いいお店。
どんなに料理がおいしくても、
すばらしいインテリアのお店であっても、
それだけでは本当にいいお店とは呼ばれない。
お客様を、いつもお店の人に関心をもって見守られている、
という気持にしてくれる店。
かと言って、「監視されている」ような
居心地悪さを覚えぬ適度な距離感が、
お店の人とお客様との間に成立しているお店。
それがすばらしいお店の条件。
観察上手な人がサービス上手。
そして、その観察上手な人たちの
「良い関心」を集めるお客様がステキなお客様。
つまり「得するお客様」。
一方、「悪い関心」を集めてしまうお客様は、
ちょっと困ったお客様。
知らず知らずに「損してしまうお客様」。
どうしてもそちらを
見たくなくなってしまうお客様、つまり
「そこにいらっしゃらないと
思い込みたくなってしまうようなお客様」
と言い換えることもできましょう。
数ある「そこにいないことにしてしまいたいお客様」
の中でも、お店の人が思わず悲鳴をあげたくなるような
お客様とは‥‥。
食器を引きずるお客様!
料亭のような上等な日本料理のお店において、
料理が盛りつけられる食器は美術工芸品でもあったりする。
洗うのも、収納するのも取り出すのも、
細心の注意をはらわないと大変なことになっちゃう食器。
ただ、それらをのせるお盆やお膳、テーブルも
それら食器と同じく、あるいはそれ以上に
高価なものでもあるのです。
大人になったばかりのボクが、
身分不相応の料亭に父に連れられ行ったときのこと。
総漆塗りのテーブルを撫でた父が
「腕時計を外しなさい」と、そっと一言。
親子二人して、金属製の腕時計を外して
背広のポケットの中に収める様子は、
おそらくお店に人にとって、
とてもやさしい景色に見えたんでしょうね。
高価なテーブルを傷つけぬ配慮ができるかできぬかは、
得するお客様になれるかどうかのまず一歩。
そんな高価なテーブルの上で食器を引きずる。
考えただけでゾッとします。
テーブルの上に置かれるお膳も同じように、とても上等。
一方、その上に乗せられる食器のすべてが
なめらかな底をもっているとは限らない。
漆器のようなものであれば、その底面はなめらかで、
ときに漆同士がくっついて
器がテーブルやお膳に貼り付いてしまうようなコトがある。
また表面張力でお椀が自然とすべるようなことも
たまにあるほどで、
けれど土物、或いはガラス。
硬質の素材で出来た器の底はザラザラしてる。
手にはなめらかに感じても、
デリケートな素材にとってはまるで凶器。
使用する前に土モノ食器の底を
細かなヤスリでなでてなめらかな表面にする‥‥、
というような工夫をするけど、やはり小さな凸凹がある。
底が凸凹のモノをなめらかなモノの上で引きずれば、
目立たなくとも小さな傷が付いてしまうもの。
そんな残酷な光景を見つめていると、
ココロがすさんで笑顔でサービスなんて
とてもじゃないけど出来なくなっちゃう。
だから知らず知らずと、
そういうお客様のことを見なくなっちゃうんですよ‥‥、
と言われて、なるほど、たしかにそうだよなぁ‥‥。
引きずらなくする方法はとても簡単。
食器を動かすときには、「持ち上げれば」いいんです。
当たり前のことだけど、
その当たり前を当たり前にするために何が必要かといえば
それは「背筋をのばすこと」。
あるいは「肘をつかぬコト」。
「ウツムク・ツク・クム」のうち、
2つを守ると同時に、
なるべく「器を両手で持つ」こと。
食べ終わった食器を、両手で持ち上げ
そっと場所をずらして置く。
この料理は食べ終わりましたを告げる仕草と、
知らせる状態。
次のサービスがそこからすみやかに始まるのです。
ところで、フランス料理の
レストランのような場所において、
食べ終わった器はどのように扱えばいいのでしょうか。
また来週。
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