先日、ひさしぶりに母と食事をしていたときのコト。
あの調理実習の話をしてみたのです。
目玉焼きを作りなさいという課題に対して、
ハムエッグを作って叱られたんだよね‥‥、って。
母もそのときのコトは随分、はっきり覚えていたようで、
そうそう、あのときは担任の先生から
丁寧な手紙も頂いたのよ。
たしかこんな内容だった。
「シンイチロウくんは、誰にもない
ユニークな目線や発想の持ち主。
ときおり、ハッとするようなことを言ったり、
したりして、教える者が教わるようなコトがあります。
ただ、その発想を他に伝えることがまだ上手ではなく、
考えばかりが先回りしてしまう。
今回の調理実習の件も、
自分が作りたい目玉焼きの作り方を
正しく説明することができないことから、
結局、自分でみんなの分も作ってしまったのだろうと
推察します。
教科書通りにしなさいと言えば言うほど、
教科書とは違ったものを作るに違いなく、
むしろそのユニークな考えをのばしてあげるような
指導を心がけようと思います。
お母さまはぜひ、シンイチロウくんが
自分の考えを正しく伝え、説明できる力を育むよう、
ご指導いただけると助かります」
母は言います。
ユニークな発想はおおいに結構。
だってワタシの息子なんだから。
でも、その発想を正確に伝えることが
できなかったコトを指摘されたら、
謝るほかはないでしょう?
先生のおっしゃる通りですって
お詫びの手紙を書いたわよ‥‥。
そう言う母に、ボクは言いました。
「でもおかぁさんはボクに、
なんで同じ班の人たちの好みを聞かないで
自分の食べたい目玉焼きを作ったんだ、
って叱ったんだよ」って。
母の答えはこうでした。
説明不足と思ったら、人の意見を聞く。
聞けば、もしかしたらよい説明のきっかけを
つかめるかもしれない。
だから、なぜ、他人の好みを聞かなかったのと
言ったつもりだったのだけど、
伝わらなかったとしたらごめんなさい。
どんなに発想がユニークでも。
どんなに表現力が豊かでも。
説明する力がなくては、
人の心を動かすことなど出来はしない。
説明力に、人の気持ちを聞き出す力がともなって
はじめて人を説得するコトができるようになる。
説得する力は、大人になって仕事をするときに
とても大切な力だから、
それをあなたに身につけてもらえるようにと、
いろいろ愛のムチをふるったものよネ。
「例えば『愛のかまあげしらす事件』」
そう言うボクに、
「あれは傑作だったわねぇ」と母はひときわ大笑い。
それは父が出張でいない朝のコトでした。
いつも同じ目玉焼きとトーストの献立に
こだわる父がいない朝は、
炊きたてご飯に味噌汁、おかずという
日本らしい料理が並ぶ。
その日のおかずは卵焼きに菜っ葉のおひたし。
釜揚げしらすに大根おろしというものでした。
‥‥、にもかかわらずボクの目の前には
ご飯に味噌汁、卵焼きにおひたし、
大根おろしが入った器がおかれるだけで、
大根おろしの上に釜揚げしらすが見当たらない。
どうしたんだろう‥‥、と思っていたら、
小さなしらすがキレイに並べられた
大きなお皿がすっと出される。
母が言います。
あなたは、目玉のある魚はかわいそうだから
食べることができないそうじゃない。
だったらしらすも食べられないのかもしれないと思って、
別にしたのよ。
かわいそうで、食べないのだったら
私たちで分けて食べます。
どうしても食べたいのなら、
全部の頭をとってから食べなさいね。
頭をとりやすいよう、
キレイに並べておいてあげたから‥‥、と。
ボクが生まれて育った街は、瀬戸内海に面した松山。
魚が豊富な土地柄で、食卓に魚料理が日常的に並んでた。
刺身よりも煮魚、焼いた魚がメインで、
ブリや鮭、切り身になった鯛やカジキと
食べやすい魚に混じって、内海独特の小魚もよく供された。
骨から外して食べなくちゃいけない魚は面倒くさく、
けれど「面倒くさい」という理由で
それらを食べないことは、
子供ながらにちょっと恥ずかしく感じたのです。
それで思いついた言い訳が、
「頭がついた魚を見ると、目と目があって
可愛そうでしょうがなくなる」
というモノでした。
子供じみた言い訳を、
それでもお手伝いのタマ子さんは叱るコトなく、
ボクの分だけ身をせせり、
食べやすいようにして供してくれてた。
その過保護を苦々しく思った母が、
ならばしらすの頭もとって食べるの? と、
放った愛の一手がそれ‥‥、だったのでした。
謝りました。
すぐ謝るのは悔しいから、
10尾ほど頭をとって大根おろしの上にのせてから、
「ごめんなさい。面倒くさいから
変な言い訳をしちゃいました」と謝った。
お陰でいまでは魚を食べる名人クラスの箸使い。
とはいえ、言葉使いの名人になるには
まだまだ精進しなくちゃ‥‥、と、母と笑った。
また来週。
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