数分経ちましたか。
ドアがあき、ボクの前のソファに件のおじさん登場。
こざっぱりした作業服を来た、矍鑠としたおじさんで、
背筋がしゃん。
町工場のご主人かなぁ‥‥、
ゴツゴツとした手が分厚くて厳しい表情。
メニューを見ることもなく、注文することもなく、
泰然と新聞を広げてタバコに火をつける。
ご主人が、お待たせしましたとカップをひとつ。
いつも飲むものが決まっているのでしょう。
こういうお店のコーヒーは、
小ぶりで分厚いカップで出てくる。
しかも熱々。
カップもお湯の中に漬け込み芯まで熱々。
中に注ぐコーヒーも熱々だから、
最初はフウフウしないと飲めない。
そのおじさんも、
カップをつまみ上げて香りをかいだら元に戻してしばらく休ませ、
飲み頃を待つ。
熱々カップに熱々コーヒーがやってくる。
そういうお店に遭遇したら、
ココは時間をタップリかけて飲んでください。
長居ウェルカムのしるしなんだと、ボクはずっと思ってる。
往々にしてそういう店のコーヒーは、
苦くて酸味が強くできてる。
一口すするとお水を舌が求めるように作られていて、
飲むというより舐めるようにちょっとづつ味わいたのしむ。
このおじさんも果たしてひと舐め。
そしてお水をゴクリと飲んで、タバコを一服。
こういうコーヒー。
温度が下がって空気を触れていくにしたがい、
酸味が不思議とおだやかになり
うま味が引き立つようになる。
あぁ、ブレンドコーヒーにすれば良かったと、
一口ごとに顔の表情がやさしくなってく
目の前のおじさんをみてると思う。
そしておまたせ。
コーヒーゼリーがやってくる。
ホイップクリームも何もなく、
グラスにコーヒー色のゼリーが入っているだけのモノ。
トンとテーブルに置かれた瞬間、
フルンと表面が揺れてさざなみが立つほどなめらか。
スプーンですくって味わうと、
舌の上でたちまちゼリーが
アイスコーヒーにかわっていくほどゆるくて、
それがおいしく感じる。
こりゃ、旨いなぁ‥‥、と感心しながら食べてると、
前の席から声が飛びます。
「それ、おいしいですか?」とおじさんの声。
えぇ、スプーンですくって味わうアイスコーヒー、
って感じの見事なモノです。
口の中にずっと
苦味と香りが残ってくれるんですよ‥‥、と。
「なんで、そんなおいしいモノをマスター、
薦めてくれないんだ」と、おじさん、
お店のご主人に言い寄ります。
メニューを見せてとも言わないし、
なによりいつも決まったモノを飲むと
ずっと思っていたのでオススメせずにおりました。
でも、本当は食べてほしくてしょうがなかった。
と、そう言いながら、すかさず一杯。
コーヒーゼリーをそのおじさんの前に置き、
このコーヒーはお店のおごりにいたしましょう‥‥、と。
そのコーヒーゼリーをひとくち食べたときの
おじさんの顔のかわいく、たのしげなこと。
10年以上通ってくれて、ブレンドコーヒー以外のモノを
口にしてくれたのはこれがはじめて‥‥、
と言うご主人の顔がとてもウレシゲで、
シアワセそうであったコト。
ステキな思い出、思い出す。
カフェと喫茶店はどこが違うのですか?
と聞かれるコトがたまにあります。
小さな違いが大きな違い。
答えは来週といたしましょう。
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