日本からニューヨークに行くとしましょう。
フライトスケジュールは二通り。
午前中に日本を出て、午前中につく便と、
夕方にでて夕方に着く便の二種類。
目的地での滞在時間にこだわるのなら、
午前中につく便になる。
けれど、睡魔と闘いながら
半日以上を我慢するのがつらくて、
だから予算と日程に余裕があるときには
夜の便を重宝しました。
飛行場から街に向かう道路も空いて、
イライラすることがない。
ホテルに着いたら、すぐチェックインができる時間です。
部屋に入ったらまずバスタブの蛇口の下に
バスバブルをおき、お湯をためて泡に浸かります。
日本の垢を落として、現地の香りを身に纏う。
ホテルにおかれたソープやシャンプー。
それは不思議と、その街の香りをもっているようで、
日本のボクがユックリしかし確実に、
ニューヨークのボクになっていくのをじんわり感じる。
あと数時間。
ほんのちょっとだけ我慢して
起きていることが出来さえすれば、
その後、時差ボケに悩まされることもなく、
この旅行が楽になる。
あと数時間。
することと言えば、まず夕食を食べること。
今回の旅行で一番最初の食事。
当然、気合が入ります。
ただこの気合の入れ方次第で、
この旅行がすばらしいモノにもなれば、
前途多難なモノにもなっちゃう。
かつて、こんな経験をしたことがありました。
ニューヨークのレストラン視察が目的の旅での出来事。
レストランの経営者の方々が旅のメンバー。
夕方到着のフライトでニューヨーク入りし、
ホテルにチェックインしたのが夕方7時ちょっと前。
10人ほどの参加者には、
夕食は8時にスタートしますからと告げて、
ボクは夕食を取るため予約をしておいた
レストランの下見をします。
ちょうど泊まっていたホテルのメインダイニングが
とても評判の良いレストランで、
そこに予約をしていたのです。
100年以上も前にできた老舗のホテル。
そのメインダイニングを、
有名なシェフが引き継いだのが前年のコト。
最先端のフランス料理を提供していて、
世界中から料理人たちがワザワザ、食事をしにくるお店。
クラシックなアールデコの内装を台無しにせぬよう、
けれど斬新なリノベーションが行われた、
薔薇色を基調にした濃厚なインテリア。
その一番奥の、半個室のようになった
親密な空間がボクたちに用意された場所でした。
上等な席。
テーブルの上には艶めかしいほどにうつくしい花。
ピカピカに磨きあげられたナイフフォークが
ズラッと並び、ボクらのコトを待っています。
そのありさまに、
ボクはすぐさま参加者の部屋に内線をかけ、
今日のレストランはとびきりオシャレな装いに
ふさわしいお店ですから‥‥。
そう、若干の興奮をもって伝えました。
時間にあわせて紳士が続々、
レストランに集まってきます。
とびきりオシャレなジャケツと、
街の香りを身にまといニコヤカに。
けれどこのあと、みんなをおどろくべき
天国と地獄が襲うというコトを、
ボクを含めて誰も知らずにただただ笑顔で‥‥。
ポンッとシャンパンの栓が抜かれて、
フルート型のグラスにやさしく注がれる。
グラスの底からユラユラ、螺旋を描いて舞い上がる、
泡を合図に晩餐会がはじまります。
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