料亭といっても個室だけではない店。
料亭の料理を気軽に楽しむことができる、
テーブル席も用意されていて、
そのテーブル席でお客様をもてなすもてなし方を
まとめていた時のことです。
テーブル席においていいサービスって、
どんなサービスなんだろう?
そんなことからまとめ作業をはじめたのです。
個室ならばプライバシー。
お客様の気配を感じて、
最小限の時間で最大限に濃密なサービスを
して差し上げること。
そして時にノーサービスであることが、
よきサービスでもあるという独特さ。
テーブル席でそんなサービスをしたら
気が利かないネ‥‥、と叱られる。
テーブル席において、お客様から、
何かをしてちょうだい?
と言われることは恥ずかしいこと。
お客様がしてほしいと思うことを、
先に感じて、して差し上げることが
テーブル席でのよきサービス。
そのためにはお客様を観察することが必要になる。
なのだけど、自然とそちらに目の行くお客様と、
見たくないなぁ‥‥、と思ってしまうお客様がいる。
自然とそちらに目が向く人は、ステキなお客様。
そうでない人は、お行儀悪くて
頭が「いないことにしてしまいたくなる」お客様。
そういうお客様には、
サービスを仕損なっちゃうことがあるんですよ‥‥、
と彼女たちはいう。
「どんなお客様に自然と目が行くと思います?」
そういう彼女たちの質問に、食いしん坊のボクは即答。
「出てきた料理をおいしそうに
すぐ食べる人じゃありませんか?」と。
「確かにそういう方には元気を頂戴できます。
ただ料亭の料理というのは、
一般的な日本料理のお店と違って、
時間が経っても味の変化が少ないように
調理されるのですね。
じっくり時間をかけて、会話の花を開かせる役目を
料亭の料理は担っているので、
出来立てを急いで召し上がる必要はない。
むしろ、あまり急いでお召しになると、
あら、次の料理を厨房に急かさなくちゃと
気持ちが焦って
良いサービスどころじゃなくなっちゃいますし。
それよりなにより、食べる姿勢のうつくしい方。
背筋が伸びて、
心地よい緊張が後ろ姿から伝わって来る方。
惚れ惚れします。
お酒を飲みながらの会話は、
くつろいだ姿勢で砕けたお話になりましょう。
けれど、フォーマルな場所で姿勢正して
食事をしながら交わす会話は、
ほどよき緊張で互いをステキに見せるものになります。
そうでなければ、お見合いを
しかるべき場所で食事をしながら‥‥、
なんてなさいませんでしょう?」
ひととおり料理を食べ終わって、
後ろ姿がくつろがれた瞬間が、
彼女たちのサービスのしどき。
姿勢のメリハリをほどよく表現していただけるお客様には、
目が釘付けでサービスをし損なうなんて粗相はできない。
それでは、目に入らないお客様ってどんな姿勢のお客様?
と、みんなで考え、出た答えは
「ウツムク・ツク・クム」
まず「ウツムク」。
食事をうつむきながらされる方。
後ろ姿がしょんぼりしてみえる。
手で持つべき器を、食卓においたままで召し上がられる。
自然と背中がまるまって、うつくむくようになってしまう、
そんなお客様は貧しげで、見るのも忍びなくなっちゃう。
そして「ツク」。
「うつむいて食事をされるお客様は得てして、
肘をついて食事をなさっておられます。
箸を持っていない手を食卓につき
食事をされるお客様って、
どこか虚弱体質のように見えて、見ていて寂しい。
中には箸を持った手をテーブルについて
食事をされるお客様もいるのですネ。
うちのお店に来る前に、
背中と腕を鍛えてらっしゃい‥‥、って
言って差し上げたくなるんです」
と言うほど、見ていて見苦しいんでしょう。
そして最後に「クム」。
「女性に多いのが、脚を組んで食事をされる方。
食事中に緊張させるべきは脚ではなくて背中。
腰がよじれて、さぞかしお腹に
負担がかかってらっしゃるに違いない‥‥、
ってハラハラしちゃうんです」
なるほど、ウツムク・ツク・クム。
俯いて、肘をついて、脚を組む。
そうならないよう、背中をしゃんとさせて食事をすれば
自然と、サービススタッフの目がむいて、
いいサービスを受けられるんだと、
結局、一番勉強をしたのはボクでした。
お金をもらって貴重な勉強。
コンサルタントとは、なんと幸せな仕事だろうと
感謝しました。
けれどもっとぞっとしてしまう
お客様がいらっしゃるんです。
それってどんなお客様?
また来週といたしましょう。
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