194 レストランでの大失敗。その16 正方形のテーブルに2人。どう座る?

母をして、「あら、いけないわ」と言わしめた彼ら。
案内されたテーブルは、
客席ホールの中でも奥まった柱の影になる4人席。
ボクの席からかろうじて見え隠れする目立たぬ場所。
大人の関係の人たちが、
お忍びで食事をたのしむときにピッタリの、
大人のテーブル。
けれど母の座っている場所の真正面で、
見ちゃいけないと思っても、見えてしまうのよ‥‥、と、
母はウレシそうに一部始終を実況中継してくれるのです。

「あの人、ご婦人の真正面の席に座ったの。
 いけないでしょう‥‥」って。

正方形のちょっと大きめのテーブルの、
どこに座るかによって互いの関係があたたかくなったり、
冷たくなったりするんだとよく言われます。
向かい合わせに向き合って座る。
日本では案外、一番一般的な座り方だけど、
これは互いが敵対する関係だ‥‥、っても言われてる。
だって、テーブルを挟んで2人が対峙するこの位置関係。
刑事が容疑者を詰問する、
ドラマでよくみるあの景色とそっくりですもの。

何より、誰かの正面に座るという行為。
結果、その人のコトをずっと
まっすぐ見続けなくちゃいけなくなっちゃう。
しかもときにそれは「ただ見る」のでなく
相手を「観察している」ような、
不躾な視線を送ってしまったりするコトになる。



昔話です。
父が母と2人で食事にでかけた。
文人がかつて愛した老舗洋食店で、
食事をしたら映画のロードショーを観て
帰ろうと思うのよ‥‥、と。
ちょっとおしゃれな装いででかけたのだけど、
3時間ほどで戻って来ちゃった。
家からレストランまで移動して、
食事をすませて映画を見たら
5時間くらいはかかるだろうなぁ‥‥、
と思っていたのに3時間。
しかも父は大きなショッピングバッグを下げて、
意気揚々と玄関のドアをあける母の後ろを歩く。
どうしたの? って聞くと、
母がその3時間の一部始終を説明します。

レストランで案内されたテーブルに
向かい合わせに座ったの。
取り分け用のサラダとコーンポタージュ。
私は洋風のお弁当をいただいて、この人はメンチカツ。
まずひと皿目のコーンポタージュがやってきて、
おいしかったの‥‥、
本当においしくって我を忘れて食べていたらね。
この人が、ボソっと言うのよ。

お前も随分、顎がたるんだなぁ‥‥。
下を向くと二重あごになっちゃうじゃないか‥‥、って。

あぁ、そうですか。
ごめんなさいネ。
あなただって随分、額が広くなったわ‥‥、
みたいな憎まれ口を返しはしたけど
もうこんな人と一緒に食事をするのも
なんだか面倒くさくて、
だから映画はやめにした。
代わりに銀座でバッグを買ったわ。
当然、無礼者の財布を使って買ったけどネ‥‥、と。



女と男の対決は、ときにこういう悲喜劇を生む。
だから正面にはなるべく座らぬようにと、
上等な店ではたいてい、
角を挟んで座れるように席を準備するのです。

だってね。
テーブルセッティングは角を挟んで用意されてるの。
給仕係さんが、ナイフフォークがセットされた
席のひとつのかたわらに立ち、
女性にどうぞを椅子をひいてる。
彼女が座るのを待って座れば、
給仕係が男性の椅子を引いて座らせてくれたのにね。
テーブルセットも気づかずに、
女性が座ろうとしている席の正面の椅子を自分で引いて、
ドッカと座ったのよ。
しかも座ったかと思ったらタバコを取り出し、火をつける。
カルティエだわね‥‥、あのライター。

まだ、レストランで喫煙するということに、
寛容だった時代ではある。
けれどさすがにテーブルにつき、
まずタバコとはあまりに失礼。
あの人、多分、ココにタバコを吸いに来たんだわ‥‥、
って、母はいいつつ、呆れ顔。

ちなみにテーブルを挟んで
向かい合わせに座るべき場面もあります。
それがどんな場面なのか。
来週、解説いたしましょう。

 

2015-01-22-THU



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