さてさて、いくら払うべきか、
ボクはしばらく思案しました。
あの部屋。
しかもあのサービス。
人一人のほぼ一日を独占するという贅沢までも味わった、
その経験に一体どのくらいの値段をつけるべきなのか。
タップリ払って、
鷹揚でキップの良いところを見せたくもあり。
けれど、何事においても
「過ぎるコトは下品である」と、ボクはずっと思ってた。
強欲に稼ぎすぎる人は下品な会社を作ってしまう。
節度を持った贅沢は微笑ましいコトではあるけれど、
過ぎた贅沢は下品をふりまく。
品性を保てる程度の、
しかし相手に対して敬意を十分表すことができる
チップの金額を自ら決める。
それははじめて真剣に、
「自分が受けたサービスに対して値段をつける」
というコトを経験した瞬間でした。
すばらしい部屋。
一体、一泊、幾らで販売されているのか
検討すらつかぬあの部屋に、
再び泊まりたいかと聞かれれば、
ボクは丁重に「ボクには過ぎた部屋ですから」
と辞退したでしょう。
けれど、リッコがボクにかけてくれた魔法に満ちた
あの様々を、また経験したいか? といえば即答。
ぜひ、再びと絶対に言う。
今、この場所を去りがたいと感じる
ボクの感動のほとんどすべてが、
部屋代の中に本来、含まれていないモノ。
そう思ったら、少なくともボクが払った
375ドルのルームチャージ以上のチップを
彼や彼らに払いたい。
都合のよいことに、
支払金額を400ドルにもしすれば
朝食代をそこから引いても、
380ドルほどのチップがリッコの手元に残る。
ボクは、シャッと一本斜めにチップの欄に線を引き、
一番下に「$400.00」と力強く書き込んだ。
「エクセレント」とマネジャーはその数字をみて、
ほほえみます。
ただそれで本当に十分だったのかどうか、
ボクは心配でしょうがなく、
よほど不安げな表情をしていたのでしょう。
「Not too much, not too sad,
decent enough for Ricco anyway」
と、彼は続けて
ボクが差し出したクレジットカードと共に
オフィスに一旦、姿を消します。
多すぎず。
その金額が寂しすぎず。
なにより、リッコを喜ばせるのに
十分なチップであったという彼の言葉は、
ボクにとって大切な試験をパスした
合格通知のように響いた。
うれしかったなぁ。
自分が受けたサービスの値段を自分で決めて、
しかもその決めた値段を褒められる。
サービスとは一方的に受けるモノじゃなく、
互いが認め合いシアワセになりあうために
あるモノなんだと、このとき、あらためて心にしみた。
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