糸井 | えー、みなさん、こんにちは。 ひさびさの「ほぼ日」ラジオ部門ですが、 今日は、ゲストに 作家の冷泉彰彦さんをお迎えしました。 |
冷泉 | よろしくお願いいたします。 |
糸井 | これから1時間くらいにわたって 先日、就任したオバマ大統領のことなどについて、 いろいろうかがっていきたいなと。 |
冷泉 | えーと、はい、じゃあ、 オバマさんのちょっとしたエピソードから お話ししてみましょうか。 |
糸井 | お願いいたします。 |
冷泉 | オバマさんが、 いまの奥さまのミシェルさんと知り合って 結婚しようとしていたときに、 ミシェルさんのお兄さんが、 オバマさんに、ある試験をしたんです。 |
糸井 | ほう、試験。 |
冷泉 | お兄ちゃんとしましては、 「大丈夫なんだろうか、この男で」というのが やっぱり、あったんでしょう。 いっしょにバスケットをやろう、と。 |
糸井 | バスケですか。 |
冷泉 | つまり、 「そいつがまともなヤツかどうかは、 5分間、バスケをやってみればわかる」 と言うわけなんです。 |
糸井 | なるほど。 |
冷泉 | いかにもアメリカっぽい話なんですけど、 オバマさんは、 みごと、その試験にパスしたんですって。 |
糸井 | ようするに、スポーツの場面では その人の性格、つまり一生懸命さだとか、 あるいは逆に卑怯さなんかが、 とっさに表れちゃうということですか? |
冷泉 | そうそう、そうなんです。 人間そのものが出ちゃうといいますかね。 |
糸井 | なるほど‥‥同じような話でいうと、 就任演説のときの オバマさんの顔、おもしろかったなぁ。 |
冷泉 | ぼくもね、 あの日、いちばんびっくりしたのは オバマさんの顔でした。 |
糸井 | そうですか。 |
冷泉 | あの就任式がはじまる直前、 200万の聴衆を前に 副大統領をはじめとした閣僚や ブッシュさんなんかが ぞくぞくと、出てきたじゃないですか。 |
糸井 | オバマさんは、最後に登場しました。 |
冷泉 | 舞台へ続く廊下に立つ姿が映ったんですが、 ものすごく、緊張した顔をしていた。 |
糸井 | うん。あれには、しびれたなぁ。 |
冷泉 | あれだけ緊張したオバマさんの顔って わたしも、はじめて見たんですよ。 |
糸井 | アメリカで、 オバマさんをずっと見てきた冷泉さんも。 |
冷泉 | ああ、このバラク・オバマという人は、 「大統領に当選したということ」と 「大統領になるということ」とのちがいが、 わかってるんだなぁ‥‥と、思いました。 それだけでも、すごい才能を持ってるなと。 |
糸井 | ぼくも、就任式を深夜の生中継で 観てたんですが、 オバマさんが画面に映った瞬間、 流行り言葉でいう「オーラ」がなかったんです。 |
冷泉 | ああー‥‥。 |
糸井 | わたしはこの国で最も大きな権力を持つ者です、 という顔で、テレビに映らなかった。 |
冷泉 | ええ。 |
糸井 | ドキュメンタリーってすげぇなぁって 思うと同時に、 そんなオバマさんに、 なぜだか、好感を持ったんですよね。 |
冷泉 | はい、はい。 |
糸井 | ひとりのアフリカ系アメリカ人が、 「そのままの背丈」で、 「そういう大きさの人」として映ったことが、 なんだか、うれしかったんです。 |
冷泉 | なるほど。 |
糸井 | それとは対照的に、 副大統領や国務長官のヒラリーさんなど 他の閣僚の人たちは もう「政治家の顔」になってた。 |
冷泉 | うん、ニッコニコしてね。 |
糸井 | ちゃんと晴れがましい顔をしてたんです。 ニッポンの内閣の人たちが 階段のところで写真を撮るときの顔と同じで‥‥ あれは、すごく対照的でしたね。 |
冷泉 | うん、そうですね。 |
糸井 | オバマさんについては、どういうわけか 「疑い深い目」で 見ようとしちゃうところがあるんですよ。 |
冷泉 | だまされないぞ、みたいな?(笑) |
糸井 | いちばん人の良さそうなやつが、 悪者だったなんてこと、 ドラマとかでも、よくあるじゃないですか。 なんか、そんなことがよぎるもんですから、 とにかくオバマさんには ちょっと点が辛かったんですよ、ぼく。 |
冷泉 | はい。 |
糸井 | なのに、ああいう顔を見せられると‥‥。 |
冷泉 | ああー‥‥。 |
糸井 | 冷泉さんは「ひいき」してました? |
冷泉 | いや、してないはずだったんです。 |
糸井 | はずだった(笑)。 |
冷泉 | でも、テレビに映ったあの表情を見たら、 ちょっと、やっぱりね。 イヤな言い方すれば、 まるで死刑台をのぼっていく死刑囚のような‥‥ すごい孤独感があったでしょう。 |
糸井 | なぜ孤独だったかって言ったら 「まわりがニコニコしてたから」とも 言えると思うんですよね。 |
冷泉 | そうそう、そうですね。 |
糸井 | ああー、オレ、いま思い出したわ。 矢沢永吉って人が、 コンサートの直前は「あれ」らしいんですよ。 |
冷泉 | ほう。 |
糸井 | ヒザが震えるほど緊張するんだって。 |
冷泉 | それは、矢沢さんが 本当に才能のある証拠なんだと思います。 |
糸井 | うん、うん。 |
冷泉 | つまり、これから 自分がやんなきゃいけないことの大きさを、 ちゃんと、わかってる。 それは、すごいなと思いましたね。 |
糸井 | それで、「ひいき」してないつもりだったのに、 ちょっとスイッチが「ひいき側」に? |
冷泉 | ええ。ちょっと「ひいき側」に(笑)。 |
<つづきます> | |
2009-02-18-WED |