望ましい満席というのは、
お客様が一定のリズムでお店にやってくるコト。
5分おきとか10分おきに一組ずつのお客様がくる。
しかもそのお客様の気持ちが急がず、
お店のペースにあわせて食事をたのしみましょうと、
余裕をもったお客様だったりするとお店はシアワセ。
一方、望ましくない満席というのは、
例えばオフィス街の平日のランチのような状態で、
一斉にお客様がやってくる。
しかもみんな気持ちが焦っていて、
早く食べさせろと殺気立ったりするような満席。
かつてファミリーレストランが
まだめずらしい存在だった頃。
地方にチェーンのファミリーレストランが進出すると、
町のニュースになったのですね。
ニュースは人をどんどん集める。
開店と同時に何十人もの人がお店の前に
並んで待っている‥‥、ってコトが普通に発生してた。
宣伝やイベント、値引き販売をしても
なかなかお客様が集まらない今には想像できないくらい、
どこからこんなに集まったんだろうってくらいに人が来た。
「開店させる」というコト自体が大きなイベント。
お客様の気持ちを惹きつけることができたのですネ。
なつかしい。
ただ、沢山のお客様を一度にお店に案内すると、
そこから先が大変です。
厨房の作業が止まってしまう以前に、
サービスが行き届かない。
お冷ももっていけず、メニューの説明もできないまま、
つまり注文もとれずに
お客様をほったらかしてしまうことになる。
それで一組、また一組と時間差をもうけて
客席にご案内する。
そのタイミングをはかりつつ、お客様に頭を下げて
「申し訳ございません、しばらくお待ち下さいませ」
というのが開店当初の店長の最大にして
唯一の仕事だったりしたのです。
お客様は怒ります。
だって客席は開いているのに
なかなか案内されずに表で待たされる。
「飲食店で待つ」ということが、
今のように普通ではなかった時代のコトです。
それでも案内してしまうと、もっと大変なコトになるから、
店長はひたすら頭を下げてあやまる。
客席は満席ではないけれど、
「厨房スタッフとサービススタッフにとっては満席」。
だからひたすら待っていただく。
|