ボクらは「足元紳士」になって、素足に下駄が貼り付く感触。
雨でぬかるむ土の道。
そこにめり込み抵抗をする歯の感覚に、
濡れてギリッとしまる鼻緒のたのもしさ。
徐々に強まる雨足も、一向に気にならぬほどに
その道程は明るく、たのしい。
ただ、どうだろう‥‥?
いつもの道と違った道を
ボクらは歩いているような気がした。
ちょっと急な階段があり、
そこを登りつめるとお店の入り口がある。
その階段を登り切るまで
レストランの建物が目に入らないように工夫されていて、
はじめて来た時にはあっと驚き、
声も出ないほど感動をした。
その階段に向かう道とは違った道を歩いてる。
案内係の人がいいます。
この先に、急な階段がございまして、
雨の日には少々危険でござます。
ですので、ちょっと遠回りにはなるのですけど、
別の道をご案内申し上げます。
ご勘弁。
道は大きく庭を迂回し、
なるほど確かに傾斜はおだやか。
鬱蒼と茂る高木の中にボクらは入り、
一瞬、視線が途切れたかと思うと先に小さな東屋。
明かりがポツンと灯ります。
もうひと息ではございますが、
こちらで休憩なさいませんか?と。
その東屋の中に入ると、
そこは高台の上に造られた小さな舞台のようなテラス。
テラスに出れば眺望がパッと広がり、
庭のむこうにレストランの建物がある。
薄暗き山の斜面に、心地よき光が群れなす瀟洒な景色。
そこにはまるで
音楽が鳴り響いているようにすら見える絶景。
その一方で、ボクらの周りには雨の音しかしないシアワセ。
言葉をなくして観るボクたちに、
小さなグラスが差し出されます。
この山の木の実で作った食前酒。
いかがでしょうか‥‥、と。
それをいただき、しばしボクらは立ち尽くす。
もっとこうしていたいという気持ちの一方で、
はやくあそこに行ってみたいという気持ちを
秤にかけながら、
小さなグラスの果実酒をたのしむ贅沢。
そして最後の100歩ほど。
もうこれであとはケーキとコーヒーだけで、
充分、贅沢な食事をした気になれるよなぁ‥‥、
と、お客様はご満悦。
時計をみるとたった5分とちょっとの道のりで、
けれどボクらはその道すがらにおいて
スッカリ地上のいろんなコトを忘れ、
シアワセな気持ちになれた。
ようこそ、お待ちしておりました、
と、ボクら一人ひとりの前に靴が差し出されます。
驚いたコトに、どの靴が誰の靴かと聞くこともなく。
当たり前のようにボクの靴はボクの前にそっと差し出され、
なおも驚いたコトにそれらはピカピカに、磨かれていた。
よき晩餐のゲストとなった次第です。
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