013 たのしく味わう。その13
イタリア人のパスタの食べ方。

これを読んでいらっしゃる方の中に
「夜鳴きそば」を知っている方が
どれだけいらっしゃるのでしょう。

夜になると、街の中を移動しながらそばを売って回る屋台。
時にチャルメラを鳴らしながらやってくる。
昔からの定番インスタントラーメンに
「チャルメラ」って名前のものがあるように、
そのそばは中華そばであることが普通だったようだけど、
もともとは江戸時代から日本そばを
夜、売り歩くコトを呼んでたらしい。
ちなみに四国出身のボクの街では、
夜鳴きそばならぬ「夜鳴きうどん」の屋台が
夜な夜な、やってきていた記憶があります。

夜中に空いた小腹のために、そばを売って歩く習慣。
日本中にそういう習慣がなぜあったのか‥‥。
なんで、夜中に空いた小腹を、寿司やおむすび、
カレーのような料理を食べたりしなかったのか‥‥。

それは当時の麺類が、
お腹にやさしく消化しやすい料理だったからなのでしょう。

夜中に食べても、寝るときにはすでにお腹が重たくはない。
寝る前に食べても、翌朝、起きた時にはお腹がすいている。
だから安心して夜中に食べるコトができる‥‥、
だから夜鳴きそばっていう商売が
ずっと成立していたのでしょう。



そもそも日本の麺類はお腹にやさしいお料理だった。
消化が良くて、体を芯からあっためる。
だから体をこわして、お腹の調子が悪いとき。
うどんを食べて、栄養とする。
短く切ったうどんを
コトコト、じっくり煮込んで冷ましたものは
離乳食にもなったほど。

いやいや、讃岐うどんはコシがあって、
決してやわらかくはないでしょう。

そういう人もいるかもしれない。
けれど、コシがあることと、固いコトは別の話で、
讃岐のうどんは噛まずに飲める。
飲み込んでもすぐにお腹がすいてくれるほど
消化がいいんだと言われます。
小麦粉100%。
その製粉の仕方や水の質。
練ってまとめたモノを「麺体」と呼ぶのですけど、
それを袋に入れて足で踏んだり、あるいは揉んだり。
棒で伸ばして折りたたみ、時間をかけて鍛えるコトで
「コシ」と呼ばれる独特の力強い食感を
うどんや蕎麦、中華麺は手に入れる。
だから茹でてお湯から取り出した、
その瞬間はクタッとしてて、
ところがそれを冷たい水でキリッとしめた途端に
麺が力強いコシをはじめて手に入れる。

その点、芯を残して仕上げるから
コツコツとした歯ごたえのある
スパゲッティのアルデンテはまるで別物。
麺というモノが、なめらかで
のどごし良くて当たり前だった時代に、
アルデンテのパスタに遭遇した日本の人たちは、
ビックリしました。
こんな「生煮えのもの」を
なんでイタリアの人は食べるんだろう。
ホジホジしていて、なにより食べるとお腹が膨れる。
膨れた上になかなかお腹がすいてくれない。

それで発明したのがナポリタンとか
ミートソースといった喫茶店のやわらかスパゲティー。
良く茹でてた麺を、ザルに取り上げ休ませて
芯まで熱がしっかり入ったクタクタ麺を炒めて食べる。
まさに焼きそば。
食べなれぬモノを食べなれたモノにアレンジすることで、
スパゲティーは一気に市民権を得たのでしょう。



ところで、イタリアの人たちは
そんな生煮えで消化に良くないスパゲティーを食べても
平気な丈夫な胃袋をもっているのでありましょうか?
アルデンテのスパゲティーを食べて、
お腹が苦しくなるようなコトはないの?
とイタリア人の友人に聞いてみた。
あっけらかんと「夜にスパゲティーは
あんまり食べないようにするよネ」‥‥、って答えて笑う。
スパゲティーは昼に食べるコトが多いよネ。
夜は肉や魚を食べる。
だって、炭水化物でお腹いっぱいにしたくないじゃない?
パスタを食べるとしたら、
アルデンテのロングパスタじゃなくてショートパスタ。
ペンネやニョッキの方をよく食べる。
ショートパスタは良く茹でて、クニュクニュ、
柔らかい食感を楽しむほうがおいしいからネ‥‥、と。

ふーん、なるほど。
たしかにイタリア料理の晩ご飯では、
パスタはスープと同じ扱い。
お腹いっぱいにならないように食べることが粋な食べ方。
勉強しました。
また、来週。



2015-06-04-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN