こんなコトがありました。
セントラルパークが色づき始めると、
ニューヨークにはオペラの季節がやってきます。
リンカーセンターにある歌劇場。
そこでずっと観たかったプッチーニの
大作のチケットが手に入り、
ボクはいつもお世話になってる中国系の友人を誘って
一緒に行こうと思った。
けれど彼はクラシックなんて絶対寝ちゃう。
できれば自分の妹を連れて行ってくれないか‥‥、と。
彼女は音楽学校を目指していたこともある
クラシックファンだから、お願いするよ。
そうたのまれて、デートのような夜になる。
何度か会ったコトある彼女。
とてもチャーミングで、
けれどかなり鼻っ柱の強い女性で
おいしいモノに目がなく、
しかも、おいしいお店をよく知っている。
新人ニューヨーカーのボクが
敵う相手じゃないのはよくわかってて、
けれどココは気合を入れて
しっかりエスコートをしなくちゃと。
準備万端を心がけます。
おそらく4時間を超える長丁場。
まずは腹ごしらえをどこかでしようと、
あいにく、オペラハウスがある界隈は
あまり得意じゃないエリア。
ただ一軒だけ、
オニオングラタンスープがおいしいお店があったはず。
まだニューヨークに来て間のない頃に、
就職活動をしていた途中、
フラッと入ったビストロのランチで食べた
オニオングラタン。
お店の雰囲気もゴージャスで、サービスも悪くなかった。
しかもオペラハウスの通りを挟んで至近距離。
そんな記憶をたよりにそこを調べて予約をしていった。
お店の中はほぼ満席で、
ほとんどの人がオシャレをしてて
オペラのチケットを持ってる人たちなのでしょう。
ボクらが行ったときにはすでに食事をしてて、
ボクらが最後のゲストのよう。
ランチを食べたときに思った以上に上等で、
こりゃ、時間がかかる店だぞ‥‥、と。
メニューを睨んで考え込んだ。
支配人らしき一人だけスーツ姿のおじさんが、
いらっしゃいませとやってきます。
なにかお役になりましょうか? と。
ボクはいいます。
「以前、ランチで
オニオングラタンスープがおいしかった記憶があって、
オペラの前に食事をしようと来たのです」と。
時間は開演予定時間の1時間とちょっと前。
急げばスープとメインディッシュを
食べるコトも出来ますか?
何しろあのスープを彼女に食べさせたくて
しょうがないので‥‥、と、誘った手前、
ボクはかなり意固地になります。
急いで料理をお出しすることもできましょう。
早くできる料理もご用意しておりますし。
けれどせっかくでしたら、
開演時間ギリギリでなく早めに行って
劇場の空気をタップリ体に蓄え、
ご覧になることをおすすめします。
エントランスホールのシャガールの壁画なんて、
みているだけであっという間に時間が過ぎます。
もしよろしければ、
オニオングラタンスープはお夜食にでも。
舞台が終わって寝る前に、
熱々の当店のスープをお腹におさめれば
グッスリお休みにもなれましょう。
ここのお席は今晩ずっと、
ミスターサカキのお席ということで
リザーブさせていただきます。
オペラのチケットをお持ちだわかっていれば、
もっと早くの予約をおすすめできましたのに、
確認しなかったのは私どもの不手際ですから、
ぜひ、このサジェスチョンをお受けいただきたく存じます。
彼女はニッコリ。
今日の夜は寒くなるっていっていたから、
帰る前に熱々のオニオングラタンなんて
とてもステキだと私は思うわ‥‥、と。
ボクらはそうするコトにした。
さて、ならメインをひとつ選ぼう。
何にしようかとふたりで再び思案に入る。
支配人氏は、またボクたちに声をかけます。
消化の悪い重たい料理は、睡眠薬のような食べ物。
かと言って、サラダやサンドイッチでは
お腹が冷たくなってしまいます。
消化に良くて、しかも元気のでるお料理を
お選びになればとよいかと思います。
ちなみに。
マリア・カラスは舞台の前に、
かならずフォアグラのソテを食べて
元気を出したと言います。
お腹にもたれず、栄養豊富で、
しかも美味なフォアグラのソテ。
偶然にも、フランスから届いたばかりの当店のフォアグラ。
マデラの香りでタップリの野菜を添えて仕立てた料理は
当店のシェフの得意な料理の一つ。
今からでしたら、
たった10分でご用意できようかと存じます。
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