230 レストランでの大失敗 その21
ワインえらびに困ったら。

さて、ワインの注文。
レストランをたのしむにあたって、
最大の障害と感じる人も多いかもしれない一大事。
ワインリストに並んだまるで呪文のような名前の数々。
どこかで聞いたことがあるような単語も
見つかりはするけれど、やっぱり呪文は呪文。
それぞれのワインの性格を、丁寧に説明した
コメントが書かれたワインリストもあるけれど、
それも呪文の一部のよう。
呪文の他には数字が2種類。
ひとつは2009年とかというビンテージ。
ワインの名前とビンテージという数字が
一対になってはじめて扉が開くようにできている。
錠前と鍵のような関係に、
やはりかなりビクビクします。
結局、目が追いかけるのは
もう一種類の数字の方だけ。
それは「価格」。

‥‥、というのが、
レストランでワインリストを開いたときの
対処法であることが多いのじゃないかと思います。

かくいうボクも、ワインを頭で飲むのが苦手な方で、
大抵、お店の人のアドバイスをたよりにたのむ。
ただ、そのアドバイスも飲み手の方から、
的を射た手がかりを出さなくては
いいアドバイスになってはくれない。

「ハウスワインは何をご用意いただけますか?」

困るとまず、そう聞いてみることにしています。



「赤と白のご用意がございます」。

そんなとぼけた、まるでコントのやりとりみたいな
答えが返って来たとしたら、
そんなお店がまじめに料理に合わせた
ワインセレクションを行っているものとは思えない。

「ハウスワインの赤をグラスでいただけますか?」
あるいは、スパークリングワインで
ずっと通しましょうか‥‥、
って感じの注文で充分でしょう。

「当店のハウスワインは、
 赤でしたらピノ・ノワール、
 白はシャルドネをご用意しております」

と、そんな答えが返って来たら、
なるほど、この店の料理は
ピノ・ノワールとシャルドネ向きにできているんだ‥‥、
と思えばいいでしょう。

ぶどうの種類だけで味が決まるほど
ワインの世界は単純ではない。
同じピノ・ノワール種のぶどうを使ったワインでも
出来栄えがまるで異なるモノもあるけど、
味の傾向はぶどうで決まる。
だからこんな風に尋ねてみます。

「ピノ・ノワールで、華やかな香りで、
 ドッシリとした旨味のあるワインを
 選んでいただけませんか」
‥‥、と。
選んでくれたいくつかのワインの中から、
あとは財布と相談すれば、
今日の運命の一本が首尾よく手元にやってくる。



さて母と一緒に囲んだテーブル。
メインディッシュの一歩手前まで注文をして、
そこまでどんなワインを選んでたのしむべきか。
決まらぬ料理に合わせたワインを選べなんて、
まるで一休さんのとんち話のようじゃない‥‥、
と、その回答をお店の人にもとめた結果。
こんな答えがかえってきます。

「すべてのお客様が同じものを召し上がられる、晩餐会。
 あるいは、おまかせ料理のお店ですと、
 それぞれの料理に合わせたワインを選ばれる、
 細心の注意と努力をされるべき。
 けれど、普通のレストランでは、
 同じテーブルを囲むすべてのお客様が
 同じ料理を召し上がっているとは限らない。
 また、一本を一つの料理で飲み切るというコトも、
 あまり現実的ではないので、
 ですからあまりワイン選びに
 神経質にならなくてもよろしいのではございますまいか。
 テーブルの会話がはずみ、
 シアワセな気持ちになるために
 ワインがあるのだとお思いになって結構かと存じます」

なるほど、それならこのままシャンパンを
お供に食事をいたしましょう‥‥、
と、めでたく食事がはじまりました。

 

2015-02-26-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN