015 たのしく味わう。その15
老舗料亭のそうめんの茹で方とは。

築地に本店をもつ老舗の料理。
そこの若旦那さんと
仕事を一緒にさせていただいたときのコトです。
打ち合わせにお店にいくと、
お店の上のまずは住まいに案内される。
しかも台所に通されて、一緒に昼を食べましょう‥‥、と、
軽い料理をふるまわれるのが常でした。
だから打ち合わせの時間は大抵、
昼の営業が終わった3時ちょっと前。
若旦那さんと打ち合わせがあるその日は
ランチをせずにウキウキしながら、伺ったもの。

手間のかかった料理はあまりなく、
若い衆が作ったまかない。
魚のアラの煮付けだったり、野菜の端材を使った汁とか、
シンプルだけどしみじみおいしい料理を
ゴチソウになっていた。



ところがある日。
今日は若い衆もみんなイベント出払っちゃって、
ボクが留守番。
本当に何にもないんだけれど、
チャチャッとそうめんを作りましょうネ‥‥。
つけダレはうちのおいしい出汁と
カエシで作りますから‥‥、と、
ご主人自ら厨房にたちコツコツシャカシャカ。
大きなお皿に冷たいそうめん。
別のお皿に錦糸卵や刻んだキュウリ、
大葉にみょうが。胡麻や生姜が薬味で食卓にぎやかにする。
さすがそうめんでも、こんなゴチソウになるんだなぁ‥‥、
と思いながら、いただきますと一口すする。

ビックリしました。
今まで食べたコトがなかったそうめんの味。
味というより、食感がネットリ、
まるで舌にまとわりつくようで色気を感じる。
のどごしなめらか。
何より小麦の香りがフワッと鼻からぬけて、
タレとのからみもとてもいい。

旨いですね。
どこのそうめんなんですか?
‥‥、とボクは聞きます。
すると若旦那さん。

どこのだったかなぁ‥‥、
スーパーでまとめて買ったどっかのそうめん。

こんなにおいしいそうめんを
今まで食べたコトがなかったから、ビックリしました。
できればそのそうめんを買いたいんだけどと、
いうとニッコリ。
いやいや、そうめんがいいんじゃなくて、作り方。
サカキさんは、そうめんを1分、2分しか
茹でないんじゃないですか?
って、聞くから、ええ。
固めに茹でた方がコシがあっておいしいですから‥‥、
とボクは答える。

これは4分、茹でてます。

なんとビックリ。倍以上。



4分茹でると麺は膨れてクタクタになる。
ザルにとった瞬間は、
どうにもこれは食べられないなぁ‥‥、
って思うくらいにヌルヌルします。
それを氷をタップリ入れた水につけたらガシガシ洗う。
両手つかんで、揉むようにして洗っていると
クタクタしていた麺がキリッとしまってくるんです。
中までしっかり熱が入って、水をタップリ吸い込んだ麺。
乾燥されて乾いた麺が、
みずみずしさを取り戻すには時間をかけて茹でなくちゃ。

そもそも麺は、水を食べる料理なんです。
中に芯が残った状態をよろこぶ人もいるけれど、
そうめんに限って言えばそれは生煮え。
小麦の風味がでる寸前の、粉っぽさが残って
ボクは好きじゃない。
なにより芯まで水を吸い込んで
仕上がる麺は消化にいいから。
サカキさん。
タップリ食べても、
今日は晩ご飯がおいしくってしょうがないよ‥‥、と。

確かにその日は晩ご飯が待ち遠しくて、
しかもおいしく食べられた。
試しに自分で言われたように作ってみると、
そのおいしさにもう虜。
今ではそうめんはよぉく煮込んで、水で洗ってしめて喰う。

まだまだ、良く煮た麺の話は続きます。


2015-06-18-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN