194 レストランでの大失敗。その20  迷ったときの頼み方。

ピザを所望のおじさまは、
「当店にはピザを焼くための窯など設備がございませんで、
 お作りすることができないのです」と、
まこと丁寧で理屈にかなった説明をうけ、
それでも釈然とせぬご様子にて、
メニューを憮然と眺めてた。
おそらく、ご婦人と
「おいしいピザを食べようよ」的話をしながら
ココのお店まできたのでしょうネ。
2人でしきりに残念ね‥‥、と言い続けてる。

他に食べるべき料理はたくさんあるのにネ‥‥。

さて、そろそろボクたちが注文を決めるよき頃合い。
テーブル担当のスタッフがやってきて、
「何をご用意いたしましょう」‥‥、と。

なかなか決まってくれないのです。
まず出だしから、つまづいちゃってる。
前菜のメニューが魅力的すぎて、
まずそれが決まらないから、先になかなかすすまない。
小説を書くときに、まず書き出しが決まれば
あとはすんなり筆がすすんでいく、
っていうじゃございませんの。

どうしても食べたいものはいくつかあるんです。
お店に入ったときにおすすめいただいた、
スパイシーな煮込み料理とやらはぜひいただきたい。
それからパスタ。
おたくの名物っておっしゃるバジリコのスパゲティーと、
ラザニアはどうしても食べておきたいと思ってる。
ただ、そこから先のメインディッシュがまた決まらない。
それで途方にくれているのです。

なるほど、それではこうされてみてはいかがでしょう。

ニッコリしながら給仕係がこう続けます。



前菜は、おまかせいただければ
おいしいところを盛り合わせにさせていただけます。
和牛のカルパッチョに、
今日はタコのカルパッチョもおいしゅうございます。
それに野菜のお料理を
色とりどりに盛り合わさせていただきましょう。
お望みの煮込み料理は
海の幸をトマトと一緒に煮込んだモノ。
ハーブやスパイス、唐辛子にニンニクをたっぷりきかせて、
メインディッシュにもなりますが、いかがでしょう。
温かい前菜代わりにちょっと少なめで
ご用意させていただくこともできますが。
それからパスタを2種類。
どちらもおすすめの、よいチョイスかと存じます。

ちなみに本日。
満席というわけではございませんで、
厨房も余裕を持って調理させていただいております。
ですから、途中までご注文を頂戴して、
そこから先はお腹の具合に合わせて
あらため、ご注文いただけるのも
よろしいかと存じます‥‥、と。

なるほど。
お店が忙しい時には、厨房の中も忙しい。
そんなとき。
厨房の中では、
緊張に満ちた綱渡りのような作業が繰り広げられる。
それぞれのテーブルの注文を、
どの順番で、どのタイミングでこなせばいいのか
段取りするのが大変で、
だから途中で新たな注文が飛び込んでくると、
新たな混乱の原因となる。
だからなるべく、料理は最初に全部たのむ。
それが厨房にやさしい配慮の注文方法。

けれど厨房に余裕があるときは、
途中まで注文をしてお腹の具合をみながら
続きを注文するのも、決してバッドマナーではない。
ただ、とりあえずどこまでたのむのがスマートなのか?
イタリア料理では、パスタまでたのんで
メインはそのあとで。
日本料理や中国料理ではメインディッシュまでたのんで、
〆になる麺やご飯はおなかの具合に合わせてというのが、
一般的になりますか。



ところで‥‥。
ワタシたちに限って、
決してそんなコトはないと思うのですけど、
パスタまでいって、もしお腹いっぱいになってしまったら、
どうすればいいのかしら。
メインディッシュは必要ないわ‥‥、
ってそれで終わりにしても失礼にならないのかしら、
と母が聞く。

ときにそういうお客様もいらっしゃいますが、
そんなときには、
あぁ、私たちおすすめの仕方がよくなかったのか‥‥、
と反省したりいたしますネ。
例えば、チーズをたのまれて、
それをメインディッシュの代わりとご用命を賜れば、
サービスをする私共もホっといたします。

なるほどそれはとてもスマート。
それはそうと、
メインディッシュまでが決まっているのではないときに、
ワインはどう注文すればいいのかしら?
料理に合わせて、注文するのが正式なんでしょう?

‥‥、と、悩みは次々、やってくる。
そして、来週。
また、来週。

 

2015-02-19-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN