年末年始とちょっと寄り道をいたしましたが、
またシリーズの本流に合流しようと思います。

昨年の暮。
家賃の話を徒然と。
すればするほど、家賃なんて無い方がいいのに。
無駄なモノなのかもしれないなぁ‥‥、
なんて思いに取り憑かれたりしてしまう。
無駄なものならなくしてしまえ。
なくならないなら、節約しよう。
家賃がもったいないからと24時間営業するのは、
あくまで経済的な判断で、そこから文化は生まれない。

文化は無駄遣いの中から
生まれるモノだったりもするのです。

インターネットでどんどん便利になってく世の中。
ほとんどのモノがインターネットで
買えるようになってきて、
リアルなお店がその影響を受けるようになっています。
典型的なのがレコード屋さんでしょうか。
音楽さえ買えればいい人にとって、
レコード屋さんがいらないと同時に、
CDといったメディアであったり、
ジャケットだったりもいらなくなってしまってる。
それはそれでさみしいことではあるのだけれど、
まぁ、しょうがない。
家賃を払わぬビジネスモデルこそが、
勝者の証のような時代。
それが今。

けれどどんなに便利になっても、
「外食をたのしむ」ということに限っては、
リアル店舗でなければどうにも実現できない。
だから「飲食店」というのは、
家賃を払うコトを宿命づけられている産業だ、
というコトすらできると思う。

ならば、家賃をおいしく料理する。
店作りだったり雰囲気作りに工夫をこらすコトで、
家賃を払ってよかったと思えるようにがんばろう。
そう前向きな経営努力をするお店こそが、良いお店。
ならばおいしく料理された家賃を、
おいしく、そしてうつくしく、食べる努力を
お客様であるボクらもしなくちゃ勿体無い。

家賃を食べているという心がけ。
うつくしく料理を食べる人がステキであるのと同じように、
うつくしく家賃を食べるお客様で
あってほしいと思うわけです。
そのために、必要なのは次のふたつ。
「観察」。
そして「伝達」を正しく行うというコトなのですネ。


まず観察。
このお店はだいたいどのくらいの時間、
お客様に楽しんでもらいたい店なんだろう、と思いながら、
お店の様子をにこやかにみる。
ひとつの椅子。
ひとつのテーブルに割りふられた家賃を
キチンと払えるように、
お店の人はそこでくつろいで欲しい時間と、
使ってほしい単価を想定しながらお店を作り、運営します。
お店の人がイメージしているお客様に、近ければ近いほど、

お店の人にとってはやさしくステキなお客様。
観察しながらヒントを探す。
主なヒントは価格と椅子の座り心地だったりします。

例えば500円でコーヒーを
売っているお店があったとしましょう。
肘掛がありゆったりとした座り心地のいい椅子がある。
そんなお店が、駅から遠くて目立たぬ場所にあるなら、
家賃が安いに違いなく、
だからユックリ時間をかけてたのしめばいい。
ところがそれが、駅前のいい場所にある。
昔からやってるお店で、
ショップカードをみればお店の名前のついたビルが住所。
なるほど、家賃を払わずやっている店。
だからゆっくりしても決して失礼にはならないんだろうと、
答えがでます。

新しいビルの中にあって、チェーン店のようにも見えない。
座り心地のよい椅子で、
なのにコーヒーが500円というようなお店にくると、
謎めいてきます。
これで家賃が払えるのかしら‥‥、
って思いながらメニューを見ると
魅力的なケーキが多彩に揃ってる。
そうか、ココはケーキのお供にコーヒーをたのしみ、
時間を豊かに過ごす店なんだなぁ‥‥、って、
ためしにお店の人を呼び、ケーキの説明を求めてみると、
にこやかに、うれしそうに、
情熱的にケーキのコトを教えてくれる。
ケーキとコーヒーのお得なセットもございますからと、
勧められてそれをたのむと、
1000円くらいの値段になる。
でも、お店の人はうれしげで、
なるほどこれがこの店のイメージしている
楽しみ方にちがいない。
それから何度も、お店の人は嫌な顔もせず
お水を交換してくれて、
心置きなく時間をユックリ過ごすことになる。
お店の人の気持ちと、あなたの気持ちが徐々に近づく。
ステキなお客様のイメージに、
ちょっとづつ近づいていくコトにもなるのです。


一方、例えば背当てのない椅子。
それはだいたい50分。
そこで何時間も背筋を伸ばしてくつろげるという、
その身体能力の高さを時間したいのならば別だけど、
そういう店で長居をすると、
肘をついたり大抵見ていて見苦しくなる。
「この席はなるべく多くの人に座ってほしい客席」という、
お店のメッセージを受け損なうと、
イメージのよくないお客様に
なりさがってしまうこともあるのです。

ところで、どんな状況にあっても
何時間でもそこに座ってOKのテーブルがある。
それは一体どんなテーブルなのでしょう?
それを来週。
そして、観察したらなにをどう、
伝達するかを主題といたす所存です。



2014-01-09-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN