おいしい店とのつきあい方。

065 どこでも一緒? その10
「お皿をお下げいたしましょうか?」

この食器はもうお下げしてもよろしいですか?

そう聞かれること。
レストランでよくあります。

テーブルの上をキレイな状態に保ちたい。
あるいは、次の料理を出す準備をしておきたい。
あわよくば、お客様の食事のペースがあがって、
客席の回転がよくなるかもしれない。
しかも、お客様が帰った後の後片付けが短時間ででき、
次のお客様を短時間で案内できる。

そういう目論見で、新人スタッフの仕事はまず
「中間バッシング(*)を徹底すること」
と教育をするお店があります。
チェーンストアに多いのですけど、
そのために哀しいコトが現場で起こる。

(*)レストランの用語で、
食事の途中で食器を片づける作業のこと。

クラブハウスサンドイッチを平らげた最後の最後で、
齧って口直しをしてやろうと、
大切にとっておいたピクルスが残ったお皿を、
下げられちゃうような哀しい出来事。

アイスコーヒーを半分飲んだら注ぎ足そうと思って
置いておいたミルクピッチャーが、
いつの間にかなくなっちゃってる不思議な出来事。

柄にもなく糖質ダイエットをしようと思って、
カレーのご飯をほんの一口分だけ残して、
だからでしょうね、いつまで経っても目の前から、
カレー色にそまったいかにもおいしそうなご飯が
ずっと消えてくれない、
なんともなやましい出来事だったり‥‥。

どれも実際、ボクが経験した切ない出来事なのだけれど、
これらすべてがお客様のテーブルの上を
途中でキレイに整えることの
本当の意味を教わることを忘れているから。
お客様思いのレストランでは、
こう、「中間バッシング」の目的を
サービススタッフに教えるのでしょう。

中間バッシングは、
お客様にサービスをして差し上げるよいキッカケ。
だからテーブルの上の状態を
いつも関心を持ってみつめましょうネ。
そして一声、
「そろそろ、お皿をお下げいたしましょうか」
と声をかける。
その一声が、お客様の閉じたココロをノックして、
コミュニケーションのドアをあける合図になる。
つまり中間バッシングは
お客様とのコミュニケーションの
はじまりなんです‥‥、と。

だから笑顔で「お皿をお下げいたしましょうか‥‥」
と言ってくれるサービススタッフは、
コミュニケーションをしたがっていると思えばいい。
折角のノックに対して、
「はい」と一言ですませることはモッタイナイし、
お店に人にとっては肩透かし。
キャッチボールで投げたボウルを受け止めてはくれたけど、
投げ返してくれないような
切ない気持ちにさせてしまうのです。
申し訳ないコトなんですネ。

フカヒレ料理で有名なお店で、
土鍋で煮こまれたフカヒレの姿煮を食べたときのこと。
もうおいしくておいしくて。
夢中で食べて、煮込んだスープも
スプーンでこそげとるようにして味わった。
もうこれ以上食べようと思ったら、
指で土鍋を拭って食べるしかないほど
キレイに食べたのですネ。
お店の人がやってきて、
「お下げしてもよろしいですか?」と。

ボクはそのときこういいました。
土鍋の中がキラキラしてて、
これがまだスープが残った証だと思うと
愛おしくて、愛おしくて。
でもコレ以上はお行儀悪いから、
お返しします‥‥、と。

そしたらお店の人がニッコリしながら、
「それでは一旦、お預かりいたしましょう」
と言って、土鍋を下げる。
5分ほどして、再び土鍋を持ってきた。
蓋をあけると中にはご飯が入ってて、
しかもご飯が土鍋の内側一面に貼り付き、
その壁面にこびりついてたフカヒレスープを吸い込み
飴色になっているのです。
ご飯を貼り付け焼き上げる。
軽く焦げ目がついていて、剥がして食べると
土鍋をまるで舐めたようにキレイになってく。

お客様の言葉をそのままシェフに伝えましたら、
ぜひにと特別に作ったものです。
いかがでしたか?と。
キレイになった土鍋を差し出し、
さすがにコレ以上のおねだりは、
土鍋をお土産にいただけませんか?
ってことになっちゃいますもの。
ココロ残りはございません‥‥、と。
ずっとそれからいいお付き合い。

さぁ、中間バッシング。
しちゃいけないコトもあるんです。
小さな親切、大きなお世話にならぬようにとまた来週。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-06-23-THU