トゥール・ダルジャンでのゴキゲンなサプライズ。
今、思い出しても贅沢にすぎる経験のお話です。
お客様の接待にそのお店を使うことになりました。
地方からいらっしゃる予定のお客様が3名。
お迎えするのはボク一人。
つまり4名で食卓を囲む予定の会食でした。
お客様をお出迎えするため、ちょっと早めに到着します。
まずはサロンに通されます。
フランス趣味のソファが20客ほど置かれた
こじんまりとしたスペースで、小さいながらも豪奢な造り。
レストランに来て、いきなり食卓につくというのは、
お腹がどうしようもなく空いているときには、
とてもありがたく、それもモテナシです。
けれど、非日常的で優雅な雰囲気をたたえた
ダイニングホールにいきなり放り出されてしまうと、
気持ちがついていかないコトがある。
ウェイティングコーナーのようなところに一旦身を置き、
お店の優雅な空気をタップリ吸い込んで、
体と気持ちをなじませる。
ときに、そういう場所にはバーが併設されていて、
食前酒を味わい気持ちをあたためる。
ココのサロンはそういうステキに満ちた場所です。
食事をすませて、非日常から日常生活に戻るために
再びゆっくり時間を過ごすコトもある。
宇宙ステーションの減圧室のような役割を果たす
優雅なスペースで、のんびりとお客様を待つボクのために、
ソムリエがひとり、
何があっても対処しましょう‥‥、と
サロンの隅でずっと静かにスタンバイ。
少々、蒸し暑い秋の日でした。
シャンパンをたちまちグイッと飲み干して、
おかわりしようと指でそっと合図をしました。
人差し指をスッとたて、
ソムリエ氏と目があったことを確認しながら、
グラスを指でサッと指差す。
そうしてもう一度、人差し指を立てて
「おかわりください」と口の動きで伝えます。
シャンパンの瓶を手にしたソムリエ氏。
優雅に近づき、優雅に注ぎ、
シュワシュワとした泡が収まる音を待ちつつ、
そっと耳打ち。
「実は本日、ご予約がサカキ様のテーブルだけなのです。
存分にたのしまれてくださいませ」
‥‥、と。
そういうコトってあるのです。
なぜだかお客様がやって来ない日。
予約も不思議と入らない。
かと思うと、その翌日には入り切らないほどの
お客様がやってくる。
ご予約をお断りするような日があるかと思うと、
ノーゲストなんてコトもある。
それが飲食店という商売のおもしろく、
しかもナヤマシイところ。
毎日、毎日、同じ数のお客様が同じようにやってきて、
同じ料理を食べて帰ってくれるのであれば、準備万端、
思い通りのサービスと料理提供ができようもの。
人の手配や配置も毎日、同じようにすればいい。
経営だって安定します。
けれど、毎日、お客様の数が変わる。
食べる料理も変わるわけで、
つまり忙しさが毎日違うということになる。
異なる忙しさに合わせて働く人の人数、
レベルを変えるコトができればいいのに‥‥、という、
何世紀にもわたる飲食店を経営する人の思いが結実したのが
ファミリーレストラン的なレストランです。
マニュアル化され、
誰でも同じようにサービスや調理ができる。
だから忙しさに合わせて人員配置をできるからこそ、
彼らの儲けは安定し、チェーン化を可能にしたと
いえるでしょう。
でも、誰でもできるようなコト。
誰にでも作れる料理で感動が生まれるはずもなく、
だから上等なレストランでは
未だに全員正社員なんてコトが当たり前。
SNS系評価サイトには、
当然のように席数や営業時間に客単価という情報がある。
なのになんで、「スタッフ数」。
「内正社員数」という項目がないんだろう‥‥。
もしそういう項目があったとしたら、
もっとボクらの役に立つのに。
チェーン店の中には「登録スタッフ数200名」
なんてお店もでてくるでしょう。
でもその中の半分以上が週に1度しか働かない。
そんな働き方で、お客様の顔を覚えたり、
そもそも働き方をしっかり覚えるコトが
できるのかしら‥‥、と、不思議に思うコトがある。
と、ちょっと脇道に話がそれてしまいましたけど、
このレストランでは当然、全員正社員。
しかも全員男性スタッフ。
彼らは今日もフルスタッフで
お店に集まっているのでしょう。
たった4人のボクらのために。
いや、もし今日、予約がゼロであったとしても
突然やってくるかもしれないおなじみさんのために
全員、お店に集まり開店準備をするのでしょう。
あぁ、ありがたいなぁ‥‥、と感謝しながら
シャンパングビリ。
時計をみると、間もなく待ち合わせの時間です。
あぁ、今日はどんなワインを開けようか‥‥、
とワクワクしながらボクは待つ。
続きは来週。
物語は突然、姿をあらわします。
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