017 たのしく味わう。その17
博多名物はラーメンじゃなく?

九州、福岡。
博多の街を代表する食べ物はなに?
‥‥、って、質問をするとほとんどの人が
「ラーメン」と答えるに違いありません。

もとい。

ほとんどの人ではなくて、
「福岡以外に住んでいる、
 あるいは福岡出身ではないほとんどの人」
にとって、その街を代表する食べ物はラーメン。

ずっと昔。
若かった頃のボクもたしかにそう思っていた。
地元の人と飲んだあと、今晩の〆をなににしましょう‥‥、
と聞かれると、当然のように
「ラーメンを」とおねだりしてた。
それじゃぁ、近所においしいラーメンのお店があるから、
そちらででもと。
やっぱり博多の人はラーメンが好きなんだ‥‥、
ってずっと思っていたのです。



ところがあるとき。
東京から来て博多にいつき、
そこで飲食店を手広く経営している人に、
実はね‥‥、って言われます。

私も博多に来たときは、
地元の人にラーメン屋さんに連れて行ってもらっては、
よろこんでいた。
ところがそのうち、
地元の人と本当に馴染んできはじめた頃。
つまり、彼らが私に遠慮しなくなってからというもの、
ラーメンはもういいからうどんを食べに行かないか‥‥、
って誘われるようになったんだよね。
実は彼らは、うどん好き。
他の街から来る人のために、
好きなラーメン屋をもっている。
けれど「〆にラーメン」と言われる度に、
こいつ、博多のコトをまだ知らないなって
よそ者気分になるんだね。
だからこの次。
〆はどちらで‥‥、って聞かれたら、
「うどんを食べに行きませんか?」と言ってみなさい。
本当に仲良くなれるから。



「博多」と「うどん」が
その時のボクにはまるで結びつかない。
だからそんなコトもあるんだろうか‥‥、と、
半信半疑で、
「〆はうどんにしませんか?」と言ってみた。

そしたら博多のおじさんたちの色めき立つコト。
あそこの店はまだあいてるだろう。
いやいや、あそこは今日はお休み。
今から急げば、あの店だったら間に合うだろう‥‥、と、
タクシー止めて乗り込むことになっちゃった。

おおごとになってすいません、と謝るボクに、
いやいや、オレたちが食べたいんだよ。
夜のラーメンは接待みたいなもんだけど、
うどんとなったら話は違う。
うどんを食べるってわかっていたら、
もっと早い時間に一旦うどんを食べてから
飲み直しをするのも良かったんだよな‥‥、って。

移動の途中も。
うどんを食べてる間もずっと、
うどんの麺はどこのがおいしく、出汁はあそこ。
ごぼう天をたべるんだったらあの店がいい、と
博多おじさんのうどんを語る勢いまるで衰えない。
それで結局、翌日の昼をみんなと
うどんを食べるコトになっちゃったりした。

 


そしてそのときの、そのうどん。
それはボクがそれまで食べた
どんなうどんとも違ったうどん。
麺はヌルンとなめらかで、
讃岐うどんのようにコシがあるわけじゃない。
スルンとすすると唇を撫で回すようにわけいってきて、
口の中をあっためる。
やわらかい。
けれど決して伸びてるわけじゃなくて、
麺全体にハリがある。

小麦の香りがスゴイのです。
それに出汁がドッシリとして味わい深い。
麺そのものに出汁がしっかりからむ上、
時間がたつとどんどんうどんの中に出汁が染みこんでいく。
なめらかでやわらかだった麺がふくれて
一層やわらかになり、お腹の中にスルンと飛び込み、
そこでも膨れてお腹を満たす。
あぁ、こんなうどんがあったんだ‥‥、と、
それからすっかり虜になった。

大きな窯にタップリお湯を沸かした中で、
グラグラ、長い時間をかけて茹でるからこその
やわらかな麺。
そのなめらかが好きになってしまうと
博多のラーメンなんて、
気が短い人が手っ取り早くお腹に麺を放り込むために
工夫されたファストフードの料理に思える。
太くてコシのある讃岐うどんは、
一度食べると長い時間、お腹を空かせぬ工夫の料理。
そんなふうに思えてしまう。

さて来週に続きます。



2015-07-02-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN