063 どこでも一緒? その8
望ましくない満席。

かつてハワイのリゾートホテルにある、
15分刻みで予約をとるレストランの話
したことがありました。
予約の電話を入れると、
その時間は満席になってございます。
あぁ、今日はルームサービスで
夕食をとることになるんだろうなぁ‥‥、
と思っていたら、その15分前。
あるいは15分後であれば
お席のご用意がございます‥‥、と。
どういうコトなんだろうと、
「まだ満席ではない時間」にあわせて
レストランに到着すると、
「サカキ様、お待ちしておりました」
と名前を言う前に声をかける。
しかも待たされること無くスムーズに
テーブルに案内されて着席をして、
料理提供も心地よいリズムでなされる。
聞けば、15分おきに2組しか予約をとっておらず、
そうすることでやってくるお客様の名前を聞かずとも
誰か大体推察できる。
厨房の中の作業も一度に集中することがなく、
だから料理提供もスムーズになる工夫だという。

飲食店という場所。
毎日、毎日、確実に満席になってくれれば
人気の店として贔屓にされる。
その満席の状態が続いてくれれば潰れることはないのです。
だから一生懸命、満席にすることに工夫を重ねる。
ただなやましいのが飲食店にとって
「望ましい満席」と「望ましくない満席」があるのです。



望ましい満席というのは、
お客様が一定のリズムでお店にやってくるコト。
5分おきとか10分おきに一組ずつのお客様がくる。
しかもそのお客様の気持ちが急がず、
お店のペースにあわせて食事をたのしみましょうと、
余裕をもったお客様だったりするとお店はシアワセ。
一方、望ましくない満席というのは、
例えばオフィス街の平日のランチのような状態で、
一斉にお客様がやってくる。
しかもみんな気持ちが焦っていて、
早く食べさせろと殺気立ったりするような満席。

かつてファミリーレストランが
まだめずらしい存在だった頃。
地方にチェーンのファミリーレストランが進出すると、
町のニュースになったのですね。
ニュースは人をどんどん集める。
開店と同時に何十人もの人がお店の前に
並んで待っている‥‥、ってコトが普通に発生してた。
宣伝やイベント、値引き販売をしても
なかなかお客様が集まらない今には想像できないくらい、
どこからこんなに集まったんだろうってくらいに人が来た。
「開店させる」というコト自体が大きなイベント。
お客様の気持ちを惹きつけることができたのですネ。
なつかしい。

ただ、沢山のお客様を一度にお店に案内すると、
そこから先が大変です。
厨房の作業が止まってしまう以前に、
サービスが行き届かない。
お冷ももっていけず、メニューの説明もできないまま、
つまり注文もとれずに
お客様をほったらかしてしまうことになる。
それで一組、また一組と時間差をもうけて
客席にご案内する。
そのタイミングをはかりつつ、お客様に頭を下げて
「申し訳ございません、しばらくお待ち下さいませ」
というのが開店当初の店長の最大にして
唯一の仕事だったりしたのです。

お客様は怒ります。
だって客席は開いているのに
なかなか案内されずに表で待たされる。
「飲食店で待つ」ということが、
今のように普通ではなかった時代のコトです。
それでも案内してしまうと、もっと大変なコトになるから、
店長はひたすら頭を下げてあやまる。
客席は満席ではないけれど、
「厨房スタッフとサービススタッフにとっては満席」。
だからひたすら待っていただく。



今はお店の前で待たされて
かつてのように怒る人はそうはいません。
怒る前に行列が嫌いな人は、別のお店に行ってしまうから、
待つことが好きな人が待つことになる。
お店の中には空席がある。
なのになかなか案内されず待たされるというお店を
最近、結構見ます。
空席をすべて埋めてしまえば
ほぼ行列が解消されるに違いないのに、
そこにお客様を案内しないで、お店の前に行列させる。
今まで言ってきたような理由で、
待っていただかないとサービスが行き届かない
というようなこともあるのでしょう。
けれど、中にはどうも行列を作るために
空席を悪用しているお店もかなりあるような‥‥。
なやましくってしょうがない。

話題の店というわけじゃない。
新規開店でもなく、もう何年も営業しているお店が
急に、ウェイティングができるようになった。
お店の中を覗いてみると‥‥、なるほどなるほど。
これじゃぁ、行列ができてもしょうがないやという状態。

さて、どんな状態なのか来週、お伝えしましょう。
日本のいろんなところで今、見受けられる光景です。


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手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-06-09-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN