016 たのしく味わう。その16
麺のコシは何で決まる?

麺のコシ。
確かな歯ごたえとともに自然に歯切れる、
おいしい麺のひとつの特徴。
そのコシが一体、どのようにして作られるのか‥‥。

その工夫は原料と作り方の組み合わせでなされるのです。

まず粉の性質。
サクサク仕上がる薄力粉や、モチモチしてくる強力粉。
いろんな性格の粉の配合で、
麺のコシが強くなったり弱くなったり。

小麦粉の中にあるグルテン質が引っ張る力‥‥、
つまり弾力、コシを生む。
そのグルテンの性格を引き出すために必要なのが、塩。
コシの強いうどんの代表でもある讃岐うどんの茹でたては、
麺そのものにすでに塩の味がのってる。
だからそれに大根おろしと生醤油をかけただけで
十分おいしく食べられるほど。

昔から讃岐のうどん作りには
「土三寒六常五杯」という口伝がある。
どさんかんろくじょうごはい。
小麦粉を練るときに使う塩水の、塩と水の割合を
季節に合わせてかえるための目安を伝えるおいしい呪文。
夏の土用の丑には塩を1に対して、水が3。
寒い時期には1:6で、
普通のときには1:5という意味なんですね。
気温が上がると練った小麦がへたってくるから、
塩を多めに使わないと引っ張り感‥‥、
つまりコシが出ないんだという。
だからこれから、夏に向かって讃岐のうどんは
どんどん塩が強くなってく。



ならば塩を強くすればうどんにコシがでるのかというと、
それだけじゃない。

麺の中には塩でコシを出せない麺がたまにある。
その代表が名古屋名物の「味噌煮込みうどん」。
うどんを生のまま、味噌風味の出汁をはった鍋に入れ、
クツクツ煮込んで仕上げるというのがその調理法。
だから調理している間にどんどん麺の中に
味噌の塩気が入ってくる。
普通の塩でコシをだした麺を使って作ると、
塩が強くなりすぎ食べられない。

それで名古屋の味噌煮込みうどん用の麺は真水で打つ。
塩の力をかりず、
グルテンの引っ張り感を引き出すためには
冷たい水で何度も何度も叩いて伸ばして、
小麦粉のタネを鍛えあげなきゃいけないんです。
手間はかかる。
けれど、そうして手に入れたうどんはグツグツ煮込んでも、
決して熱にへこたれず歯ごたえ残したままで仕上がる。
粉の配合にも気を配り、ただただひたすら、練り、叩く。

ラーメン用の中華麺も、圧力をかけ鍛えることで硬くなる。
まな板の上に何度も何度も叩きつけたり、
太い竹竿を押し付けながら、
上に乗っかり全体重をかけてみたりと、工夫さまざま。
製麺機を使って作るときにも、
伸ばしたタネを伸ばしてはそれを折りたたみ、
また圧力かけて伸ばして再び折りたたむ。
その繰り返しで麺にコシを出していくのです。

麺のコシは、つまり
「粉の性格」「塩の分量」「水の温度」に「鍛え方」。
この4つの工夫でだいたい決まる。
そういう麺は、どんなに長く茹でても決して壊れない。
やわらかくなってしまいはするけど、
溶けずにずっとお湯の中で踊って伸びない。
煮込んで、やわらかくなるということと、
伸びてしまうということは別のコトで、
クタクタになっても冷水に放った途端にコシをとりもどし、
ツヤツヤしてくる。



コンビニエンスストアで売ってるチルド麺。
あるいは、スーパーなどで売られてる
凍ったうどんのコシは驚くべきほどで、
時間が経っても不思議なほどに持続する。
あのシコシコ。
あのツルツルや歯ごたえは、タピオカ粉のような、
本来、中華麺には使われることがない
でんぷん質のおかげだったりするのです。
そういうモノでコシを不自然に手に入れた
うどんやラーメンは、グツグツずっと煮込んでいくと、
鍋のお湯が白濁してくる。
そしてやがては麺が溶け出しちぎれてしまう。
当然、冷たい水に入れてしめても、
ボロボロと固まるだけでコシのある麺には決して戻らない。

長く煮込んでボロボロになるのならば、
消化にいいのではないかというと、そうじゃない。
だって、お腹の中の温度は、
麺を茹でるお湯の熱さに絶対ならない。
腸が煮えくり返るといっても
胃液がグツグツ沸騰するようなコトはなく、
そういう温度にならない限り、
コシやハリをなくさぬ、つまり消化に悪い麺。

コンビニエンスストアで売ってる、
チルドの麺やインスタントのカップ麺に、
消化よろしいかつての「夜鳴きそば」のような料理が
淘汰されてしまったコト。
便利のコトを考えるならしょうがないかと思いもするけど、
それこそ自然の摂理に反する
へんてこりんなコトだったなぁ‥‥、
となやましくさえ思ってしまう。

さて来週は、なめらかにしてやわらかい
うどんの女王の話をしましょう。
お腹がすいてきちゃいます。



2015-06-25-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN