母との食事。
話は尽きず、昔に今にと話の種は行ったり来たり。
そういえば、最近、こんなコトがあったの。
どう思う? ‥‥と母が言い出す。
おいしいモノが大好きという友人がいて、
その人に連れて行ってもらったお店がとてもよかった。
イタリア料理のお店だったのだけれど、
この田舎にこんなお店が‥‥、
と思わせるほど洒落た雰囲気。
料理もおいしく、ワインの値段も適切だった。
なにより、お店をやっているシェフのご主人と
奥さんのサービスが絶妙で、
人柄を感じさせる温かいムードにたちまちファンになった。
ありがとう、
こんなステキなお店を紹介してくれて‥‥、と、
その日は感謝して別れたのだというのです。
便宜上、そのお店を紹介してくれた母の友人のコトを
「佐藤さん」としておきましょう。
それからしばらくして、
他の友人と食事をすることになった。
中国料理が好きな人たちで、
街中のいろんなお店に行くのがたのしみ。
でもたまには違ったタイプの料理もいいわねぇ‥‥、
サカキさん、どこかいいお店はないかしら。
そう聞かれたから、そうだ、
佐藤さんに連れて行ってもらった
イタリア料理のお店なんかどうかしら‥‥、
と予約の電話を入れたのよ。
佐藤さんに先日、連れて行っていただいて、
とてもいいお店だと思ったものですから
別のお友達を連れて行きたく思うのですが‥‥、と。
お店の方にもとても喜んでいただいて、
よろしければ特別料理をご用意して
お待ちいたしましょうと、トントン拍子。
会食も大成功。
いいお店ネ、さすがサカキさん‥‥、
って褒められたから、
佐藤さんっていうお友達から紹介してもらったのよって、
言うのも忘れず。
その中の一人がイタリア料理を好きなご主人と
今度は一緒に来てみたいと、
その場で予約をして帰るほどの人気に
ワタシもホっとしたのよ。
ホッとして、あぁ、そうだ。
紹介してくれた佐藤さんに、
お礼をしなくちゃと電話をかけた。
そこからちょっとした騒ぎになったの。
いきさつを簡単に説明したのね。
そしたら徐々に彼女の受け答えがぶっきらぼうに、
声が不機嫌になっていったの。
挙げ句の果てに、こう言うのよ。
「サカキさん。
ワタシの店になんでワタシにことわりもなく
予約なんかいれたの。
ワタシが紹介した店なんだから、
行きたいときにはワタシにまず連絡して、
ワタシから予約を入れるというのが筋じゃないの」
と、そう言いながらどんどん彼女、
怒りがエスカレートしていったんでしょうね、
サカキさんとは絶交よ‥‥、とまで。
佐藤さんから紹介してもらったとお店の人にも、
一緒に行って感心してくれたお友達にも
言うのを忘れはしなかったから、
佐藤さんの顔を潰すようなコトはなかった、
と言っても聞かない。
サカキさんはワタシから紹介してもらったって
ずっと言ってくれるかもしれないけれど、
サカキさんのお友達は、ワタシからの紹介じゃなくて
サカキさんに紹介してもらってって言うわよね。
もしそのお友達のお友達がその店に予約を入れるときは、
すっかりワタシのコトなんか忘れて
勝手に予約を入れてしまうに違いない。
そんなコトになったら、
一番最初に紹介をしたワタシの立場はどうなるの?
だから困るの。
予約はワタシを通してしてくれないと‥‥、と。
どう考えても理不尽なその考えに、
ワタシはすっかり切れちゃって‥‥。
あら、そうかしら?
そんなコトを言うなんて、
まるであなたはあの店の予約センターの人みたいね、
‥‥って、言ってやったわ。
それからずっと冷戦中。
でも、時間が経つに従ってもしかしたら
ワタシの考え方の方が間違ってるんじゃないか‥‥、
って不安になるほど、
彼女の言い方はさも当然という感じだったの。
ワタシ、間違ってないわよね。
だってレストランはみんなのモノ。
特定の人たちだけのものじゃないはずだから、
予約は自由にすればいいのよネ‥‥。
いつもは強気の母が、珍しく、自信なさげにいうこの問題。
実はボクも同じような経験をしたことがあって、
母の悩みは他人事じゃなく感じて
それで2人でいろいろ考えてみた。
飲食店は誰のものなのか。
紹介者の権利はどこまで守られるべきなのか。
食いしん坊にとってはかなり関心のある問題で、
2人の出した結論を、また来週のコトとしましょう。
また来週。
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