おいしい店とのつきあい方。

064 どこでも一緒? その9 手伝っちゃいけません。

行列ができている。
なのにお店の中を見ると
お客様が座っていないテーブルがある。
それもひとつやふたつじゃなくて、かなり沢山。
お客様が帰ったあとなのに、
テーブルの上には食べ終わった食器が
片付けられずに残されている。

厨房の中の人数が足りないだけばかりじゃなく、
サービススタッフの人数までもが
基準を満たしていないから。

そういえば昔。
たまたま訪れたお馴染みの店。
いつもはゆったりとした静かな店で、
ところが雑誌で紹介された直後だったらしく、
思いがけずも混んでいました。
中に入ると、片付いていないテーブルがいくつかあって、
それで気を利かせたつもりで
お客様が帰ったあとのテーブルをキレイに片付け、
汚れた食器をカウンターの隅っこに積んだ。
キレイになったテーブルのひとつに座って、
お店の人を待っていたのです。

叱られました。

「お客様に汚れ仕事をさせるのは、もうしわけないから」
と、やさしい言い方ではあったけれど、
次々、お店に入ってきては
片付いたテーブルに着席しようとするお客様に、
「もうしばらくおまちいただけませんか」
と、いちいち頭を下げて謝るお店の人の対応を見て、
あぁ、やっちゃいけないことをしちゃったんだ‥‥、
と反省したコトがありました。

かつて良い飲食店の条件のひとつに、
お客様がお帰りになって、
どのくらい速やかに次のお客様をお出迎えできる状態に
テーブルの上を整えることができるか‥‥、
というコトが挙げられていたコトがありました。
それほど、お客様が帰った後のテーブルが
長い間、片付いていないということは
異常事態を表している。
ただ最近は、テーブルが片付いていないことを
お客様を新たに座らせないための
言い訳に使うお店が増えている。
とても残念。

だって、テーブルの上を片付けるというのは
次のお客様を案内するためだけでなく、
食事をしている他のお客様が気持よく食事できるよう、
レストランの環境を整えるためでもあるのですから。

お客様が気持ちよく食事ができるよう‥‥。
お客様が席を立ってからの、
次のお客様への準備を短時間でできるようにと、
食べ終わった食器を随時お下げしましょうと、
サービススタッフは教えられます。
その「食事の途中で食器を片付ける」という作業のコトを、
「中間バッシング」とレストランでは呼ぶのです。

バッシング。

Bussingと書きます。
自動車のバスと同じつづりで、アメリカでは
「サービスをする人の助手として働く」
という意味を持つ。
サービスをする人を助ける作業といえばなにかといえば、
そのほとんどが
使い終わった食器を片付けるという仕事になって、
だからバッシング=食器片付けとはいかないまでも、
バッシング≒食器片付けというふうになる。

アメリカのレストランには
「バスボーイ」と呼ばれる職種があります。
食器を片付けるコトだけをするスタッフで、
一般のウェイターやウェイトレスとは違った制服を着て、
ただただ食器を片付ける。
例えば彼らに、コーヒーのお替わりをくださいといっても、
彼らは他のサービススタッフに
それを伝えることしかしない。
当然、料理の追加注文をしても
それに応えることはありません。

お客様とのコミュニケーションをしないスタッフ。
そう考えるといいでしょうか。
だからバスボーイは一時期、英語が話せぬ移民の仕事。
特にヒスパニック系のための仕事と
言われていたことがあったりもした。
食事が終わって、チップが置かれているテーブルを
片付ける彼らは、絶対、そのチップに手を出さない。
チップは「作業」に対して払われるものではなくて、
「コミュニケーション」の濃密さに合わせて
払われるモノであって、
だからコミュニケーション以外の作業をしている彼らは、
チップを受け取る資格が無い。

あぁ、最近の日本にはバスボーイのような
サービススタッフがあまりに多くて、
ちょっとさみしくなったりします。

さて、中間バッシング。
それをスマートに受ける方法を
来週、ちょっと考えましょう。

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半径1時間30分のビジネスモデル』

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博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
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博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2016-06-23-THU