リッコがオレンジジュースとコーヒーを準備しはじめる。
厨房の中から玉子の焼ける音と匂いがやってきて、
ドロレスがベッドルームのメークをはじめる。
トースターと薄切りのオールウィートブレッドが
ワゴンと共に運ばれて、
リッコがボクのかたわらでトーストを焼く。
この厚さがお好みの厚さでしょうか?
と、そういうリッコにボクは、
パーフェクトって答えて、続いて、
もしこの厚さでなかったら、どうしたの? と聞く。
ワタクシがキッチンで切ってまいりましたから、
もしお好みでなければ再び、切ってくれば
すむコトでございます‥‥、と。
惚れ惚れするほどうつくしく焼きあがった
フライドエッグと、脂が舌にまとわりつくような
ジャンモンブランのソテをいただく。
香ばしいほどに良く焼けたトーストがまず一枚だけ。
そのカサカサをたのしんでると、
ボクの食べるそのスピードにあわせるように
次の一枚が焼けていく。
いつも焼き立て。
どれも同じ焼き具合。
ルームでサービスする食事。
それが本当のルームサービスなんだなぁ‥‥、と。
そう思いながらとびきりの朝を味わっていると、
キッチンの電話がチリンとなった。
ボクのための電話ではなく、
リッコのための電話がなって
一旦彼はキッチンの中にさがってく。
ミスターサカキ。
フリーウェイでつい先程、
大きな交通事故が起こったようで、
念のため、なるべく早くお出かけになった方が
よろしいかと存じます。
車はもう、出発の準備ができておりますゆえ、
お支度をそろそろされてはいかがかと‥‥、と。
よし、わかった、ありがとう。
それなら荷造りをしなくちゃね‥‥、と、
そういうボクに、
必要なお荷物だけをお持ちいただければ
残りは次のご宿泊先にお届けします。
ご心配なく‥‥、と。
ブリーフケースに今日の書類と貴重品を詰め、
昨日、リッコがアイロンをかけてくれたばかりの
スーツをまといロビーに降りる。
エレベーターの中。
下に降りればマネージャーが待っているはず。
彼の手の中には、
今回の夢の如きステイの対価がしるされた
請求書があるに違いない‥‥。 |