062 どこでも一緒? その7
行列を「つくる」ラーメン店。

行列レストラン。
人気があって、繁盛しているレストランの
カテゴリーのひとつとして
ここ数年、定着しました。

ハワイからやってきたパンケーキのお店。
アメリカで人気のハンバーガーのお店やピザレストラン。
日本初上陸なんてキーワードをちらつかされると、
たちまち行列ができてしまいます。
テレビや雑誌で、「行列ができているよ」と紹介されると、
行ってみようかと気持ちが動く。

行列に並びたくなるのが人の心理。
行列が行列を呼び、行列がどんどん長くなっていく。

人気があるから行列ができるのか?
行列があるから人気がでるのか?
どちらが先で、どちらが結果かわからぬ、
つまり、ニワトリタマゴ。
それが飲食店における行列で、
この行列を作るノウハウを売る
コンサルタントがいたりする。
ロケーションの選び方。
行列が出来やすい流行りの商品の作り方。
いろんなアプローチで、
話題のお店を作るコトを請け負う仕事。
とは言え、そう簡単に行列ができるはずがなく、
しかも一旦出来た行列が、ずっと持続するとは限らない。
手練手管を使って無理やり作った行列は、
あっという間になくなってしまうことがほとんどで、
何年も続く行列なんて奇跡的な例外のコト。

ところが、かなりの確率で行列を作ることができる。
しかも一瞬の行列ではなく、
持続的な行列を作ることができるノウハウを
持っているという人がいて、興味津々。
その人の話を聞く機会がありました。

ラーメン店を繁盛させるというので有名な人。
彼が語る行列ができるラーメン店の条件は
こんな内容でした。



場所は近所にラーメン店が集まっている場所。
東京で言えば池袋とか上野、
あるいは神田のような場所がいい。
そのちょっと町外れ。
店が密集している場所だと、
行列ができることで周りの店からクレームがつく。
だから近所がちょっとさびれている方がいい。
間口が狭くて、奥に細長い物件。
カウンターを挟んで厨房と椅子を並べて、
その椅子の後ろ側が人が横歩きはできるけれど、
並んで待てない程度の幅が理想的。
お店の中に並ばれると、店の表に行列ができないか、
ココは妥協できないところ。
お店の外に券売機を置く。
最初に、食券を買ってから並んでください‥‥、
とお願いすれば、待つ時間が長くても
あきらめて帰られるコトがなくなる。

どんなラーメンでも丁寧に作る。
行列を作るためには、お客様を早く返さないことが大切。
どんなに人気のある店でも、
すぐ食べ始められて、すぐ食べ終わるようでは
行列ができる前にお客様が帰ってしまう。
だから提供時間をなるべくかけて料理を作る。
丼は熱々にして、手に持てないようにする。
レンゲを必ずつけて、
スープはレンゲで飲んでもらうようにすれば、
食べる時間も長くなる。
スープも熱々。
最後に熱した背脂で蓋をすれば熱い状態が持続する。

噛みごたえのある麺。
分厚いチャーシュー。
もやしやキャベツのような野菜を
具材にたっぷり乗せればますます食べる時間が長く必要。
それはそのまま行列の長さに比例するんですよ‥‥、と。

聞いているうちに、
これは「ラーメン二郎」そのものだなぁ‥‥、
と思って素直に口に出してみました。
答えはシンプル。
「そう、二郎系のラーメンは
 究極の行列製造マシンですよ」と。



ただ行列ができるお店は人気のお店ではあるけれど、
それがそのまま「儲かるお店」ではないんだともいう。
そりゃ、そうでしょう。
食べる時間がかかるということは、
そのまま回転が悪いということ。
回転が悪いということは、
つまり客数が思ったほどは増えなくて
売上もそれほどとれないというコトになる。

行列ラーメンは客数をこなすには適していない。
だから立ち食いそばや立ち食いうどんのお店はあっても、
立ち食いラーメンのお店でない。
客数を増やせない分、トッピングをおねだりすることで
客単価を揚げる努力をするんですよ‥‥、と。
なるほど、満席の状態をコントロールするビジネス。
満席の本質を悪用したズルいビジネスがあるんだなぁ‥‥、
と感心しました。
さてその一方で、満席の状態をコントロールできないと
どういうことが起こってしまうのか。
来週の話題とします。


サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
Amazon

「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-06-02-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN