そういえば「おひとりさま「って、
ボクがお店をやっていたときにもたまにいらっしゃった。
比較的、早く食事をすませていただける
ランチタイムはまだしも、夜の時間のおひとりさま。
かなり緊張させられた。
気はつかわなくていい、とおっしゃりはする。
けれど気をつかわないわけにはいかないのです。
たのしんでいらっしゃるのか。
さみしい思いをしてらっしゃらないのか。
ボクらのお店の夜といえばどんなに急いでも
1時間ちょっとは食事の時間がかかる。
その間、間がもてないことがないように、
なるべくそのお客様の料理を優先して作ったりと‥‥。

そもそもひとりのお客様って、
何を目的に今日いらっしゃっているのかというコトを
推察するのがむつかしいのです。
誰かと一緒にいらっしゃっている人は
その目的のヒントをくれる。
デートなんだなぁ‥‥。
大切なお得先をおもてなししたい人なんだなぁ‥‥。
人間関係をみれば大体、
今日、ここにきている理由が想像できる。
その目的がわかれば、
よろこばせて差し上げ方もわかるのだけど、
おひとりさまはその人自身が発するモノがヒントの全て。
なかには、へんてこりんなヒントを出して
損するお客様も少なからずいらっしゃった。

その人たちのコトを考えてると、
こんなふうにみえてしまうおひとりさまには
なっちゃいけない、バッドヒントが5つみつかる。
ボクは「ステキなニューヨーカーになろう大作戦」の
まず一番最初の戒めとして、手帳にそれを書き留めました。





ステキなおひとりさまになるための5つの戒め!



眉間にシワを寄せた険しい顔。
あるいは、不機嫌そうな陰鬱な顔をしてひとりで座る。
今日はシェフがいるんですか? とか、
シェフはどちらの出身ですかと、
細かなコトを根掘り葉掘り聞いてくる。
料理が好きな人なのかなぁ‥‥、
と思っていると料理を食べても無表情。
むつかしい顔をして、手帳を出し
何かメモを買いたりすると、
サービスしててドキドキハラハラ。
この人、料理評論家だったりしたらどうしよう‥‥、って。

料理評論家。
あるいはレストラン評論家の人たちが
果たしてレストランで得する人かというと、
ボクは決してそうではないと思います。
この人もしかしたら‥‥、と思った途端、
お店は急によそよそしくなる。
得意な料理を完璧な状態で食べてもらおうと、
キッチンの中は努力をするから、
たしかにおいしい料理に彼等はありつく。
けれどお店にとって彼等はあくまで
「一度きりだけやってくる客」。
料理をたのしむためにきているわけじゃなく、
料理を評価しにくる人。
だから彼等に対してレストランは、
試験官を前にした受験生のようになっちゃうワケです。
何度かボクはそうした人たちと同じ空間、
同じ時間を共有したことがあるのだけれど、
彼等が帰った途端にお店が、
ホッとしたようにのびのびとする。
こうしたおだやかでシアワセに満ちた空気を知らぬ、
職業としてレストランに来る人たちって
なんてカワイソウなんだろう‥‥、
ってボクはずっと思ってる。

だからニッコリ。
不機嫌な顔や眉間のシワは封印しましょう。
メモや手帳も上着や鞄の中に閉じ込め、
そしてニッコリ、評論家には見えぬよう。





レストラン関係の人たちがレストランにやってくると、
不思議なコトにみんな首の運動をする。
首をグルリと回して壁や天井、
床やテーブルとお店のすみずみを見わたすのです。
料理を沢山たのみます。
お店の人のおすすめなんか二の次で、
自分が食べたいモノをたのんでためします。
しかも平気で残す。
試食であって、食事じゃないから
残してまるで平気なのでしょう。
手帳をテーブルの上に置くことも忘れずに。

そんな人がよいサービスを受けられるかというと、
それはやっぱりむつかしい。
ライバルだからという訳ではないのです。
ニコニコしながら何か質問でもしてくれれば、
同業者として役立ちそうなコトを
話してさし上げられるのに、
気持ちを閉ざしてこそこそ何かを詮索するような仕草で
仕事をそこでしている。
サービスのキッカケをつかもうにも
つかめぬほどに忙しそうに。

同業者のように見えぬようにするために、
やはりニッコリ、笑顔が大切。
首の運動は謹んで、どうしても肩がこったら
トイレに行って肩の運動をいたしましょう。
食事は残さずゴキゲンに。





ただそこにいる。
じっとひとりで、どこかを見つめて座っている人。
料理がやってきてもうれしそうに食べるでなく、
何がたのしくてココにいるのかわからない。
着ている服も場違いで、
見ているこちらが不安になっちゃう。
たのしげで。
シアワセそうなレストランの中でそこだけ、
まるで別の空間みたいに沈んでみえる。

たまにそういうお客様がやってくることがあって
ボクらは「私立探偵みたいだね」って呼んで
なんとか盛り上げようと努力をします。
話しかけたり、料理を提供するたび
一言、そえてみたりと
なんとかこの場に馴染んでもらおうと努力するけど、
それも果たせず。
サービスするのをあきらめて、
楽してお金を払ってもらえるお客様だと
思えばいいのかもしれないけれど、
他のお客様がそのうち不安に感じはじめる。
あの人って、一体なんであそこにいるのか? って。
もしかしたらココにいる、誰かのコトを
監視しにきているのじゃないか‥‥、って。

レストランはお客様を含めて
みんなでたのしい空間を
つくりあげていかなきゃいけない場所であります。
観察すべきはお客様でなく、料理とサービス。
それらに対する賞賛は、豊かな表情、
それから笑顔を大切に。





お店の人はわかっていても、
ひとりでレストランのテーブルに座るというコト。
特にオトコがひとりっきりでレストランにいると、
誰かを待っているように見えてしまう。
どんなに笑顔を作ろうと。
そうした人のテーブルの上には、
なにかさみしい空気が漂う。
さみしい空気はフワフワ、
風にのり他のテーブルにまで流れていきます。

ちょっとした仕草が哀しさ増幅させます。
例えば何気なく腕時計をみる仕草。
あぁ、待ち合わせの時間が過ぎてしまったのかなぁ‥‥。
腕時計を2、3度続けてちらりと見、
首をちょっとかしげたりしたら、
立派にその人は待ちぼうけな人。
レストランの入り口を、何度も見たりする仕草。
それも待ち人来たらずな人なんだなぁ‥‥、
と、うら悲しさを漂わせます。

私は誰も待っていない。
待っているのは料理なんだ‥‥、
とそのことを他のお客様にハッキリ伝える。
時間を気にせず、自分が座った
テーブルの上の景色をたのしむ。
他のお客様をさみしくさせぬように、
やはり笑顔を最後の武器に
ひとりの時間をたのしむ余裕が
「ステキなおひとりさま」を作ってくれるのですね。

さて戒めの最後のひとつ。
次回を待ってのおたのしみと
いうコトにいたしましょうネ‥‥、また来週。



2011-12-08-THU


© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN