お店を開けて10分もすると本格的に、
お客様が増えてくる。
当然、オヤジさんの
ホットドッグを作る速度はフルスピードで、
ボクはただただ自分の仕事に必死になった。
気づけばおそらく厳しい表情をしていたのでしょう‥‥。
歯を食いしばり、当然、
「サンキュー」の声も出なくなっていた。
お客様の手元をみるだけ‥‥、
顔をみてニッコリする余裕なんてまるでなくして
ただただ作業をこなしてた。
しわくちゃでゴツイ左手が2ドル紙幣を差し出します。
右手にはホットドッグが3本ある。
お釣りは25セントだなぁ‥‥、と。
銀色のコインを一枚、差し出そうとしたらば
低い声が言います。
「Good Morning, Mr. Bending Machine」。
おはよう、自動販売機!
ボクはハッとして顔をあげると、
目の前に白い髭を蓄えたおじぃさんが立っていた。
ジーパン、Tシャツ、そしてジャンパー。
がっしりとした骨格で、
オレはずっとこの腕一本で生きてきたんだ‥‥、
って感じのシャンっとした老人。
まだ現役なんでしょう。
爪の間に黒いオイルが染み込んでいて、
これから仕事に向かう途中なのでありましょう。
笑顔がとてもステキでボクは思わず、
「グッドモーニング」と言っていた。
「おやおや、最近の自動販売機は
挨拶もするようにできているんだ」
とビックリした表情をするものだから、ボクはニッコリ。
「ええ、メイドインジャパンですから優秀です」
って、言い返す。
「Oh, you are SONY Boy?」
って大げさに驚く仕草をしながら
そして、ひときわ大きな声で笑ってこういいます。
「Keep change for you smile」。
お前の笑顔に免じて、お釣りはいらない、
とっておけ‥‥、と。
なるほどこれがボクの今朝の仕事なんだ。
お金を払い、お釣りを受け取るだけならば、
相手がマシンで十分だけど、
ココロとココロを通わせて料理をたのしく味わうために、
ボクがこうして立っている。
そう思ったら、ボクはお釣りのコトよりも
目の前に次々やってくる人の表情だったり、
ネクタイだったりヘアースタイルが気になって、
何かひとこと言ってあげよう。
朝の気持ちを明るくさせてあげようと、
思うと仕事がどんどんたのしくなっていく。
「ありがとうございます」
と言ってしまうとそれで会話は終わるのです。
「Nice Tie!」。
ステキなネクタイですネというと、
「ありがとう」とか
「ブルックスブラザーズなんだ」と会話が続いてく。
しかも小さなお店の出来事です。
ボクがお客さんと今した会話を他の人達も聞いている。
だから同じ挨拶や言葉を
続けて話すことなんてできない訳です。
自動販売機じゃないんだから。
相手が喜びそうなコトを考え、そして喋らなくちゃ‥‥、
ってボクはますますたのしくなってく。
たのしい仕事は自然と人を笑顔にさせる。
笑う門には福来るです。
かなりの人が「お釣りはいいよ」と
いってくれるようになる。
ファストフード。
セルフサービスのお店でチップを払うなんて‥‥、
ボクはお釣りはいいよと言ってもらいながら
不思議な気持ちになりました
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