おいしい店とのつきあい方。

070 どこでも一緒? そのその15
手に取って味わう。

日本の料理を、うつくしく食べるということ。
それはすなわち、「器を手にして食べる」
ということじゃないかと、ときに思うほど
日本料理を食べるときには、かなり頻繁に器を手にする。
器の形、大きさも、手にしやすいようにできているし、
料理自体も口と器の位置を近くしないと
垂れたりこぼれたりしてしまうものがとっても多い。

日本の料理のみずみずしさは
おそらく世界有数だろうと思うのですね。
例えば煮物。
例えばおひたし。
どちらも出汁をたよりに味をととのえる、
水っぽいとすら言える料理。
箸で持ち上げると、ポタポタ汁が垂れ落ちる。

西洋料理の味のベースはソースです。
基本的にトロトロしていて、料理素材にからみつく。
だからフォークで持ち上げても、
それほど垂れ落ちる心配がなく、
せいぜいナプキンを膝の上に置くだけで、
なんとか惨事はまぬかれる。
ところが日本のおひたしを、
器はそのままテーブルに置き、箸だけ使って持ち上げる。
確実に出汁が垂れます。
膝の上ばかりか、シャツもネクタイも
出汁の餌食になってしまう。
だから手を添え、汁が垂れないようにする人もいる。
でも、これはかなりお行儀悪い。
だって、もし手のひらに汁がたれたらどうしましょう。
ペロリと舐める?
チュチュっと吸う?
濡れた手のひらをお店の椅子や
座布団にこすりつけてキレイにする?
どれもかなり、お行儀悪い。
手のひらをハンカチや懐紙で拭うのであれば、
お行儀悪さは半減するかもしれないけれど、
それなら最初からハンカチや懐紙を料理の下に添え、
口に運べばいいことになる。

でもそれって‥‥。

なんだかちょっと滑稽ですよね。
だって、日本の料理を盛り付けた食器は
そのまま手で持ち上げて、口のそばまで運べる大きさ、
形になったものがほとんど。
大きなお皿に盛りつけられた料理が供されたときには必ず、
「取り分け用にどうぞ」と小さな取り皿がくる。
その取り皿は「あなたの分を取り分けて」
という意味であると同時に、
「手に取り料理を味わって」という取り皿でもある。

日本料理をうつくしく食べるためには食器を手にとる。
ところが海外、特に西洋社会の食卓で、
食器を持ち上げるというのは
まずやってはいけないバッドマナー。
お茶碗に入ったご飯は持ち上げてもよく、
お皿に盛ったライスはテーブルの上においたまま
フォークやスプーンで食べるモノ。
同じ料理でも入れる器で、その食べ方は変わるのですね。

さて、持ち上げぬコトが前提の西洋料理の食卓。
食卓の上のお皿は「動かぬコト」が前提なんです。
だからお皿を引きずるコトは想定外の出来事。
そもそも上等な西洋料理のお店には
「テーブルクロス」という障害物が
お皿の下に控えています。
テーブルクロスの上に置かれたお皿を引きずろうとすると、
テーブルクロスもついてくる。
テーブルクロスがついてくるだけならいいのだけれど、
それと一緒にワイングラスやナイフフォークも
一緒についてきたりして、
倒れる、転がる、ちらかっていく。
テーブルの上は大惨事‥‥、ということにもなりかねない。

日本料理で一つの料理を終えました。
そろそろ片付けて、次の料理の準備を
お願いいたします‥‥、のサインは
食器をあるべき場所からちょっと動かし、意思表示。
西洋料理の場合はお皿や器ではなく、動かせるモノ。
ナイフやフォーク、スプーンを食器の上に置く。
それらも一緒に器を持ち上げやすいように
置くサービススタッフに対する気配りが、
食器を下げての合図になる。

ところで西洋料理のテーブルでも
自由に持ち上げることができる例外的な器。
グラスやカップの中身をお代わりしたいとき。
あるいは、それを下げて欲しいときって、
どうすればいいんでしょうか。
来週、お話いたしましょう。

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2016-07-28-THU