父の仕事を手伝うために、日本に帰ってそれからずっと。
コンサルタントという仕事をしていた。

どんな時代にも、飲食店を経営することで
シアワセになりたい! という人が相談にやってくる。
景気のいいときには、今が開業のチャンスだからと。
景気の悪いときには、飲食店は不況に強い業種だからと、
お店を持ちたいという人がいなくなることはない。
コンサルタントという立場で考えれば、
これほどありがたいことはなかった。
若い頃はこれ幸いと店を作ることを楽しんでいた。
けれどコンサルタントとしての経験を積み、
同時に苦い失敗をたくさん経験してくると、
飲食店をしたいとやって来る人たちに、
ちょっと厳しい現実を口にしなくちゃ気が済まなくなる。

飲食店はたのしいばかりの仕事じゃない。
どんなに一生懸命ガンバろうとしても、
お客様が来てくれないとその情熱は空回り。
ひたすら待ち続ける忍耐力がなくちゃいけない。
毎日毎日、同じコトを飽きず
繰り返すコトができなきゃいけないし、
なにしろすべてが自己責任。
飲食店の活動を、
規制したり管理したりする法律は沢山あるけど、
飲食店を守ってくれる法律なんてほとんどない。
お店を開業しようとすると、消防署と保健所がきて、
それぞれ別のコトを言って帰っていく。
どっちを信じればいいのと途方に暮れるようなコトは
日常茶飯事。
政治家たちに圧力をかけてくれるような団体もなく、
業界団体のほとんどすべては
大手チェーンストアの便宜のために働いている。

それでも飲食店をはじめますか?

しかも、あなたがどんなに独創的で
素晴らしい料理を作ろうが、
著作権を宣言することは残念ながら出来はしない。
あなたのお店の隣に、
同じようなお店ができてもしょうがない。
保証されていない。
保護されていない。
すべてが自らの責任において
おこなわなくてはならないというコトを、
「自由でよい」と思える人でないと
飲食店の経営者として向かないんです。

それでも飲食店をはじめますか?
と、聞いてそれでもいいという人。
だからいいんだという人という、
つまり飲食店が好きで好きでしょうがない人が
たくさんいる。
それがボクがコンサルタントとして仕事をする励みでした。





飲食店が成功するコツを教えて下さい。
これから飲食店を開業しようと準備をはじめる人たちに、
そう聞かれると2つのコトをお教えしました。
まずそのひとつ。

長くお付き合いできるお客様を相手になさい。

飲食店は人気商売。
何かの縁で巡りあったお客様に、
好きになってもらおうと一生懸命努力する。
お店をあとにするお客様に、できればもう一度、
どうぞもどってきてください‥‥、
と思いながら深々、頭を下げる商売。

飲食店を経営することは「恋」に似ている。

出会いがなければはじまらない。
けれど出会ったすべての人が、
同じ気持ちで出会いをたのしむワケじゃない。
行きずりの恋を好む人もいる。
会えば会うほど気持ちが通じる、
親密な付き合いを好む人もいる。
互いを理解し、信じ合える、一生の付き合い。
そんな関係になることができれば、
ひとつの恋が成就する。

好奇心に任せて飲食店を
次から次へと渡り歩くことをたのしみにするお客様がいる。
往々にしてそういう人たちは派手で、目立って、
お店をニギヤカにしてくれる。
ネットの評価サイトや
ブログでとりあげてくれたりするから、
そういう人が沢山来るとお店の人はホッとしたりする。
あぁ、うちには人気があるんだと。
けれど新しいお店ができると、そちらの方に移ってしまう。
恋は恋でそれ以上に育つことがない。
行きずりの恋を好むお客様に振り回されては、
本当の繁盛店はできなくなっちゃう。

ならば、恋愛をあきらめて、
結婚に適した相手を選んで結婚する。
それじゃぁ、味気なくてつまらない。
例えば、ファミリー客とかサラリーマンとか、
一度、そのお店と決めてしまうと
しばらく店を変えない人たちがいる。
そういう人たちを、結婚にて適した相手よろしく、
人気が持続できるありがたいお客様だと。
そう考えて急速にお店を増やしたのが、
ファミリーレストランとか
居酒屋チェーン店とかという人たち。
けれどいつかは子供も多くなると
ファミリーも気まぐれなお客様に変わってしまう。
サラリーマンは景気に左右されがちで、
なによりもいつも同じであることを求めるお客様にばかり
対応していると、働くこともたのしくなくなる。
今、外食産業で一番困っている人たちは、
そういう人を信じて沢山店を作りすぎた人たちでもある。

恋する相手と、恋をしたまま結婚する。
それが一番シアワセな人と人との関係で、
そういうお客様とめぐりあえればそれこそシアワセ。
刺激的で好奇心にあふれていて、
互いに適度な緊張関係を保ちつつ、
ココロ許しあい一緒にいるととても快適。
このお客様とは長いお付き合いができるだろうなぁ。
このお客様とは長いお付き合いをさせてほしい。
と、そう思えるお客様を
こうして見つけるといいですよ‥‥、
と、その内容はいつかお教えいたしましょう。
逆に、そういうお客様を大切にできるお店と知り合い、
そのお馴染みさんになることができればシアワセ。
どう見極めれば「長い付き合いができるお店を選べるか」。
そのヒントもそのうちお話することといたしましょ。

さて、もう一つの「コツ」のコト。
来週からしばらくの間のテーマとさせていただきます。



2013-01-10-THU


© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN