960年代のレンズ設計をベースにしながら、
現代によみがえらせるというコンセプトなので、
非常に古い構成なんだけれども、
現代的にちゃんと撮れる。
それはどういうことかっていうと、
昔のレンズを現代のカメラに使用した場合、
すべてがすべてというわけではないのですが、
中心は素晴らしいんだけれど、
周辺部になると、なんとなくぼけたように感じるのです。

 

【フォクトレンダー】
カメラが発明される以前、
18世紀オーストリアのウィーンにて設立された
世界最古の光学機器メーカー。
オペラグラスを発明したことで、
長きに渡って“オペラグラス”のことを
“フォクトレンダー”と呼ばれていました。
その後、今でもその名を残す「ベッサ」という
スプリングカメラ
(蛇腹を用いた自動起立式カメラ)が大ヒットし、
次から次へと「なぜならレンズがとてもいいから」
というキャッチフレーズと共に、
数々のレンズとカメラを発表していきました。
一時はその行く末が心配されましたが、
現在は、長野に拠点を置く「コシナ」のもとで、
現代のレンズとカメラとして、
しっかりと生まれ変わっています。

 
  いま僕は、ライカのデジタル・レンジファインダーカメラ
「Mモノクローム」を使いはじめているのですが、
素晴らしい反面、変な言い方ですが、
おそらく「写りすぎちゃう」んですね。
だから、オールドレンズ付けた場合、
相性が悪いと、そのオールドレンズの特性が、
いい意味でも悪い意味でも、出てしまう。
フイルムだったら、いい感じの「味」になっていたのが、
デジタルではノイズやモアレなど、
「アラ」になっちゃう可能性があるわけです。
だから、ある程度現代的なレンズをマッチングさせないと、
だめなのかもしれないなぁと思っていたところなので、
「Mモノクローム」でも、
ライカのレンズはもちろんのこと、
最新のNOKTONを試してみようかと考えているんです。

 
LEICA M monocrome + Noctilux50mm/f1.0

ぼく自身がまだ慣れていないこともあって、
カメラが自身の目の延長線上にないような。
そのせいか、なんとなく写真も不安定な感じがします。
うまく言えないのですが、
感じたことが写っていないのです。
それでも、こと写りに関しては抜群ですね。

 
  前置きが長くなりましたが、
その「ライカ」の話を、すこしだけします。

写真がうまれて186年ですが、
僕らの世界で写真というものが常的になったのは、
ライカのおかげなんです。
バルナックさんっていう人が、
映画のフイルムを詰められるカメラを作って、
初めて、手持ちで撮れるようになった。
そこから、写真っていうのは、一気に
新聞や雑誌といった印刷物の発展とともに
一般の社会に入って行きました。
そこから、今に至るまでの歴史を、
ライカ自身が、会社の中に
きちんと持っているような気がします。
そして「写真的な写真」っていうのはどういうものなのかを
もしかしたら、どのメーカーよりも知っている
会社じゃないかなぁと思うのです。

しかも、すごいなぁと思うのは、
コンシューマー向けの、
パナソニックベースのコンデジにも
「ライカ」があるんですが、ああいうものから、
フラッグシップモデルの、
1台100万円とかするようなカメラまで、
ちゃんと一本通じている「画づくり」がある。

ライカがデジタルカメラをつくった最初は
「M8」というカメラでした。
そこに入っているのは「コダック」のセンサーです。
コダックっていう会社もまた、
現代写真の歴史を作った会社です。
そのコダックとライカが一緒になると、
他には代えがたい写り方を、やっぱり、してくれた。
それをぼくはひとつのエポックメイキングな
出来事だととらえていたんですね。

その後の「M9」はソニーが、
「M」はベルギーのCMOSIS社が
それぞれセンサーをつくっているので、
また表現が変わっていくのですけれど、
ぼくは今でも「M8」が写し出した絵が、
もっとも写真的であると感じています。

 
LEICA M8 + Summicron 35mm/f2

先日訪れたミラノにて。
ぼくたちが食事をしている横の席の家族連れが、
まるで絵画の一コマように見えたので、
撮らせてもらいました。
そして、こうやって一枚の写真になったことで、
その絵画っぽい感じは、
より一層深まったような気がしました。
こんなところが、ライカの真骨頂です。

 
  そして「Mモノクローム」。
ここで(一説には、コダックと組んだと言われています)
ライカはモノクロ専用のセンサーを開発、
この時代においてあえて
「モノクロ専用機」をつくりました。
RGBに分けるところをすべてモノクロで表現するので、
通常の3倍‥‥とは言わないまでも、
ぼくの感覚からすると約1.5倍の解像力がある。
となると、やっぱりオールドレンズだけではなく、
現代的なレンズもたくさん試してみたいと思っています。
それでも、時々びっくりするような写りをする
オールドレンズがあるのですから、
つくづく、ライカのレンズは侮れません。

現代ということで、最初にデジカメとしての
ライカのお話をしましたが、
ぼくはいまだに、フイルムカメラをよく使っています。
中でも、一番よく使うカメラが、ライカの「M3」です。
そして、そのカメラと一緒に
ぼくが好んで使っているレンズは、
「ズミクロン50ミリ」。
通称「沈ズミ」と呼ばれている沈胴型のレンズです。
とにかく、ふつうに、そしてしっかりと、写ってくれます。
もちろん、その写りは何を撮っても、
なんとも「写真的」です。
このカメラは、1954年に発表され、
その「M」の名が、現行のモデルでも残っているように、
そのデザインと構造はほとんど変わっていないのですから、
どれほどの完成度だったのかがよくわかりますよね。
とはいっても、もちろん古い機械式のカメラですから
それなりのメンテナンスが必要です。
しかし、日本には優秀な職人さんがいてくれるので、
今でも、安心して使用することが出来るのです。

ライカといえば、昔であればあまりにも高級で、
いいなあと思っていても、高嶺の花でした。
しかし、最近では、フイルムカメラは
どちらかというと一般的ではなくなってしまいましたので、
そんなライカも「M3」はかなり安くなってきています。

 

【フイルムえらび】
また、改めてきちんとお話したいと思っていますが、
ぼくが常用しているフイルムは、
「Kodak Tri-X」というモノクロフイルムです。
このフイルムは、きわめて汎用性の高いフイルムで、
長きに渡って、基本的な特性は変わっていません。
「FUJIFILM ネオパン400PRESTO」
というモノクロフイルムと
「FUJIFILM PRO400」というカラーネガフイルムも
バランスのいいフイルムなので、好んで使っています。

 
  いずれにしても、もともとカメラという道具は
写真を撮るための道具だったはずなのですが、
今では、あまりにもいろんな機能が付き過ぎてしまって、
カメラが混迷な時代なのはもちろんのこと、
「写真って、いったいなに?」
などと感じている方もたくさんいるのではないでしょうか。
それを確かめる意味でも、
時には、「M3」のような古いフイルムカメラで、
「写真らしい写真」を撮ってみながら、
そのすがたを追いかけてみても、いいのかもしれません。


 
LEICA M3 + Summicron 50mm/f2 Film/Kodak Tri-X

すっかり手になじんだカメラで、
しっかりと感じたものが写っています。
この安心感が、ぼくにはとても大切です。
いつの日も、お気に入りのカメラというのは、
いざという時に、力を貸してくれるものです。
そんなカメラが見つかるといいですね。
 
2013-09-26-THU
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