なるほど。
それもそうと、クローゼットの中のブリーフケースを手に、
ソファに座ってスケジュール帳を開いて明日の打ち合わせ。
「よろしければ」とリッコが差し出すティーカップ。
中にはボク好みに仕上がった、
熱いアールグレーのミルクティー。
明日は9時半にはチェックアウトをしたいから、
8時には起こしてくれませんか?
電話でおめざめになりますか?
それともノックいたしましょうか?
「起こして」というその一言に、
また質問をしてくるリッコに、
ボクは負けるもんかと次々、
思ったままを言葉にします。
起きたらシャワーを浴びるから、
電話で起こしてくれればいいから。
9時半にはルームサービスで朝食を。
玉子2個のフライドエッグを、
白身の縁が茶色いフリルになるくらいまでよく焼いて。
黄身は潰れて構わないから。
オレンジジュース。
カフェイン抜きのコーヒーに、
薄切りにしたオールウィートのパンを
よく焼ききったドライトーストにして添えてください。
そして、ハムは何があるのですか? と‥‥。
聞いてしまった。
ボクは思った。
彼の答えは大体、わかってる。
「ミスターサカキのおっしゃるがまま」って、
結局、ボクへの質問になるに決まってる。
案の定、リッコはニコリともせず、
「ロサンゼルスにございますハムは、
すべてミスターサカキのハムでございます」。
そうでしょうとも‥‥。
脂ののったジャンボンブランを厚めに切って、
軽くソテして添えてください。
それにしても、食事のコトになるとスラスラ、
次から次へと言葉が出てくる。
そんなボクに、リッコは聞きます。
ミスターサカキがハンバーガーを召し上がられた
レストランは、坂道を上がった先の角のお店では
ございませんか?
もしそうだとしたら、ナイスチョイスでらっしゃった。
そのとおりなのだけれど、
リッコはどうしてそう思ったの? と、ボクは聞きます。
おいしいモノに鼻のきく方は、
この界隈で、たいていそのレストランを選ばれます。
しかもお夜食が必要ないとなれば、
充分、満足召されたようでホッといたします‥‥、と。
なるほど、彼の仕事の中には
ボクという人間を理解すると言う仕事が含まれている。
含まれていると言うよりも、
その手順を踏まなければ彼は先に進めぬほどに、
それは大切なコトなんだ、とそのとき感じた。
ボクは果たしてどんな人として、彼に見えているんだろう。
ただの食いしん坊のように見えているのなら、
当たらずとも遠からずにてそれはそれでよし。
ジャガイモはリヨネーズにしてもらえますか?
そう付け加えてカップの紅茶を飲み干した。
さて、これで明日の朝は大丈夫‥‥、
と思うボクにリッコはなおもこう問いかけます。
お車のご用意はいかがしましょう?
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