菅原 |
いま、シグマの製品はすべて
この会津工場でつくられているんですよね。
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山木 |
はい。旧社屋は管理系、
A棟がガラスの加工、
B棟と新B棟で表面処理と、
一部、光学系の処理などをしています。
C棟は金型を作る工場と、
射出成形といいまして、プラスチックとか、
プレスの加工をする所です。
当社では工場のコンセプトを
「垂直統合型の工場」と呼んでまして、
日本では、ふつう、この工場はアセンブリ工場、
この工場はレンズ加工工場みたいに分けることが
多かったんですが、当社は、最初から、
ここで全部やろうということでやってます。
小さい町工場の集積所みたいに、
加工要素の違うものが、全部集まってるんです。 |
菅原 |
レンズをつくるというのは
そうとうこまかな過程を要する作業ですよね。 |
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山木 |
はい、たとえば
「研磨(けんま)」にも3つの工程がありまして、
大方の形を出す「粗摺(あらずり)」、
寸法出しをする「精研(せいけん)」、
仕上げの「研磨」です。
その後「コーティング」、
これはレンズの表面になるべく反射しないように、
蒸着の膜を付けるという加工ですね。
そして「芯取り」。読んで字のごとく、
芯を取るということで、
光学的な中心が
本当に製品の真ん中に来るように加工します。
さらに内面反射を抑える「墨塗り」、
色収差を抑えるためレンズを2つ貼り付ける「接合」。
こうしてできあがったレンズをユニットにします。
金属パーツはまた別にあって、
「旋盤」「マシニング」「カム切り」と。
こういう加工をすべてここでやっています。 |
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菅原 |
最近のシグマさんの製品は、
特に、ズームレンズのヘリコイドの
動きがすごいと思うんです。
スコスコしてないっていうか。
なにか特別な工夫をなさっていますか?
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山木 |
いや、特にはないですよ。
ちょっと日本の方には重いって
言われることが多いんです。
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菅原 |
重いけど、動き始めると、緩くなりますよね。
ヨーロッパ的っていうか、
ライカ的だと思います。
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山木 |
そうですね。ヨーロッパの方の好みに
近いかもしれませんね。
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菅原 |
それって以前、ニコンの方が、
「どうやっても、それができない」
とおっしゃっていたんです。それを、
シグマさんは実現できているように思います。
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山木 |
ありがとうございます。
ただ、うちのも、金属のなんとも言えない、
あのねっとりした感じっていうのは、
オートフォーカスになってからは、
正直、むずかしいです。
ただ、そこは、なるべく近づけようとしています。
「あれがよかったよね」っていうのは、
当社の生産技術者の間でコンセンサスがあるので、
どこまで感触を出すかっていうのは、
量産試作の中で苦心するところです。
コロという部品を100分の1ミリ単位でいっぱい揃えて、
溝の幅と、そのコロの関係で、
「感触出し」っていうのをしています。
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菅原 |
すごく細かいところなんですけど、
写り云々以前のところで、
カメラもレンズも、やっぱり、道具じゃないですか。
ぼく、シグマのカメラは「SD14」(一眼レフ)を
最初に買ったんですけど
決め手はシャッターでしたよ。 |
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山木 |
あぁ!
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菅原 |
その当時、なかった、
すごく気持ちよく静かにおりるシャッター。
ある意味くだらないことかもしれないけれど、
みんなにすすめる理由って、
あんがい、そういうところにもあるんです。
「触って気持ちいい」って。
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山木 |
SD14を作ってる時は、エレガントで、
ライカのシャッターみたいにスコンと落ちる感じを、
再現したいよねっていうことで。
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菅原 |
過去にあったすぐれたものを再現することも、
行きすぎると「あれ?」と思うこともありますよね。
そして新しいカメラは新しくていい、
という考え方もあります。
どちらにせよちゃんと「今の時代の中での提案」であれば
おもしろいなぁと、ぼくは思うんです。
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山木 |
あぁ、そうですね。
おっしゃること、すごく共感します。
たしかにクラシックなものって、
絶対的なよさがありますね。
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菅原 |
はい、そこは異論がありません。
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山木 |
昔のものって、すごく愛着も湧くし、質感もいいし、
ただそれを今のものづくりで目指しちゃうと、
結局、それが到達点で、それ以上にはならない。
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菅原 |
そうなんです。ナンセンスですね、やっぱり。
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山木 |
いろんな条件が違いますから、それはむずかしいんです。
現代のものづくりは、
昔へのオマージュという部分はありつつも、
今の中で何を目指すかっていうと、
「レトロ路線」ではなく、
今あるもので、どう質感を追求するかっていうことかと。
それがものづくりの目指すべき方向だと思うんですよね。
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菅原 |
ぼく自身は、好き嫌いで言ったら、
デジタルが好きなわけではないんですよ。
けれどぼくはまだ写真を続けていきたい、
フイルムに“こだわって”いても、
突然、フイルムってものが供給されなくなったら、
写真ができなくなるわけじゃないですか。
それは本末転倒になりますよね。
だから、ぼくは、積極的に、
今の中でできるだけのことをやりたいっていうふうに
考えているんです。
おそらくシグマさんのものづくりも
同じことだと思うんです。 |
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山木 |
そうですね。おっしゃる通りです。
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菅原 |
シグマさんのプロダクトは、
目からうろこじゃないですけど、
勇気があるなぁと思うんです。
DPシリーズにはズームレンズがない。
一眼レフのSDシリーズにしても、
「便利」ではありません。
キヤノンの7Dみたいに、
パッと撮れるわけじゃないし、
撮ってもデータの保存に時間がかかる。
だけど、それがすごくおもしろいなぁと思います。
レンズのデザインも、変えましたよね、
カッコいいですよね。現代的な匂いがします。
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山木 |
新シリーズから変えました。
やっぱり、モノというのは、カッコよくないと、
嫌だと思うんですよね。
それも現代的なテイストで。
レトロ方向に行っちゃうと、結局、
「ライカのあれが最高」で終わっちゃうので。
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菅原 |
各メーカーの新しいレンズが
カッコ悪すぎるということについて、
なぜもうちょっと気を遣わないんだろうと
思っていたんです。
そこに対する「しつこさ」というか、
譲らないぞという部分が、たぶん、開発の中に、
ないんじゃないかなと思ったりして、
そこが寂しいなぁと。
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山木 |
もちろん他メーカーさんは
すごくいいレンズを作ってらっしゃる。
あとはテイストの問題なので、
その方向性が好きな方もいらっしゃると思います。
ただ、シグマは、こっちの方向かなということで、
今回はご提案してるんです。
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菅原 |
レンズの美しさって、ガラスがきれいに見えることが
すごく大事な要素だと思うんですよ。 |
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山木 |
本当にそうですね。
実際には、まだそこの課題はあると思っています。
今回は、メカ系の美しさでやってるんですけれども、
レンズって、やっぱり、レンズ単品が
いちばん美しいんですよね。
そういった意味では、昔のマニュアルレンズって、
レンズと、薄い金属の鏡筒と、フォーカスリング。
薄着の美しさなんですよ。
現代のものは、
オートフォーカスのモーターが入って、
絞りのモーターが入って、
手ぶれ用のモーターが入って、
センサーが入っている。
着ぶくれ状態なんですね。
だから、レンズとかマテリアルの美しさを表現するには、
かなり不利な状況です。
そこはまだまだ課題で、常に意識しながら、
なるべく引いて表現したいなと思っています。 |
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菅原 |
レンズって、単純に画角を決めるとか、
カメラに付いてるのが当たり前になっちゃってますけど、
そうじゃなくて、ぼくは、カメラっていうのは、
やっぱり、ものをきれいに見るための道具でも
あるような気がしていて。
光が増幅されるわけじゃないですか。
一眼レフだとちょっと気が付きにくいですけど、
例えば、ハッセルブラッドとか、
ああいう上から覗くカメラで見ると、
明らかに、ファインダーのほうが、光が豊かというか。
レンズが光を増幅させてるわけですから、
そこにやっぱり、ロマンもある。
そういうことが伝わったらいいなと思っているんです。
そのほうがファインダーを覗いていても、
やっぱり楽しいじゃないですか。
だから、パッと見た時のレンズが、
「わぁ、きれいだな」っていうふうに思えないと、
そこのインスピレーション湧かないと思うんですよね。
だから、レンズの玉のきれいさっていうのは、
実はすごく大事じゃないかなと思ってます。
(次週につづきます) |