東京の紀尾井町にあるニューオータニホテル。
トゥール・ダルジャンというお店があります。
パリを代表する有名な店。
さまざまな有名に彩られている
フランス料理の歴史そのものとさえ言われる名店です。
500年近くの歴史を誇ることであるとか、
昭和天皇がパリを訪れたときに食事をされたとか、
鴨料理がスペシャリテであるとか──。
ことに鴨料理は、調理した鴨を丸ごと
独自の圧縮機に入れ、
プレスしてできた汁をソースにするという調理法。
鴨の一羽一羽に番号をつけ、
その番号を書いた証明書を食べた人に手渡すサービス。
どれもが独特。
ユニークです。
ただ、ボクがこの店に対して最もユニークと思うのが、
毎日、お店のしつらえが変わる稀有なるレストランだ‥‥、
という部分。
お店に電話をかけて
「そちらは何席のご用意がありますか?」
と聞いたとしましょう。
「60席ほどまでご用意させていただくことができます」と、
それがおそらく最初の答え。
「ところで『今日は』何席でいらっしゃるのですか?」
となおも食い下がる。
おそらくちょっと悩んだ末に、
こう答えてくれるかもしれません。
「本日はテーブルを5つ。
全部で17席ご用意させていただいております」
‥‥、と。
基本的に予約が前提のお店です。
毎日、その日の予約の内容を吟味しながら
客室のしつらえを「設計」するのが、
お客様をお迎えする最初の準備。
予約の電話のやり取りは、慎重かつ入念です。
その日の人数。
会食の目的に、何か特別なご要望のあるやなし。
その予約の電話の内容をもとに、
それぞれのお客様をレストランのどの位置に、
どのように座らせて差し上げることが望ましいのか
考えながら、テーブルを配置し直す。
基本的に円卓です。
その円卓のサイズも親密な会食であるなら小さいものに、
接待のようなフォーマルな会食であるなら大きなものにと
アレンジしていく。
大きな窓の向こうに見事な庭園をながめる
ダイニングホール。
広々としたスペースに、
ほぼ満席だとみなす60人分の席を配置しても、
ゆったりテーブルとテーブルの間は余裕をもって配されて、
プライバシーを十分保てる。
そんな贅沢な空間に、
お客様一組、ひと組に最適なテーブルを
作っていこうという努力。
何度かこのお店に行ったことがあります。
行くたびに、客席のレイアウトが変わっていて、
ときに同じお店じゃないかと思うほどに
イメージが違ってみえる。
そのときどきに合わせて
ボクに用意されたテーブルにつくと、
例えば2人の親密な会食に用意されたテーブルは、
他のお客様の目線を避けるような場所に置かれた、
まるで個室のような食卓だった。
大切なお客様をご案内した接待のとき。
接待がうまくいくか、ちょっと緊張しているんです‥‥、
と予約のときに伝えたら、
庭園の全景を我が物にしたかのごとき、
窓に面したテーブルを作ってくれた。
会話が途切れそうになったら、庭をスッと見る。
自然とテーブルを囲むみんなの目線が
一緒に窓の外へと向かっていって、
そのうつくしさを共有する。
言葉を必要とせぬステキな食卓。
なにより、誰が考えてもわかりやすい
特等席という雰囲気に、おおいに助けられたモノ。
毎日、姿を変えるレストラン。
お客様を待つことのないさみしいテーブルを
そのままにしておかない、
日々、テーブル数や客席数を柔軟に変え、
お客様をむかえるお店。
そんなステキなお店も、評価サイトにかかると無粋にも
「60席」と、どこにでもある普通のレストランのように
表記されてしまう。
もったいないなぁ‥‥、と思ったりする。
さて、そんなユニークなお店で、
ボクはゴキゲンなサプライズに遭遇したことがある。
今、思い出しても贅沢にすぎる経験。
来週、お話いたしましょう。
発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」
福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。